2021.8.20
君の声が聞こえない。聞こえるのは風と波の音だけだ。
君を失って僕は生きる意味を失ってしまったようだ。いるのが当たり前だった君なのに、僕らは運命を変えざるを得ない出来事がある梅雨の日に起こったのだ。
僕からすれば地球に隕石が落ちて恐竜が絶滅するくらい大ニュースになってもおかしくないような出来事が起こったのに、今日も世界は変わらずにさざ波を立たせ、風はザワザワと草木を揺らし、海を見れば船が海の地平線に消えていくのを確認できた。
「おい追われ身の兄ちゃん、まだ仕事残ってるぞ」
「はい!今行きます!」
僕は東京郊外から逃げてきた。ここがどこなのか明確には分からないが、海と陸の差が40mから50mある崖が有名な場所である。あまりの珍しさに観光客やカメラを持った人までここを訪れている。そこで僕は近くの喫茶店で雇われて何とかやっていけている。その喫茶店で住めていて苦はない。だが、夜になると君のことを思い出して枕を濡らす日は何度も何度もある。例え疲れていても、泣きながら眠りに落ちて夢の中でも泣いていた。
「兄ちゃん!彼女ちゃんの行方は知ってんのかい?」
僕を拾って雇ってくれたおっちゃんが作業をしながら話しかけてきた。
「それが知らないんすよ。逃げるときに家にスマホ置いてきたんで」
「ほー。なるほどな。兄ちゃん、誰かに追われて来たって言ってたけど、誰なんだい?言える範囲で言ってくれよ」
「ヤクザ」
「それ本当かよ?」
「いや、冗談」
「何だよ」
「故郷から駆け落ちして、警察からは追われてる」
「それは本当なんだな?」
「うん、警察は本当」
「そりゃ俺達も犯罪者か〜、面白い」
「それは犯罪者を匿ったら犯罪さ。でも僕らは犯罪だけはやっていない」
「ちょっとした事で帰りたくないんだろ?」
「まあ、そんな感じ」
「それならいつまでもここに居ていいからな?」
「サンキュー」
おっちゃんはそう言い残してお客さんの対応をした。
夜、海へ行く。昼とはうって変わって涼しい海風が肌に当たって僕の温度を下げた。
もし時を戻せるのなら、どこからやり直せば君と一緒に居られたかな?そんな事を思いながら崖から見える真っ黒い海を見つめた。
不意に彼女と海へ行った思い出が頭の中を過ぎった。雨なのに傘を持たずに海へ行ったこと。少し離れた場所まで電車で小旅行へ行ったこと。雨の中、貸し切りの浜辺で彼女を抱き締めてキスをしたこと。ここまでは正解の道を辿ってきた。
お金に困って借金をしてしまった僕らはついに借りてはいけない会社から借りてしまい、毎晩催促する人が狭いアパートに訪れていた。
そして、僕らは大雨の中離れ離れに逃げたんだ。
僕らが悪いんではない。世間が僕らの味方についてくれないから僕らは苦しまなければならないんだ。
僕はそう思いながら涙を流した。
次の投稿で最終話となります。
悔いが残らないような話を書き上げます!乞うご期待!!