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第08章 そのゲームは絶対に買うな②

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この文章は「小説家になろう」サイトに投稿した文章です。それ以外のサイトで掲載されていた場合は無断転載の可能性がありますので、通報をお願いします。また著作権は「屑屋 浪」にあります。ご協力、よろしくお願いします。


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 『Treasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!』とは、大手ゲーム会社から発売されたネット対応の家庭用アクションアドベンチャーゲームである。


 トレジャーハンターとなり、広大な宇宙を冒険しながら宝探しをするゲームだ。様々な惑星のトレジャーフィールドに隠された(トレジャー)(ボックス)を、モンスターを倒したり、仕掛けを解いたりしながら見つけるのである。


 メインストーリーは、古の大海賊の地図を手に入れた主人公が、ハンター仲間や、ライバル、謎の人物、教団の親衛隊と、対決や協力、時には駆け引きをしながら、幻と言われる秘宝を手に入れるという内容だ。


 だが遊び方はそれだけではなく、サブクエストやデイリークエスト、季節に合わせたイベントクエストが用意されており、フリーのトレジャーハントでタイムアタックやランク上げ、ゲーム内通貨であるクリスタルマター(以後CM)稼ぎなど、まさにトレジャーハンターになって自由にプレイできるようになっている。さらにネットに繋ぐことにより、全国のプレイヤーと協力プレイができるなど、多様な遊び方が用意されていた。


「普通に面白そうなんだけど、もしかしてク〇ゲーってやつか?」


「いや、その反対だ。もの凄く面白い!」


「だったら、なんで買ったらダメなんだ?」


「面白いからダメなんだ!そればっかりやってゲーム作りをしなくなるんだよ!」


 イッQの強硬(きょうこう)な態度を見て、壱人にはそこまで警戒する意味が分からなかった。


「大げさなんだよ。SFと西部劇を混ぜたような世界観は好きだけど、アクションゲーム自体あまり得意じゃないし、すぐ飽きるって。メニュー画面の操作方法とかイベント関係の画面を参考にするだけだよ」


「俺だってそう思っていたさ。けど現実は違うんだよ!アクションゲームが苦手な人間でも楽しめるように工夫してあるんだ!」


 イッQはさらにこう言った。


「大体キャラクターメイキングが豊富過ぎて、お前はキャラクターを作るだけで一週間かかるぞ!名前だけでも三日使う!」


 Treasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!のキャラクターは3Dモデルを使っているので、かなり自由に作れるようになっていた。身長や体型はもちろん、目、鼻、口、髪型も個別に選べ、さらに衣装も冒険服から、様々なジャンルの服、あらゆる制服、豪華な礼服に色とりどりのドレス、水着、レトロな服装から肌と一体化したような未来のスーツ、そして猫耳や尻尾、羽などコスプレのようなものまで揃っている。肌の色も、通常の人間の肌以外に、ピンクや緑、金や銀などのメタルな色も選択できた。また、機械生命体も存在しているので、全身金属のロボットのような形状にもできるのである。


 攻撃方法も様々で、打撃系、剣系、弓系、槍系、銃系、魔法系などが選べ、その中からさらに近距離、中距離、遠距離、一点集中、一方向貫通、広範囲など、距離や範囲別に武装が用意されていた。


「こういう設定好きの心を刺激するようなものがいっぱいあるんだよ!」


「それは確かに危険かも…」


 壱人は思い当たる節があり、イッQの心配がなんとなく分かってきた。


「名前と外見を決めれば良いだけなのに、何故そんなに時間がかかるのデスデスか?どうせ後で外見は変わるのデスデスから、迷うのなら最初に出ているキャラクターを選べば良いのデスデス」


 話を聞いていたマイナマイナが不思議そうに問いかけてきた。その質問に、それはとイッQが答える。


 大抵のプレイヤーは、キャラクターに自分の名前やあだ名など、自分に関係のあるものを付け、外見も自分に合わせたり、気に入っている服装にして、自分の分身を作る。つまりゲームの中に自分が入り込むという感じだ。


 しかし中二病を(こじ)らせた設定好きは、まずキャラクターがその世界でどのようにして生まれ、育ち、生きてきたかを考える。両親はどんな人たちか?幼少期はどんな感じだったのか?性格は?友人関係は?ゲームの開始時までどんな生き方をしてきたのか?そういう事を決めるのだ。ゲームの世界観を壊さない程度に小国の王族にしたり、秘めた力を持っていたりするのも好きである。当然、その設定によって服装や装備が変わるので、凝れば凝るほど時間がかかるという訳だ。


 それを聞いたマイナマイナが新たな疑問を口にする。


「それは何の役に立つのデスデスか?」


「全く役に立ちません」


 イッQは即答した。これは自分の中だけの話であり、どちらかというとプレイスタイルが制限されるので、かえって面倒くさいのだが、それなのにどうしてこんな事をするのかというと、設定がないと落ち着かないのが設定好きの(さが)というものなのだ。


