はじまり
「ふわぁー。今日も退屈だなぁ。」
まさに快晴。というべき特に風もなく爽やかな天候の中、西洋風の館の庭やバルコニー……ではなく、室内で椅子をカタカタと前後に揺らしお日さまの光を眩しそうに、しかしそれでいて恨めしそうに眺めている少女が一人。
……なんて物語の冒頭部分を想像してしまうほど、この私、館の主人……の妹の吸血鬼。『フランドール・スカーレット』は暇なのであった。
「あーもう! これで四日目よ! なんでこんなに天気が悪いのかしら!」
吸血鬼という種族は基本、日光に弱いので、たとえ、世間一般的に言ったら絶好のキャンプ日和でも、私からしたら最悪といっても良いほどの気候なのである。
特に日数的にはそこまで珍しいわけでもなく、普段ならイライラしないはずなのだが、私はイラつきを誤魔化すかのように『ガンッ!』とワザと椅子を倒して立ち上がった。そこまでは良かった。しかし、歩き出そうとした途端、ぐっと何かに後ろに引っ張られ体勢を崩してしまう。
「キャッ! イタタ……。」
服の端が洋イスの無駄に、とは言ってはいけないが突出している部分に引っかかってしまい、一緒に倒れることになってしまった……。自業自得である。
「はぁ……。らしくないな。今頃、地獄でみんなは何してんだろ……。」
つい一昨日まであんなに一緒に元気で過ごしていた紅魔館の仲間を思い出し、少し寂しくなる。今、私は紅魔館に一人きりだ。……というと時は五日前に遡る。今、私たちが住んでいる幻想郷全体を太陽の光が届かないほどの濃い紅い霧が覆う事件を起こした私の姉である『レミリア・スカーレット』はその責任をとり、自殺……。そのあとを追うようにみんなも自殺してしまった……。
……という悲劇的な訳ではなく。但し、地獄(実際は旧地獄と言うらしい)に行っているのは事実だが。
まあ、幻想郷にも色んな場所があり、色んな人がいるわけで。異変を解決するのは巫女と呼ばれるすごい強い人の役目だ。実際私もやられてしまった。
お姉さまが起こした紅霧異変はその巫女、博麗霊夢と、その友人の魔法使い、霧雨魔理沙にささっと解決されたわけだ。
閑話休題。何を急に突拍子もないことを。と思われるかもしれないが、私はつい先日まで地下牢に閉じ込められていた。
ただ、脈絡もなくこの話を切り出したのではない。
紅霧異変は私の為にお姉さまがやったことなのだ。
さらに、そもそも何故、私が地下牢に閉じ込められていたのかというと、能力が使いこなせなかったからだ。
幻想郷に住む一部の人、妖怪は何かしらの能力を持っていることがある。
お姉さまの能力は
『運命を操る程度の能力』
一方、私の能力といえば
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』
前に一度、私の能力が暴走し、逆にその能力に飲み込まれてしまい、暴れまわったことがあるらしい。
聞いた話と微かに残る記憶を頼りにすると、あのとき、私は全てを壊す事しか考えられず、紅魔館を全壊に追い込んだ。
それだけでは飽き足らず、あろうことか、お姉さまたちの生命にまでその刃を向けた……らしい。お姉さまたちは私の体を傷付けないように私であり私ならざるものを抑えようと必死に戦った。
けれども、力の差は歴然。
そのときの本気(今の本気だとしてもそれを超えられるかどうか怪しいレベル)を超える力を出していた私と傷付けないように手加減していたお姉さまたち。いくら多対一とはいえども条件は厳しい。
では、どうやってお姉さまたちが能力を鎮めてくれたかというと……。
そのことになると聞いても何故かお姉さまは頬を赤くしてそっぽを向き、話そうとしてくれない。
しかし、そのときのことだけははっきりと覚えている。あのとき、お姉さまは私の猛攻をくぐり抜け、私に殴られながらもハグをして言った。
「大好きよ、フラン……。私の大切な妹……。だから…………戻ってきて!」
最後の方は泣き叫ぶような声だった。
そのときの私は
“恐れていたのかもしれない。自分を拒絶されることを。”
“嬉しかったのかもしれない。自分を受け入れられたことが。”
……それで私は正気に戻り、強く抱きしめ返して言った。
「お姉さま……大好き。私、寂しかった……。」
喉の奥から淀むことなく流れるように紡ぎ出された言葉は当時の私の心境を余すことなく表していたのだろう。知らず知らずのうちに私は孤独を感じ、溜め込んでいたのだ。
あのときの私は誰にも構ってもらえず、一人、暗い部屋で遊んでいた。けれども、触れたおもちゃ、ぬいぐるみは壊れ、すぐにダメになった。そして徐々に周囲の人たちも距離を取り始めた。あのお姉さまでさえも。それと同時に私の心も崩壊していったのかもしれない。
「うん……。うん……。ごめんね。辛かったね。」
疲れ切っていただろうに、さらに言葉に答えるように強く抱きしめてくれたお姉さま。今でもそのことを思うと……。
「お姉さま……。」
私は知らず知らず当時の状況を思い出し頬が紅潮している自分に気がついた。恥ずかしい……。お姉さまがいなくて良かった……。っと、いけない。いけない。話を戻そう。
という経緯があって能力が抑えられるようになるまで私は地下牢に閉じこめられた。しかし私は寂しくなかった。お姉さまが前よりもすごく多く私と一緒にいてくれたからだ。
そして、ここ最近になって能力の暴走が完全に落ち着いたので外に出られたというわけだが、しかし、外はあいにくの快晴続き。早く私に外を見せたいと思ったお姉さまは紅霧異変を起こしたのだ。全く、妹思い過ぎる姉だ。と思いつつ、私は嬉しく思う。
紅霧異変の件はあっさりと和解という形で幕を引いたものの、その話の延長線上で巫女から地底世界なる存在を聞いたお姉さまは、
「そこなら太陽光もないし、いつでもフランが自由にできるの!?」
と想像もつかなかった反応に若干引き気味の巫女が
「えっ! (ちょっと!まさかこんなに食いつくなんて……) ……まあ、うん。不可能ではないと思う。
だけど……その辺りを支配している(個性的な)奴らがいるから……」
と返答。すると暴走した姉は、
「よし! 地底に乗り込むわよ!」
と言ってみんなを引き連れ出ていったのが一昨日の夜。
「あーあ。行っちゃったかー。どうなっても知らないからね。」
と昨日の朝、巫女こと霊夢が訪ねてきてすぐに去って行った。去り際に
「暇だったらまたくるかもしれないからー。……友達を誘って。」
と軽く言ったのだがそれを結構楽しみにしている自分がいる。
なんやかんやで、彼女とは仲良くなれそうだと思う。
そんな淡い期待を抱きながら倒した椅子を起こし、座り、相変わらず眩しい外を見る。
すると遠くに赤白の見覚えのある人とその後ろから追いかける何かにまたがった白黒の人が見える。私は部屋のギリギリまで駆けだし、
「霊夢ー!」
と声を大きくして言い、手をブンブンと振った。
「今日は楽しい一日になりそうだ!」
……なお、慣性で羽根が外に飛び出して日光に当たって少し焦げたのは内緒である。
いかがだったでしょうか?かなりの創作が混じっていたことだと思います。次回の内容は「突撃! 地霊殿!」になるかと思います。(予定は変更される場合もあります。)
投稿時期は未定なので
シンシア@小説家になろう
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