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仮面達の舞踏会

夏のホラー2018に参加表明してたのに危うく何も投稿せずに終わるところだった...

楽しんで頂ければ幸いです。

「はぁ、憂鬱だなぁ」


会社からの帰り道、俺は車を運転しながらため息を何度も何度も吐いていた。

大きな会社のため、福利厚生がしっかりしているのはいいのだが。


「なんだよ、全員参加のパーティーって」


毎年行われる恒例の大規模なパーティーが開催されていて今年もその日が近づいてきた。

食べ物がタダ、お酒もタダ。

しかもちょっとした遊戯場まで用意されている有名なホテルで行われるそうだ。

だが俺にとってはこれが苦痛以外の何物でもなかった。

なんせ。


「俺、一人で行くから酒飲めないし。話相手もいないし...」


パーティー会場でボッチ。

かなり辛いものがある。

そりゃ同僚も来るし、仲が悪いわけではないからその人達と会話すればいいんだろうけど


「一人、外部の人間を誘っても可。ねぇ...」


お優しい会社様は社員全員にもう一人、外部の人間を誘うことを許可している。

大きな会社は太っ腹だね。

その太っ腹さが実に余計だね。

リア充な同僚達は全員相手を連れてくるに決まっている。

多少挨拶と雑談をした後は、


「あ、俺らイチャイチャしたいんでどっか行ってくれよ」


というような空気をかもしだしてくる。

ボッチにはパーティーという華やかな舞台で人権というものが存在しなくなる一例だ。

ひたすら食うか、飲むか。

それが出来ればいいんだが、知り合いは挨拶してきて


「あれ、誰かと一緒じゃないの?」


さも俺が誰かを連れて来れるのが当然という感じで話かけてくる。

ただひたすら食べる、飲むことすら許されないのがパーティーなのだ。

俺には誘う相手なんていない。

友達を呼べばいいじゃん!って?

友達もいない場合はどうすればいいんですか。


会社で働くようになって仕事終わりに何かするのが徐々に面倒になっていった。

一人、二人と減っていき見事に俺は真性のボッチに進化したのだった。

だからといっていままでは困っていたわけではないんだが。


「こういうとき、本当に困るよな」


ボッチだとパーティーへ参加するということは精神的苦行であって楽しいことでは無くなるのだ。

参加しなければいいじゃないかって?

そりゃバックレたいが今の会社に就職して5年。

会社主催のイベントはすべて拒否してきた。

それが上司にバレ、今回参加しなければ会社としても協調性の無さやコミュニケーション能力の欠落等を指摘しなければならないみたいなことを言われた。

要約すると


「次のパーティー、参加しなかったらお前クビな」


今の世の中協調性が大事なんだね。

周りと仲良く出来ない人は会社にいらないらしい。

困っちゃうね。

しかもパーティーには毎回テーマが存在するんだが今回はよりにもよって


『仮面舞踏会』


昔のお貴族様がやっていたようなことを何故今になってやる必要があるんだ。

21世紀を大事にしよう。

パーティーの案内には「別に強制ではありませんが仮面舞踏会のテーマにあった格好をしましょう」だと。

これはあれですね。

強制じゃないと高を括って適当な恰好で行ったら周り皆ばっちりキメてて一人だけ浮くパターンですね。


「はぁ...面倒くさい。仮面って何処に売ってるんだ?っていけね!降り口間違えた!」


ボーっとしていたら家に帰るための降り口を過ぎていたらしい。

しょうがないので次の降り口で高速を出る。


「こんなところで降りたことねぇよ。ここからどうやったら家に帰れるんだ?」


しょうがないので車を適当なところに寄せて携帯でルートを調べることにする。

今の世の中、携帯でナビが出来るようになって本当に良かった。

帰宅ルートを見つけ、車をまた走らせようと思ったところで


トントン


窓を軽くノックする音が聞こえてきた。

横を確認すると


「うわっ!」


仮面を被った人物が車の窓越しにこちらを覗き込んでいた。


「な、なんだよ?新手の変質者かなんかか?」


とっとと車を出そう。

そう思っていると窓越しから声がかすかに聞こえてきた。


「当店に御用のお客様でしょうか?」

「はい?」

「少々分かりにくい場所にございまして申し訳ございません」


何言ってるんだコイツ?

