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なつやすみ  作者: 書常時雨
10/16

2019.6.29

 真夜中に目が覚めて、何故だかスマホを開いていた。そして哀愁に浸り、過去の出来事を思い出していた。入試で遠くまで行ったことやクラスのみんなで3月に遊んだこと、放課後に居残って勉強したあの日々や夏休みにみんなで学校が閉まるまで勉強したこと。どれも楽しい思い出になっていた。その中でも特に浸ってしまったのは、8月の最後の日に彼女と別れたことだ。それに対してはおぞましいくらいに覚えている。そして彼女を傷つけた。

 そんな彼女は大学生になって大学へ通っていた。次の年でセンター試験が廃止されるにあたって安全思考が強かったにも関わらず、彼女は第1志望だった公立大へ合格した。

 「浪人生は感受性豊かになる」と、予備校の先生は言っていたがその通りになってしまった。俺は感受性豊かになり、少しのことで馬鹿みたいに喜んだり、センチメンタルになってみたり、地を割るかのように苛立ってみたり、とにかく感情は忙しかった。

 俺は部屋の電気をつけて窓を開けた。


 ずっと降り続いていた雨は止んで湿気を含んだ涼しい風が入ってきた。

 俺はその風を鼻から自分の身体に取り込んだ。また鼻から吐き出すと、今度は湿ったような生乾きの洗濯物のような匂いが鼻腔をくすぐった。

 曲を聴いてセンチメンタルになったあの空気に似ている。

 自分を奮い起こすことに必死でバラード調の曲を聴くことを止めていたが、今日だけは聴きたいと思い、現役の秋と冬頃に聴いていたあの曲を流した。

 部類はロックかもしれないが、ロックの中でもバラードと呼ばれるものだろう。聴いていてとても心地が良かった。あの人が忘れられなくて嘆いている曲だった。まさにあの頃の自分と重ね合わせて聴けた曲だった。

 彼女は今何をしているのだろうか?気になってしまい、SNSを覗いた。彼女は高校生の頃に使っていたアカウントを変えて新しいアカウントで、新しい生活を発信していた。

 そこには、俺の知らない男の人が写っていた。

 俺はコメカミを銃で撃たれた衝撃が走った。

 もう、全部夢じゃなかったんだね。

 俺の知らない人と俺に見せた顔をし、もっと長く付き合ったなら俺に見せたことのなかった顔を見せるんだね。

 彼女の幸せを願えない自分が情けなかった。本当に悲しいと涙なんか出ないんだ。そんな発見もあった。

 去年の夏、俺が恐れていたことは彼女が俺のものではなくなってしまうこと。それ以上に恐れていたことは、自分以外の人と幸せに過ごしていること。それが今、俺のスマホの画面に映し出されていた。

 俺は窓を開けっ放しにしながら部屋の明かりを消した。そして、咆哮をあげた。

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