第09.5章 悪霊さんいらっしゃ~い第8回
------------------------------------------------------------
この文章は「小説家になろう」サイトに投稿した文章です。それ以外のサイトで掲載されていた場合は無断転載の可能性がありますので、通報をお願いします。また著作権は「屑屋 浪」にあります。ご協力、よろしくお願いします。
------------------------------------------------------------
ゲーム作りの合間、壱人とイッQは、マイナマイナにより問答無用でいつもの不思議な空間に連れてこられた。
しかし到着してみると、不思議な空間は普段と違う白を基調にしたセットになっており、既に三人の人物がテーブルの向こうに座っている。
一人は顔のパーツが少し中心に寄っていて、目や口元は笑っているのになぜか睨まれているような顔つきの、暗めの色合いのジャケットとシャツを着た人物で、もう一人は三人分の幅がありそうな巨体を有し、ドレスを着てキツめのメークをした人物だった。そして少し離れて柔和なアナウンサーが控えている。
メインの二人の前には、烏龍茶と思われる透明感のある薄茶色の飲物がコップに入っており、ストロー付きでテーブルの上に置かれていた。
これはあのトーク番組の形態だとイッQは思ったが、マイナマイナに尋ねようとしたところ、静かにするようにと口を指に当てた動作で示唆されたので、その通りにした。
マイナマイナも含め、壱人もイッQも観覧席に座っており、何をするでもなかったが、目の前には出演者と同じようにモニターが用意されていたので、それらを物珍しく覗き込んでいるうちに本番が始まった。
まずモニターに視聴者からのメールが紹介される。モニターの中には、光のさす天空に向かって階段が伸びており、画面の左下にラッパを持った小さな天使がいた。天使がラッパを吹くとそこから文字が飛び出し、それを女性ナレーターが読み上げる。
*************************************
36歳・ゲーム開発者からのメール
どうして偉い人は、もっと早く言えばいいのに
ゲームが形になってから、作り直しをさせるのでしょうか?
*************************************
そこで画面が切り替わり、笑っているのに睨まれているような人物をデフォルメした味のあるイラストが表示され、少々声の高い男性のナレーションと数枚のイラストで、状況の説明が始まった。
*************************************
ゲームを作り始める時に、偉い人から「こういう感じにしたい」と色々な提案が出されました。
無茶だと思いながらも、言われた通り、全ての要素を詰め込むために頑張りました。
特にプログラマーは、システムの整合性が取れなくて、何日も徹夜しながら試行錯誤してくれたのです。
そうやってできたものを偉い人に見せたら「これじゃあ、面白くない」と言って作り直しになりました。
進捗は細目に報告しており、どんなものができるかは予想できたのですから、修正するならもっと早く言えば良いのに、どうしてゲームが形になってから、ひっくり返すのでしょうか?
*************************************
メールの内容を受けて、笑っているのに睨まれているような顔つきの人物が、あるあると同意した。
「あるよね。こういう事」
隣のドレスを着た人物に笑いながら話しかける。
「話を聞いた時に、既に無理だろ?って案件ね」
ドレスを着た人物も同意する。
「でも、できないって言えないしね」
「言ってもやれって言われるし」
「言われるね」
過酷な内容だが、まるでその状況を楽しんでいるかのように笑いながら話が進んでいく。
「無理してやってみても、面白くないって言われてね。あれ、ガックリくるよね」
「あなたもあるの?そういう事」
ドレスの人物が、笑っているのに睨まれているような顔つきの人物に問いかける。
「ありますよ。頑張っても頑張っても滑るばかりで、どんどん空気が冷えていく事が」
そう答えて続ける。
「こういう時は本人たちも気づいてるのよ。これ面白くないなって。でもどうしようもないの」
「目の前の事に精一杯で、面白くする余裕なんてないのよね」
「それでも途中で止めるわけにいかないから、最後までやるわけよ。で、やっぱり面白くないの」
自嘲なのか笑い飛ばしているのか、腹を抱えて笑いながらそう答える。
「向こうからしたら、考えていたのと違うって事なんでしょうけど」
「こっちは必死で条件クリアしたんだぞってね」
そこで話が途切れ、ドレスの人物が少し話の方向を変える。
「進捗は報告してたんでしょ。なんでもっと早く言ってくれないのかな?」
「形にならないと分からないんじゃない?最後に上手く絡み合って面白くなるっていう可能性もあるわけで」
「確かにそうね」
そこでドレスを着た人物が、また別の疑問をぶつける。
「でもゲームがほとんどできてるのに、ひっくり返すのも大変な事だと思うの」
そう言って理由を説明する。
「だって時間もお金もかけて、ある程度、形になってるものを作り直すのよ?発売日が伸びたりしたらさ、いろんなところが困るでしょ?」
笑っているのに睨まれているような顔つきの人物は、それを聞いて間髪を入れずに答えた。
「何も考えてないんじゃない?」
「そっち?」
「そっちそっち。だって偉い人だもん」
ケラケラ笑いながらそう付け加えられ、ドレスの人物は溜息をついた。
「じゃあ、駄目じゃん」
「そういう人に当たったら諦めるしかないよ」
そこでまた話が途切れ、二人はまとめに入った。
「でもそのゲーム面白くなかったんでしょう?」
「面白くなかったんだろうね」
「じゃあ作り直すってのは仕方ないにしてもよ、その分、いろいろ補充して欲しいわよね」
「そうだよね。ものを作るってのはそんな簡単な話じゃないんだから、それも見込んでおけよと」
「もっと予算と時間を寄こせって話よね」
「結局ね」
「そういう事でございます」
そこで話は終わり、画面の右下に結論が出た。
『マ〇コ有〇的には
ひっくり返してもいいけど、その分の予算と時間を寄こせ』
それが出ると、メールの主と思われる悪霊が浄化されて天に昇って行った。二人の結論に満足したようだった。
番組が終わると同時に、壱人たちは元の部屋に戻っていた。すぐに壱人とイッQはマイナマイナに疑問をぶつける。
「俺ら見ているだけでしたが、あそこにいる必要があったんですか?」
実際のところ、壱人もイッQも、マイナマイナでさえも、唯、見ているだけだったからである。しかしその質問にマイナマイナはさらりと答えた。
「本当は私たちが出演者だったのデスデスが、キャラがブレて上手くいかなかったので変更したのデスデス」
「いえ、そういう本当の事が知りたかったわけではなく…」
「やはりキャラがブレるのは良くないのデスデス」
戸惑う壱人とイッQを置き去りにして、マイナマイナの言葉でコーナーは締めくくられたのだった。