第02章 Hello world①
「ゲーム作り無理…訳が分からない…」
部屋の隅で、意気消沈して転がっている壱人が弱音を吐いた。
「光の速さで挫折したデスデスね」
マイナマイナが見下ろしながら呟く。壱人の余りの変貌ぶりに、河原で力強く『絶対に作り上げてみせる!』と言っていた人間と同一人物なのだろうかと疑うほどだ。
先ほど戻ってきたマイナマイナには状況がさっぱり分からなかった。出掛ける前の壱人とイッQはやる気に満ちていて、すぐにでもゲームを作ってしまいそうな勢いだったのだが、戻ってみると部屋は静まり返り、2人共、抜け殻のようになっていたのである。
事情を聴こうにも要領を得ない。壱人では話にならないと思ったマイナマイナは、質問の相手をイッQに変えた。
「一体、何があったのデスデスか?」
「そ、それは…」
質問された方はどう説明して良いのか分からず言い淀む。いつまでも答えが無い事に痺れを切らして、マイナマイナは次の質問をした。
「ゲーム作りはどこまで進んだのデスデスか?」
その問いにイッQは動揺したが、正直に答えるしかなかった。
「ま、まだ始まってません」
「は?」
「まだスタートラインにすら立っていないんです!」
その衝撃の告白を聞いても、マイナマイナは意味が理解が出来なかった。「まだ始まっていない」というのはゲーム作りの事なのか?かなり時間が経っているのに何故だろう?
「"Hello world"ができないよう…」
その時、壱人がうわ言のように呟いた。
「"Hello world"とは何の事デスデスか?」
マイナマイナが聞き慣れない言葉について尋ねる。
"Hello world"とは、画面に「Hello world」という文字列を表示するプログラムの事だ。プログラミング言語の入門書で最初に作る簡単なプログラムで、それが出来ていないという事は、つまり全く進んでいないのである。
さすがにおかしいと思ったマイナマイナは、さらに問いただす。
「では何故こんな状態なのデスデスか?」
その質問にイッQは弱々しく答える。
「ゲーム作りの準備=開発環境の構築でこうなったんです」
そして「なぜなら」と続け
「開発環境の構築は、初心者にとって『最大の難関』だからです!」
と言い切った。
プログラムのプの字も知らない人間に、一般人は一生見る事が無いであろう環境変数画面で、新しく変数を作ったりPATHを設定させるという難易度の高い作業をさせる事自体おかしいのに、それができる事を前提に話が進み、しかもそれをしなければ絶対に先に進めないのだ。
「一番やる気のある時に躓くから、ダメージが大きいんですよ!」
しかも最悪の場合、他のソフトまで動かなくなる危険まである。
「例えるなら、船を手に入れる為にはカー〇ベルトを泳いで超えろと言われているくらい無茶振りなんですよ!」
「ワ〇ピースで例えられても困るので、きちんと説明して下さいデスデス」
そう言われてイッQは今までの経緯を話し出した。