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第09章 ストーリーを考えよう②

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この文章は「小説家になろう」サイトに投稿した文章です。それ以外のサイトで掲載されていた場合は無断転載の可能性がありますので、通報をお願いします。また著作権は「屑屋 浪」にあります。ご協力、よろしくお願いします。

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 壱人の頭の中のぼんやりとしたストーリーを形にする為に、イッQは最初の質問を投げかけた。


「お前はこの話で何が書きたい?」


「どういう意味だ?」


 質問の意図を理解できず不思議がる壱人にイッQは説明する。


「ストーリーを作る上で、お前は何が重要だと思ってるかって話だ」


 努力する姿や、あきらめない心、またはライバル同士に芽生える友情、熱い対決シーンなど、ストーリーのテーマになるものだ。


「こんな感じにしたいってのが何かあるだろう?」


 なぜこんな質問をしたのかというと、書きたいものがはっきりしているとストーリーの完成形がイメージしやすく、そして完成形が分かっていれば迷った時の道標みちしるべになるからだ。


 しかしその質問に対して、壱人はほとんど考えずに答えた。


「ミッQが可愛ければそれでいい!」


 期待していた答えと違い、イッQは拍子抜ひょうしぬけしてしまった。そしていぶかしげに壱人に問い掛ける。


「お前、もしかして書きたいものは特にないのか?」


 そう言うと壱人は強い口調で反論した。


「書きたいものはある!背景に花が咲いてるような女の子同士の空気感や、女子特有のカップルとは違う仲睦なかむつまじい姿、そして、ほんわかという表現がぴったりないやしのある優しい世界!」


「………」


 考えていたものと違うとイッQは思った。あらすじではミッQがカードバトルで世界を救うという内容だったので、シリアスな話だと思っていたが、どうやらコメディだったらしい。驚いたものの、なんとか思い直し、頑張らずに世界を救う感じのやつだなと認識を改めた。


 壱人の言ったテーマはかなりかたよっているが参考にはできる。今回のゲームに出てくる台詞やト書きは、情報量が少ないので詳細な設定を作っても伝えきれないとは思うが、見えない所も作り込んだ方が良いのは確かだ。


 その一方で、10年前の自分はこんな人間だっただろうかとイッQは頭が痛くなった。その時々に観ているアニメに影響されやすいから多分そのせいだろうと、なんとか自分を納得させて次の質問に移る。


「それで例えばどんなエピソードを考えてたんだ?」


 この問いに対して、またも壱人はキョトンとした表情である。


「え?なんか勝った時や負けた時に、いろいろあるんだよ」


 内容がなさ過ぎて、イッQは目の前が真っ暗になった。


「具体的に思い付かないって事は、そういうシチュエーションにあこがれてるだけで中身はないのか?」


 やりたい事は推測できるが、中身がともなっていない作品は内容が薄くてダラダラとした印象になる。何故そう感じるのかは分からないが、とにかく心に響くものがなく、満足感もなく、心の浄化もない。あまつさえ批判すら出てこないものもある。


 様々な作品の良いとこ取りをしようとして失敗するような危機感をイッQは抱いたが、しかし壱人はそれも否定した。


「違う、頭の中に話はできてる!でも書こうとすると煙みたいに形を失ってしまうんだ!」


 そうは言っても何も出てこなければ意味はない。どうすれば壱人の考えているものが形を持つのか、きっかけになるようなものは何かないだろうかとイッQは頭を悩ませた。


 しばらく考えたが焦りが先行するので、気持ちを落ち着かせるために深く呼吸する。その時ふと壱人から貰った設定が目に入った。ストーリーとは関係のない細かい設定がいろいろ書かれており、良くこれだけ訳の分からないものを考え付くものだと思っていたが、これだけの数が出ているという事は、キャラクターに関してはアイディアが出やすいという証ではないか。だとしたらその辺りから始めてみようと閃いた。


「まずはキャラクターを掘り下げようか」


 キャラクターの個性を際立たせ、性格を確立すれば、自ずとエピソードも出てくるだろう。イッQはできるものから一つ一つ解決していく事にした。


「最初は主人公のミッQからな。設定では、明るく前向きで頑張り屋。困っている人がいると放っておけない優しい性格、と」


 壱人のあらすじでは、ミッQが旅をしながら深赤薔薇の少女と対決して世界の危機を救うと書いてある。


「それで、どうして旅に出たんだ?」


「なんとなく」


「殴るぞ?」


「だって旅に出ないと話が始まらないじゃないか!」


 壱人がふたもない事を言い出したので、イッQは応酬した。


「そのキャラ独自の状況を考えろって言ってるんだ!」


 しかしそれを聞いた壱人は何が問題なのかというように質問してくる。


「その辺ってどーでもよくないか?」


 疑問に思う壱人にイッQは力説した。独自の状況はキャラクターの動機を作るために必要なのだ。そして動機はキャラクターを動かす上で大切な要素である。それによってキャラクター目線でストーリーを進める事ができるからだ。