「それはいつもの事だから仕方がないとしても、その後だ!」


「いつもこんな事してるのデスデスか?」


 マイナマイナが(あき)れて(つぶや)く中、イッQはさらに話し続けた。


 Treasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!では、宝箱から出てくるアイテム以外にも、フィールド上で『素材』というものが手に入る。鉱脈で鉱石を掘り出したり、川や海で魚を釣ったり、倒したモンスターから出てくる素材もある。集めた素材で、武器や防具の作成や強化ができたり、通常では手に入らないアイテムを作る事ができるのだ。また、はぐれ宝箱にレアなアイテムが入っている場合もあるので、アイテム収集を重視しているプレイヤーはフィールド内を隈なく探索したりする。


 見つけたり作成したアイテムは図鑑に記録され、それを埋めるのもコレクター気質の人間には楽しいのである。


「お前、図鑑埋めるの好きだろ?」


「た、確かに…」


「そんな要素があるのデスデスか」


 マイナマイナが図鑑という言葉に反応したが、イッQと壱人は問答していたので気付かなかった。


 また、トレジャーフィールドの他にプラザフィールドというものがあり、その中の市場、ギルド、闘技場、遊戯などの施設で、アイテムの売り買い、CMを使った遊びを楽しむことができた。


 他にも、自分の宇宙船は内部を好きにコーディネートできるようになっており、正当派のSF系からナチュラル、モダン、シンプル、カジュアル、クール、クラッシック、和風、アジアン、カントリー、ゴシックなどプレイヤーの好みでまるで違う内装にできるのだ。このコーディネートに使う調度品は市場で買ったり、手に入れた素材で作るので、作りたいものがある場合は、そのためだけにトレジャーハントをする事もある。


「話を聞くだけで楽しそうなんだけど」


 壱人が素直な感想を言った。


「だから楽しいんだって。一人でプレイしてもやり込み要素で充分楽しめるようになってるんだよ」


 さらにネットの協力プレイは、普通はチャットをしながら和気あいあいとプレイするのだが、ストイックモードを選ぶと、定型句の挨拶のみですぐにハントに出かけ、余計な会話は一切なしでできるため、人見知りの激しいイッQでさえ、何度か協力プレイした事があるのだ。


 最後に、とイッQの声が大きくなった。


 イッQがTreasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!にハマった一番の要因である、DIYトレジャーフィールドについて説明した。


 DIYトレジャーフィールドとは、プレイヤー自身が作るトレジャーフィールドの事だ。ギミックや、モンスターを購入し、それを配置してオリジナルのトレジャーフィールドを作るのだ。ネットに繋いでサイトに登録すれば、他のユーザーも遊ぶ事ができる。


 地面を埋め尽くすほどのモンスターが配置されたもの、ヒントが一切ない謎解き、少しでもミスするとゲームオーバーになるシビアなフィールドなどが作られた。


 本来なら、ゲームを遊び尽くしたプレイヤーへのおまけ要素だったのだが、フィールド作成に才能のあるプレイヤーがいたおかげで、公式では考えられない上記のようなフィールドが次々に作られた。プレイヤーへの配慮など全くない乱暴ともいえるそれらのフィールドは、公式では物足りなさを感じていたプレイヤーから歓迎され、一気に主流の遊びとして認定されたのだ。


 DIYトレジャーフィールドは、プレイした人数に応じてCMが貰えたり、遊んだプレイヤーからお礼のアイテムやCMをプレゼントされたりするが、ある程度ゲームを進めているプレイヤーには、それ自体に大した価値はなかった。やはり他者からの賞賛や評価が大きな目的で、そのためにフィールド作成専門のようなプレイヤーも出現したのだ。


 イッQもメインストーリーはそこそこに、このトレジャーフィールド作りに夢中になった。よくあるフィールドは「強いモンスターを倒したらクリア」というものだが、それでは単調だと思ったイッQは、仕掛けの使い方を工夫する事にした。


 そんなイッQが作ったフィールドで一番人気だったのが、宝箱が二個しか置いてないものである。一つが正解で、もう一つが不正確というシンプルな仕掛けだが、その分かりやすさと、プレイするたびに正解が変わるという運試し的な要素が気に入られ、多くのプレイヤーが何度も遊んでくれた。また、アイテムが一つしかない場合の所有権を決める手段として、ジャンケンのように使われたため、いつも一定数の利用があった。


「一日だけランキングで二位になったこともあるんだぞ!」


 イッQは得意気にそう告げた。


 もともと仕掛けを考えるのは好きだったのと、自分の作ったものが評価されたのが嬉しくて、イッQはトレジャーフィールドを作るのに夢中になっていった。


 しかしフィールドを作るには、ストーリーを進めCMや素材を集める必要がある。さらにどんなフィールドにするのか考え、実際に配置して想定通りの動きに調整するにはかなりの時間を取られた。だから自然とゲーム作りは後回しになっていったのだ。


