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第01章 ゲーム作りを始めよう②

「紹介が遅れましたデスデス。私は黒天使のマイナマイナと申しますデスデス」


 黒い少女が壱人に向かって自己紹介した。

 今、3人は部屋の真ん中にある、かろうじて片付けが出来ているローテーブルの周りに座っている。


 その少し前、現状が呑み込めない壱人と、チャームの中から出てきた途端に一喝したものの、その後が続かず沈黙したままのもう一人の壱人の膠着状態が、あまりにも長く続いたため、見かねたマイナマイナが「まあ少し落ち着きましょうデスデス」と間に入り、やっと話のできる状態になったのだ。


 マイナマイナの紹介を受けて「どうもです」と壱人も頭を下げる。

 ちゃんと顔を見るとマイナマイナは15、16歳くらいで、目がとても大きく、まつ毛も長くて、長い髪は光を帯びているかのように輝いて見えた。目の前の少女がかなり可愛いのではないかと意識した途端、壱人は直視が出来なくなって少し目を逸らしてしまう。

 そんな壱人は放って置いて、マイナマイナがもう一人の壱人を手で差し示して続ける。


「こちらが、10年後の常雲壱人さんデスデス」


 一瞬、言葉の意味を理解できなかったが、そう言われて壱人は目の前の人物の顔を見直した。

 最初の違和感は、年を取っていたせいだったのか。父と言うより年の離れた従兄弟に似ている。従兄弟はちゃんとした仕事に就き、結婚して、もう子供もいて良い父親だ。しかし目の前の人物はとてもそうは見えない。今の自分がただ年を取り、疲弊しているようだ。


 生来の人見知りで友達もほとんどいない。余程の事が無い限り結婚は出来ないと思っているが、就職してもう少しマシな大人になっていると想像していたので、目の前の人物が10年後の自分だと思うと壱人はなんだか悲しくなった。

 しかもそれが、今からゲームを作るせいだと言うのだ。


「どうしてゲーム作りが人生を無駄にすることになるんだ?」


 ゲームは作りたいが、ちょっと変わった趣味程度で、別にゲーム会社に就職したいとかゲームクリエイターになって個人で起業したい訳では無い。それが何故そんなに大げさな話になるのか?

 すると10年後の壱人が苦々しく答えた。


「この後、単位を落としたことも、就職に失敗したことも、全部ゲーム作りのせいにして現実から逃げるからだ。結局バイトしながら、ぐだぐだ生きて、たまに思い出したようにゲーム作りの続きをしても、絶対に完成させようという強い意思も無いから、ずっと中途半端のままなんだよ」


 確かにあまり真剣に物事に取り組んだ事のない今までを振り返ると、なんとなく想像が出来て、壱人も黙ってしまった。

 しかし「でも」と思い直し、一番の疑問を10年後の壱人にぶつけた。


「なんで10年も掛かってゲームが完成しないんだ?」


 痛いところを突かれて「ウグッ」と10年後の壱人が蛙を潰したような声を出した。


「俺のゲームのアイデアは確かにとても斬新だよ?思い付いた時に『俺って天才!?』って思ったよ?それで発表したらあっという間に話題になって?もしかしたらアニメ化したり?それですっごい有名に…」


 壱人がドヤ顔で話し続ける中、マイナマイナはそっと「そんなに凄いゲームなんデスデスか?」と10年後の壱人に尋ねると、聞かれた方は、過去の自分の中2病っぷりに耐えられず胸が締め付けられ、恥ずかしくて死にそうになりながら「すみません…ありきたりのカードゲームです」とだけ答えた。


「というわけで、確かに世界が驚くアイディアだけど、仕組みはそんなに難しくないんだから、ちゃっちゃと作れちゃうはずだよ!」


 壱人の妄想話はやっと終わり、最後はやけに自信満々に言い切った。それを聞いて今まで黙っていた10年後の壱人が逆切れする。


「作り始めたら、いろいろ問題が出てくるし、やらなきゃいけない事がいっぱいあって、そんな簡単には進まないんだよ! しかも(つまづ)いたらすぐに投げ出すんだから、ちゃっちゃとなんか作れるわけないだろ!」


 それでも反論しようとする壱人に、さらに一言。


「大体、文系のくせにゲーム作りしようとするのがおかしい!!」


「いいだろ文系でもゲーム作ったって!」


 それを聞いてマイナマイナが「文系なんだデスデス」とぼそりとツッコんだ。


 その後、決着のつかない口論が始まってしまったのでマイナマイナが止めに入ったのだか、ついでに10年後の壱人にこう言った。


「出雲壱人さん、そろそろ例の物を出してはいかがデスデスか?」

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