 逆にストーリーにキャラクターを合わせると、話の流れによって行動がコロコロ変わり、突然心変わりしたか、何も考えてないように見えるので共感できなくなる。さらにはその状態のまま、御都合主義で主人公が意味もなくモテたり勝負に勝つという展開で、もっと興醒きょうざめしてしまうのだ。


「そして、そういう要素を端折はしょるとキャラクターの存在感がどんどん薄くなり、話を進めていくうちにただの進行役になって、『コイツなんで主人公なの?』と思われるようになり、魅力的なサブキャラでも出てこようものなら、『このキャラ必要ないんじゃないか?』という扱いになってしまうんだよ!八方美人系の主人公にありがちだ!」


「怖ぇ!!」


「そうだろ!だからちゃんと考えろ」


 独自の状況が必要な理由に納得した壱人は、早速考え始めたものの、意識していなかった部分だけに何もアイデアは思い付かなかった。仕方なく頭に浮かんだものを適当に呟く。


「じゃあ交通事故に遭って気付くと異世界にきていた」


「よくあるラノベの始まり方、止めろ」


 そのアイデアをイッQはすぐに拒否した。拒否された壱人も分かっていたのか、ショックを受けた様子もなくすぐに代案を出す。


「手伝い用のロボットを買ったら、謎の美女のメッセージが入っていて、それを近所の最強老人に伝えに行ってる間に家を焼かれて、否応もなく旅に出るってのは?」


「それ『ス〇ー・ウォーズ エピソード4』だろ!しかも内容が過酷すぎて、お前の望む癒しのある優しい世界にはならないぞ」


「冗談だよ」


 壱人はふざけるのを止めて、次はまじめに考える事にした。


「じゃあ不思議の国のアリスがモチーフだから、謎の白ウサギを助けたら異世界に導かれた、は?」


 これも何千何万回と使い古された設定だが、既に定番となっているし、今回のミッQの設定とも合いそうだったので、イッQは採用する事にした。


「ミッQはこっちの世界からゲームの舞台になる世界に来た。だからその世界については白紙の状態で始まる、と。それでウサギのせいでバトルに巻き込まれるんだな」


 主人公が何も知らないので、主人公が質問する形でカードバトルの説明もできるとイッQはチュートリアルの事も考えていた。これで導入部はなんとかなりそうである。


「ミッQの最初の目的は自分の世界に帰るって事でいいか?その後、この世界を知っていくうちに深赤薔薇の少女やその世界を救う事に変化していく」


 立ち位置が分かれば、それをもとに行動を決める事ができるのでキャラクターを動かしやすくなる。


「素材は“アリス”ミッQのつもりだったんだが、世界を救うならヒーローっぽい“勇者”ミッQの方がいいんじゃないか?」


「そうなんだけど、やっぱり“アリス”の方がイメージに合っているんだよな」


「ああ、そうか。ミッQが可愛いのが重要だったな」


 イッQや壱人の言っている“アリス”や“勇者”とはミッQのバリエーションの事である。他にも色々用意されており、シチュエーションによって使い分けができるのだ。


 そんな話をしていたら壱人が疑問を口にした。


「でも現実世界から来たんだろ?なんでそんな衣装なんだ?」


 言われてみればとイッQも思ったが、アニメや小説などの何百という創作世界に触れているので、すぐに解決策を思い付く。


「異世界に来た時点で、勝手に衣装が変わってたって事にすればいいんじゃないか?」


「なるほど」


 その後も設定を練っていく中で、ミッQ素材の中にはウサギがないため、主人公を異世界に導く動物をウサギからネズミに変更したり、細かい部分を加えて主人公の大体の設定が決まった。


 次に壱人とイッQは、深赤薔薇の少女の事を話し合った。


「無表情で只ならぬオーラを発している。実は亡国の姫で、周りの冒険者は家臣。冷たいようだが家臣や弱い者には手を差し伸べる優しさを持つ。しかし感情の出し方が不器用でぎこちない、と」