 そうやってDIYトレジャーフィールドに没頭し、幾つかはそこそこの評価を得られたが、作れば作るほどアイデアはなくなり、せっかく作っても評価が低い場合があった。


 評価が低い事でやる気が下がり、作業が遅くなってあまり発表できなくなると、ランキングも落ちていく。それと共にフィールド作りへの熱も冷め、とりあえずストーリーを進めて、アイディアが浮かんだ時だけ作るものの、反応はどんどん小さくなっていった。


 そんな感じで段々とプレイ時間は減り、メインストーリーと当時配信されていたサブストーリーを全てやり終えた時点で、Treasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!をするのは()めたのだが、気が付けば、ゲーム作りから遠のいてから一年があっという間に過ぎていたのである。


 一年経てば、自分の書いたコードなど分からなくなる。大量のコードのそれぞれの役割、コードとコードの繋がり、一度しか使わなかった関数の使い方などが思い出せるわけもなく、一から調べ直すしかない。しかも開発環境のバージョンが上がったせいで、そのままでは動かす事もできなかった。


 自分の責任とはいえ、途中まで登った山から強制下山させられて、また(ふもと)に戻されたのである。そこに至るまでの苦労を思い出して途方に暮れた事を強く覚えていた。だから壱人にはTreasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!で、ゲーム作りを中断して欲しくなかったのだ。


 話を聞いた壱人がイッQに質問する。


「お前はそのゲームやったんだよな?」


「やったよ」


「面白かったか?」


「面白かったよ。あんなにハマったゲームは後にも先にもなかったな」


 その言葉を聞き、壱人は黙ってしまった。そして考え込んだと思ったら、はっきりと宣言したのである。


「やっぱり買う!」


 今までの流れを無視した答えにイッQは(あわ)てた。


「お前は人の話を聞いてなかったのか!それを買うとゲーム作りが一年遅れるんだよ!」


「面白いゲームを我慢しろって方がおかしいだろう!」


「作り終わってから遊べ!」


「今、やりたいんだよ!」


 壱人からみれば、イッQばかりが楽しい思いをして自分は我慢しなけれならないのは納得いかなかったのだ。


「ゲーム作りが()まらなきゃ良いんだろ?ならTreasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!は一日一時間だけにするよ」


「お前がそんなに意思の強い人間だと思うか?すぐに約束を破って延々と遊び始めるぞ!」


「まあまあ、二人とも落ち着いて下さいデスデス」


 決着が付かない言い合いの中、珍しくマイナマイナが仲裁に入る。


「つまり、壱人くんがそのゲームを長時間しないようにすれば良いのデスデスでしょう?」


「そうですが、あのゲームは時間を忘れてしまう危険なものなんですよ」


「それなら私が約束を破らないように見守っていましょうデスデス」


 予想外の申し出に壱人もイッQも驚いた。


「確かにマイナマイナさんが見ててくれるなら安心ですが…」


 マイナマイナは何故か壱人の味方のようで、その後もゲームの購入を後押ししたため、結局イッQも認めざる得なかった。


 次の日、さっそく壱人は大学近くの大型電気店でTreasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!を買ってきた。帰ってきてすぐにオープニングムービーを見る。イッQは昔ハマったゲームを見て懐かしくなり、壱人は初めて見る美麗で壮大な世界に、何度も声が出るほど大興奮した。


 オープニング後にスタートボタンを押し、「はじめから」を選ぶと早速キャラクターメイキングが始まる。初期なので選択肢は少ないのだが、やはり悩んで中々決められないでいると、それを見ていたマイナマイナが話しかけてきた。


「私もそのゲームに興味があるで、壱人くんと交代でゲームをしても良いデスデスか?」


 その発言に壱人は少し驚いたが、すぐに承諾した。そしてキャラクターメイキングが一向に進まない壱人に変わり、マイナマイナが先にゲームを始める事になったのである。


 壱人もなんとか三日かけてキャラクターの設定を決め、本格的にゲームを始めた。最初は約束通り「一日一時間」だったのが、そのうち守られなくなっていった。しかしそれはイッQが心配していた事ではなく、むしろ逆だった。


 原因はマイナマイナである。Treasure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!をほぼ独占してしまい、壱人はほとんど遊ぶ事ができなくなっていたのだ。


「サーバーギルドでフレンドと待ち合わせをしているので、後五分で中断して下さいデスデス」


「まだ始めたばっかりなのに!」


「そうか。マイナマイナさんは自分で遊びたかったからゲームを買うのに協力的だったのか」


 しかし、そのおかげでゲーム作りにはほとんど影響がなかったので、これで良かったのかもしれないとイッQは思った。

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