不思議に思っていると仮面の人物は自分の後ろを指さした。


『MASQUERADE、仮面専門店』


と書かれていた。

あ、なるほど。俺が店の前で止まって携帯で何か探してたから客だと勘違いして出て来たのか。

にしても仮面専門店なんてあるんだな。

どうせパーティーで何か適当なものが必要なんだし寄ってみるか。

この店員?は商売根性逞しいだけなのか、ただ薄気味悪いだけなのかは別として。

車のエンジンを切り、外に出て仮面の店員に話かける。


「すいません。今度仮面舞踏会がテーマのパーティーに参加するんですけど…」


こちらの要件を伝え終える前に仮面が目の前まで迫ってきた。


「ええ、ええ、ございますとも。当店ではそれこそお客様に合うピッタリの仮面を提供しております」


ち、近い。

表情が読み取れないせいもありドアップで仮面を見ると妙に落ち着かない。


「ではこちらへ」


と店内に案内された。

お店を開けるとそこには本当にありとあらゆる仮面がズラリと並んでいた。

シンプルな目と口が空いてるだけのものから金色の仮面から大きな羽が出ているものまで。

顔の部分が前と横で三つ並んでいるようなものまである。

いつ使うんだこんなの。


「凄いですね」

「ありがとうございます。当店で取り扱う商品はすべて一点ものとなっております」

「へー、さすが専門店」


今時こんなところがあるんだなぁ。


「仮面だけ売ってたら商売大変じゃないですか?特に今はハロウィンシーズンでもないですし」

「当店では本当に必要なお客様にしか仮面をお売りしていませんので」


答えになってないような。

やっぱり仮面を被って接客?しているだけあってこいつ変人だな。

とりあえずお店の中をもう少しフラフラと見て回る。

どれもこれも高そうだな。

そもそも仮面って普通いくらするんだ?

どうせパーティーで一回使うだけのものだから安いやつでいいんだけど。

何処にも値札らしきものが書いていない。

もしかしてこれってあれか?

値段とか気にしない金持ちだけが通えるお店とか?

とりあえず店員に聞いてみる。


「あの...すいません。仮面のこと何にも分からないで来ちゃったんですけど」

「はい、分からないことはなんでも私に聞いてください」

「ありがとうございます。じゃなくてその、お値段っていくらぐらいなんでしょう?」

「さぁ?それは仮面とお客様との相性にもよりますし、何より仮面に直接聞いてみませんとなんとも」

「え?」


相性?直接聞く?


「お客様でしたらこちらの仮面等如何でしょうか?」

「如何でしょうかってあの、値段は?」

「こちらの仮面を試しに被ってみてください」


と強引に一つの仮面を渡された。

質問に答えてくれない店員である。

とりあえず受け取っては見たものの仮面自体は目の部分だけが隠れる非常にシンプルなデザインだ。

とりあえずこれいくらか聞いて高かったらやめればいいや。


「この仮面いくらですか?」

「どうやらこの仮面ではないようですね」

「いや、だからこれでいいから値段」

「こちらの仮面は如何でしょうか?」


俺が持っていた仮面をひったくり、別の仮面をまた強引に持たせてきた。


「こちらの仮面は如何でしょうか?」


同じ言葉を繰り返しながら顔を近づけてくる。


「分かった!分かったから!ったく、パーティーで1回使うだけのやつなのに...」


手渡された別の仮面を見てみる。

今度のも顔が目の部分だけ隠れるタイプでなんか鼻が長いデザインで色は黒い。

さっきのとどう違うんだこれ?