 イッQが設定を読み上げて確認する。


「深赤薔薇の少女は国を滅ぼされ、国を再建するための旅をしている時にミッQに出会うんだな?」


「そう。で、最初は深赤薔薇の少女がミッQを助けるんだけど、お互いに正体は知らないで仲良くなっていくんだ」


 その後、ミッQの事を敵側の人間だと誤解したり、持っているカードを奪う為に対立するのだと壱人は説明した。


 イッQにとって深赤薔薇の少女は、自身に課した使命や守りたいものがはっきりしているお蔭で、主人公のミッQよりも把握しやすかった。だからすぐに話し合いは終わると思っていたのだが、設定を考えている内にイッQは一つの疑問が湧いた。


「深赤薔薇の少女の国を滅ぼした敵って何だ?」


「なんか巨大な悪だよ」


「もの凄くふわっとしてるな!」


 またしても抽象的な表現をされてイッQは困惑した。敵役と言うのはストーリーにとって実はかなり重要なのだ。これがしっかりしてないと最後がグダグダになって終わる事が数多くある。


 変に複雑にしたり、奇をてらいすぎて、最後は誰が敵なのか分からなくなったり、結局人間が悪いで強引にまとめたり、問題を解決しないまま皆仲良くなって終わるなど、風呂敷を広げるだけ広げて答えを出さない最終回に、何度、肩透かしを食らった事か。それなら勧善懲悪の単純明快な話か、ほのぼの日常系の方が良いとイッQは個人的に考えていた。


 今回はミッQと深赤薔薇の少女の対決がメインなので、その敵はほとんど出てこないが、それでも曖昧あいまいすぎる設定に不安を感じたイッQは壱人に確認する。


「深赤薔薇の少女の国を滅ぼしたのは、同じ世界の人間なのか?それとも異世界からの侵略者なのか?」


「うーん、どっちがいいと思う?」


 壱人は特に決めていなかったらしく逆に質問してきた。それならと、今までの状況や完成のイメージを考慮しながらイッQは答える。


「同じ世界だと過去の歴史やしがらみが出てくるから、分り易くしたいなら異世界からの侵略者の方がいいんじゃないか」


「じゃあ、それでいいや」


 こだわりがないため壱人はあっさり承諾した。若干の不安を覚えつつも次の質問に移った。


「それで、なんで国を滅ぼしたんだ?」


「考えてない」


「殴るぞ?」


 この後なんとかアイデアを絞り出し、敵はあらゆるものをカード化できる事、強力なカードを作るために深赤薔薇の少女の国を滅ぼした事、カード化が進むと世界が崩壊してしまう事など、いろいろ肉付けして敵の設定も落ち着いた。


 このような裏設定も含め、数時間の話し合いの末、なんとか大筋のストーリーが完成したのである。後はイッQが台本のたたき台を作り、壱人が監修する事になった。


 数日後、イッQは第一案の台本を壱人に見せて感想を尋ねた。


「こんな感じでどうだ?」


「うーん、ちょっと違うんだよな。深赤薔薇の少女は、責任感が強いせいで皆の前では感情を出せないんだよ。国を背負うという重圧で無表情になってるけど、感情がないわけじゃないんだ」


「分かった。書き直すよ」


 第二案。


「これだとどうだ?」


「今度は深赤薔薇の少女が優しすぎる。これだとデレた時のギャップが弱くなるよ」


「なるほど」


 第三案。


「二人の絡みはこんな感じでどうだ?」


「もっとイチャイチャが欲しい」


「殴るぞ?」


 第四案。


「お前の意見を反映したぞ」


「お、良いんじゃないか!」


 ようやく壱人の了解を得られてホッするイッQの前に、マイナマイナが現れた。


「深赤薔薇の少女は私がモデルなのデスデスよね?」

 

「…はい」


 恐る恐るイッQが答えると、マイナマイナは台本を読み始め、そして最後まで読むとこう言った。


「やり直しデスデスね。気高さがほとんど表現されていないし、清廉せいれんさや聡明そうめいさも足りないのデスデス」


「これはモデルにしただけでマイナマイナさん自身ではないですよ!」


「それからピヤちゃんが出ていないのデスデス」


「いや、ピヤ號は出ませんよ?」


「ピヤ!ピヤ!」


「何でお前までダメ出しするんだよ!」


 いろいろとあらがってみたもののマイナマイナには通じず、ヒヨコのような何かであるピヤ號の出演も含め、この後、さらに何稿もの修正が入ったのだった。


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