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第08章 そのゲームは絶対に買うな①

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この文章は「小説家になろう」サイトに投稿した文章です。それ以外のサイトで掲載されていた場合は無断転載の可能性がありますので、通報をお願いします。また著作権は「屑屋 浪」にあります。ご協力、よろしくお願いします。

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 壱人はバトル部分を分離する事に決めた。決める前は、この作業が本当に必要なのだろうかと、事あるごとに考えてしまったが、一度決めてしまうと、迷った場合も、疑問を持つなと自分に言い聞かせる事ができた。


 上手くいかない原因が特定すらできずに途方に暮れた時も、コードを改行して見やすくしたり、コメントを付けたり、変数名を分かりやすいものに変えたりと、あまり実動作とは関係が無くても、糸口を見つけるために手を動かした。


 自分で書いておいて、なんて分りにくいコードなんだ、とたまに文句を言いながら壱人は作業を続ける。遠回りや無駄な事をしているかもしれないと思っても、地道にコードの不明な箇所を一つ一つ確認していった。


 ただ、やはりそんなものは長時間できるわけもなく、ちょくちょく息抜きをしていたので作業は長引いた。


 そうして一週間かかってなんとか分離前と同じ状態にする事ができたのだった。


「バトル部分の分離できたぞ!」


 面倒な作業から解放され、壱人は叫ぶようにイッQたちに報告した。


「やったな!」


 壱人の報告にイッQが嬉しそうに応える。分離するようにアドバイスしたものの、手伝う事ができずに見ているだけだったので、作業の終わりに心から喜んだ。


 そんな舞い上がっている二人を横目に見ながら、マイナマイナはパソコンで壱人のゲームを動かしてみた。


 マイナマイナも一区切りつくごとにゲームを見ていたので、進み具合は知っている。今回こんなに喜んでいるのだから、それなりに進展があったのだろうと思ったのだが、画面上のゲームは前に見たものから変化がなかった。だから口から()れたその(つぶや)きは、マイナマイナからすれば当然の事だったのである。


「何も変わっていないのデスデス」


 その一言で浮かれていた空気は()てついた。


「それは言ってはいけません!」


 驚愕(きょうがく)の表情でイッQが咄嗟(とっさ)にマイナマイナの言葉をかき消そうとしたが、(とき)(すで)に遅しで、壱人を見ると両手と両膝を床につけて項垂(うなだ)れていた。


「あんなに頑張ったのに…」


「ほら、落ち込んじゃったじゃないですか!」


 壱人を指差し、イッQがマイナマイナに訴える。


「こういう内部の効率化は、変更前と同じ動作になるのが正解なんですよ。大事な作業なのに見た目だけで判断しないで下さい。そういう無理解がプログラミングを孤独な作業にしてしまうんです!」


 イッQにそう言われても、実感が湧かないのでマイナマイナは不可解な顔でこう返した。


「分からないのに分かった振りをするのは(しょう)に合わないのデスデス」


「そうかもしれませんが…すごく頑張ったんですよ、こいつは」


 マイナマイナの言う通り、確かに見た目だけでは進んだように見えないので仕方がないと思った。かといって理解してもらうには説明が長くなるし複雑すぎる。そうイッQは判断し、壱人の方を(なぐさ)める事にした。


「お前もそんなに落ち込むな」


 肩を叩き、優しく話しかける。


「重要な割にむくれない。それがプログラムだろ?」


「何その罰ゲーム!?」


 イッQにしてみれば励ましのつもりが、壱人にとってはとんでもない言葉だったため、驚きでついツッコんでしまった。


 壱人の突然のツッコミにイッQも当惑し、苦笑いしながら何か他の例えはないかと思案する。


「罰ゲームは無いだろ?せめて貧乏クジと言ってくれ」


「あまり変わらないのデスデス」


 イッQの例えはマイナマイナにまでツッコまれてしまった。おかしな展開になり、どうすればよいのか分らないまま、なんとか説明しなくてはという想いだけで話し出す。


「とにかくプログラムがないとゲームは動かないんだから、重要なのは間違いないんだ。ただ理解されにくいのも事実だ。例えるならプログラムはスポーツにおける基礎体力。プログラミングは基礎体力づくりなんだよ」


「基礎体力づくりなんて一番地味なやつじゃないか!アニメじゃ(ひと)カット。漫画じゃ(ひと)コマ。下手したら説明台詞で一言(ひとこと)のやつだろ!」


「描写されていないだけで全員毎日やってるって。体力が無いと何も始まらないからな。野球もサッカーもスポーツは体力が基本だし、なんなら漫画描いたりや音楽するのにだって必要だぞ?」


「それは影の努力と言うのではないのデスデスか?」


「そう、影の努力!」


「急に格好良くなった!」


 マイナマイナのフォローにイッQと壱人が反応する。


「プログラムの場合、影の部分が異常に長いけど、努力が実った時の喜びは格別だろ?だから成果が出るまでは地道に努力しないとダメなんだぞ」


「お前は、説教くさいんだよ」


 段々と話が()れていったので、イッQは仕切り直すように言った。


「つまり重要度と見た目は関係ないから、周りの言葉にあまり左右されるなって事だ」


 なんとなくイッQの言いたい事が分かり、壱人は納得した。画像を表示したりカードを動かした時は、ゲーム作りが進んだように思えたが、内部の動きを作っている時は、見た目はほとんど変わらないものの、その動きこそが壱人の考えたものであり、実現したいものだったからだ。


 やっと話がまとまったので、イッQは一呼吸置いて壱人にある提案をした。


「お前は良く頑張ったんだから、気持ちを切り替えるためにも、自分に特別な褒美を買ったらどうだ?」


「え、こんな途中で?もっと大きな区切りの方が良くないか?」


 今回の変更は時間は掛かったものの、ゲーム作りで言うと前回から進んでいないので、壱人は躊躇(ちゅうちょ)したのだが、その様子を見てイッQは言い切った。


「そんな事だと、いつまで経っても喜べないぞ!」


 小さな成功を大事にして、それを積み重ねて前に進む。だから中途半端だとしても、自分で区切りを作って仕切り直すことも必要なんだとイッQは言った。


 それを聞いた壱人の顔が明るくなる。


「だったらゲームを買いたい!実は気になってるゲームがあるんだ。ゲーム作りの参考にもなるし良いだろ?」


 興奮して話す壱人を見て、イッQは(うなず)いた。


「気分転換には良いかもな。それでなんてゲームだ?」


Tresure(トレジャー) Getting(ゲッティング)!」


 ゲームのタイトルを聞いた途端、イッQの顔は強張った。そしてこう言ったのである。


「そのゲームは絶対に買うな」

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