「どうやらお客様にはそちらの仮面と相性が良いようでございます」

「はあ...」

「被ってみてください」


被ってみるが前回と何も変わらない気がする。

なんだよ相性って。


「やはりお似合いです」

「そうですか、じゃあもうこれでいいんで値段教えてください」


高かったらぼったくりだって言って店を出てやる。


「こちらの仮面は無料となっております」

「無料?」

「はい」

「本当に?」

「はい、本当です」


怪しさ満点なんだがそれは。


「本当に無料なの?後で金払えと言われても俺払わないよ」

「はい。その代わりと言ってはなんですが仮面を大事に扱ってください。当店の仮面はすべて生きておりますゆえ」

「へ?」


予想していた内容のものとは大分違うファンタジーな答えが返ってきたので思わず変な声が出てきた。


「ご購入頂く際には必ず、仮面を大事に保管して頂くための注意事項がいくつかございます」

「あー、なるほど」


ようするに仮面のメンテか。

たかが仮面に大げさな。


「こちらの紙に注意事項を記載させて頂きましたのでよろしくお願いします」


手渡された小さな紙には以下の内容が書かれていた。


MASK PANTALONE

1. 使用していない時は専用の箱に入れておくこと。

2. 何かあった際には当店に仮面を渡すこと。


マスク、ぱんたろーね?って読むのかなこれ。

仮面一つ一つに名前があるのか?こだわりすぎだろ。

すげー仰々しく書いてるけどようはちゃんと仮面を丁寧に扱えってだけの話っぽいな。


「とりあえずこれさえ守れば無料で貰えると」

「はい」

「本当に?」

「はい」


なんだかなー?


「じゃあ、これください」

「ありがとうございます、またのご来店をお待ちしております」


無料につられてつい買った?けどなんだったんだ今の。

車の助手席に例の仮面が入った箱を放り投げる。


「何が仮面は生きてますだ。くだらない」


とっとと帰ってとっとと寝よう。

家に着き、少し腹が減ったので昨日頼んだ残りのピザをレンジでチン。

そしてテレビで動画配信サービスで適当な番組を流す。

これこそがボッチライフの正しい過ごし方。

そういやあの時、結構適当に選んだが今になって本当にあの仮面でいいのか不安になってきた。

箱を開けて仮面を取り出す。

うん、やっぱり何がどう違うんだか分からん。

仮面なんてどれも一緒に見える。

とりあえず洗面所の鏡の前で仮面を被って自分の姿を確認する。

うん、普通だ。

いや、というよりも妖しいヤツだ。

こんなのパーティー以外でいつ使うんだ?

まぁ、タダだったしこれで一応パーティー用の仮面も手に入ったし。

はぁ、パーティー憂鬱だわ。

仮面を適当に放り投げてベットで横になる。


ピピピピピピピ


「ん?」


目を開けると真横には目覚まし時計が。

いつの間にか寝てしまったらしい。


「ってそうだ、仮面どこやった?」


放り投げた辺りを探すも見つからない。

例の仮面が入ってた箱も探すが無い。


「おっかしいな」


その後もしばらく探したが見つからなかい。


「まぁ、タダだったしいっか」


問題はパーティーのための仮面だ。

これからまた仮面だけ買いに行くのも怠い。

どうせ最初っから恥を晒しに行くだけのようなもんだし。

そろそろパーティーの時間なのでいろいろ諦め、仮面無しで行くことにした。


そしてパーティー会場に到着した俺はさっそく帰りたい気持ちでいっぱいになった。

会場は嫌というほど賑わっている。

皆が皆パートナー連れでシャンパン片手にどこぞの映画のワンシーンを再現している感じだ。

そしてやっぱり皆きっちり仮面。

素顔の人間が誰一人いない。

見渡す限り仮面仮面仮面。

皆やるんだったら強制とどう違うのか問いたい。

とりあえず酒を飲んでベロンベロンに酔っぱらえば気にならなくなるか?

あ、いや、帰りの車の運転しなきゃいけないんだった。

憂鬱な気分で周りを見渡してると


「おーい!」


と誰かに肩を掴まれた。

振り向くとそこには仮面で分かりにくいが同僚らしい人物が。


「よ、よう」

「お前も来てたのか!やっぱりパーティーは最高だな!」


お前にとってはな。

俺にとっては苦痛そのものでしかない。


「ま、お互い楽しもうぜ!」


とそいつが去って行こうとしたとき、去り際に


「あ、そうそう。その仮面似合ってるよ」


と言われた。

ん?

仮面?

結局仮面が見つからなくて探してたのに被ってるわけ...

携帯の自撮りモードで確認してみる。

やはり俺の冴えない顔だ。

出かけるときに無かったはずの仮面を俺が被ってるはずがない。

彼なりの皮肉の効いた冗談だったのかもしれない。

俺だってせっかく仮面用意したんだから被ってきたかったよ...


「よ、どうしたんだ?」


また別の同僚に声をかけられる。

やっぱり素顔だからバレやすいんだろ。


「どうだ、パーティー楽しんでるか?」

「ああ、やっぱりこういうパーティーっていいもん食えるしさ」

「食い気だけかよ」


あれ?

普段の俺ならまず間違いなく「お、おう」で返してるはずなのに。

スラスラと言葉が出てくる。

その後も別の同僚が挨拶しに来た時、軽く談笑しを繰り返す。

おかしい。

俺はこんなに人と話せる人間じゃない。

他の誰かが自分の体を無理やり動かしてる感じがして気持ちが悪い。

それに話す人話す人に


「その仮面、似合ってるよ」


と言われる。

しまいにはまったく知らないやつからも


「その仮面、似合ってるよ」


とすれ違いざまに言われる。

絶対におかしい。

俺は仮面なんか被ってない。

俺は俺の素顔のままだ。

誰か他の奴に声をかけられる前に急いでトイレへ駆け込み。


「なんなんだいったい」


トイレの鏡で自分の顔を確認する。

やっぱり俺の顔だ。

仮面なんか被ってない。

念のために俺の顔にも触れる。

やっぱり何にもない。


「そりゃそうだよな。どうせあいつらグルになって仮面が無い俺をからかってるんだ」


いくら会社のパーティーとはいえ、普段はあんなに俺に話かけてこないくせに今日はやたらと絡んでくるし。


「何が、仮面似合ってるだ。一回顔洗って帰るか」


ゴシゴシ


顔を手で洗う。


ポロッ


「あれ?」


なんか取れたような。

目を開けて確認してみる。


そこには俺を見下ろす形で仮面の男が立っていた。

あれ?何かがおかしい。

なんで俺は今、見下ろされてるんだ?

さっきまで顔を洗ってたから目の前には鏡がないとおかしいのに。

おかしいと思いつつその男の前からどこうとする。

動けない。

なんだこれ、金縛り?

顔すら横に動かせない。


「あ、いけないいけない。仮面が取れちゃった」


と男が俺の顔を見ながら言う。

仮面ってお前もう仮面つけてるじゃないか。

妙なことを言うヤツだなと思うがその仮面にどこか見覚えがある。

顔が目の部分だけ隠れるタイプでなんか鼻が長いデザインで色は黒い...って俺が買ったやつじゃないか。

あの店、全部一点ものだって言ってたくせに嘘つきやがって。


「おい、パンタローネ。何、こんなところで油売ってんだよ」

「ごめんごめん、今いくよ」


別の仮面の人物がトイレに入ってきて話かけてきた。

パンタローネ?確かあの仮面の名前だったっけ?

体が馴染まないってなんだ?

不思議に思っているとパンタローネと呼ばれた人物が俺の『顔』を持ち上げた。


どういうことだ。

ありえない現象が起きている。

俺の顔が仮面の男の手によって持ち上げられたのだ。

俺の体はどこだ。

どうして動けない。どうして喋れない。


「キミは仮面になったのさ。僕がキミの本物の顔になってね」


俺が仮面?

ふざけるな!

なんでこんなことになってるんだ!

それじゃあその体は俺の、俺の!


「さて、仮面舞踏会を楽しもうじゃないか」


そしてパンタローネと呼ばれた男は俺の顔を『被り』パーティー会場に戻る。

パーティー会場に戻るとそこには仮面をつけている人物が存在しなかった。

さっきまで皆が仮面舞踏会に相応しい姿だったのに。

誰もがただの人の顔になっていた。

そして聞こえてくる会話が奇妙なものだった。


「あなた、そちらのお面はどちらで手にいれたのかしら?」

「このお面は四十代の老紳士のものなのだよ。キミのはどこで手にいれたのかな?」

「私のは最近モデルで活躍している女性のものですの」

「俺のは会社の社長のものだぞ」

「やっぱり、皆さんの仮面も素敵だわ」

「お互い、せっかく手にいれたのに元になった顔を見せびらかす機会はそうそうないですしね」


おかしいおかしいおかしいおかしい。

誰か、誰か俺に気付いてくれ!

そう願っていたおかげなのか先ほど喋っていた同僚が話かけてきた。

やった!

気づいてくれ!

俺はこいつに仮面にされて…


「やあ、パンタローネ。さっきも言ったけどその仮面、やっぱり似合ってるよ」




如何でしたでしょうか?

楽しんで頂けたなら幸いです。

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