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第01章 ゲーム作りを始めよう①

 常雲壱人いづも いちとは、今日買ってきた分厚い本「ゼロから始めてもきっと出来る!? ミッQと始めるゲーム作りの書!」を、パソコンの前に置いて興奮していた。

 これから、この本で勉強して、このパソコンで自分のオリジナルゲームを作るのだ。そう思うとぼやけていた世界が鮮やかに見えた。


 パラパラと本をめくりながら、入学したときに新入生用のパソコンを大学生協で買っておいて良かったと思う。

 ついこの間まで、メールのチェック、検索、ニュースをたまに見るくらいで、ほとんど使っておらず、無駄な買い物をした気もしていたが、とあるブラウザゲームに出会ってからは、かなりの時間をパソコンの前で費やしてきた。


 そのうち自分でもゲームが作りたくなり、調べてみたところ、かなりの人が自作していることを知った。ネットでゲームを作る為の開発環境とかいうソフトウェアも手に入るし、その為の本が売っていることも分かった。

 すぐに本屋に行ったが、いろいろな種類が有り、中身を読んでもさっぱり分からず、しかも本の値段が思ったより高かったので、その場で買うことはなかったが、その後、何度か検討を重ねて、目の前にある一冊に決めたのだ。


 さあ、ゲーム作りの第一歩だ。


 壱人はパソコンの電源を入れ、序章の挨拶を適当に読み飛ばした後、「第01章 ゲームを作る準備をしよう」のページを開いて、その最初の文を読もうとした。


 その時、外は夕暮れで、照明は点いていたものの、それほど明るくなかった部屋の中が、突如、真っ白な光に包まれた。

 思わず目を瞑り、数秒してから目の上を覆っていた手の隙間から部屋を見渡す。

 光は先ほどより和らぎ、目も慣れてきたので様子を伺う事が出来たのだが…


 真っ先に目に飛び込んできたのは、部屋の蛍光灯の光を背にして浮いている黒い少女だった。

 逆光で良く見えないが、濃いピンク色の長い髪にボルドー色の瞳、ドレープ付きのゆったりして裾が広がっている黒い衣装を着ており、何より、部屋いっぱいに広がる黒い翼が目を引いた。


 壱人は「うわっ」と変な声が出て尻餅をついた。本能的に逃げようとそのまま後ずさりしたが、すぐに壁に突き当たってしまう。

 どうすればよいのか分からず壁にくっついている壱人に、少女が顔を向けた。少女は無表情であり、何を考えているのか読み取ることは出来ない。

 壱人の顔を確認した黒い少女から声が掛けられた。


「あなたは、大学2年生の常雲壱人くんデスデスか?」


 名前と学年まで特定されて、頭の中は真っ白になり、そのため誤魔化す事など到底思い付かない壱人はとにかく首を縦に振った。


「予定していた時空点に到着したようデスデスよ」


 少女はそう言って、チョーカーに付いているクリスタル製のハートのチャームに触れた。そのチャームは空洞があり、何かが入っているらしく、キラキラと輝くものが小さな空間の中で動き回っている。


「今、出しますから待ってくださいデスデス」


 少し面倒くさそうに、ハートのチャームを引っ張って外し、手のひらに収め、蓋を開ける。

 中に入っていたキラキラと輝くものは、チャームから出てくると何十倍にも膨らんで、段々と人の形になっていった。


 その形がはっきりとしてくるにつれ、見覚えがあると壱人は思った。言いようのないデジャブを感じる。

 なぜなら、その顔は、多少の違いを感じるものの、鏡で見る自分にそっくりだからだ。

 やっと形が定まり、ぜーぜーしているもう一人の壱人がそこにいた。その顔は機嫌が悪い時の表情で、キッと壱人を睨みつける。

 呆然とその光景を眺めていた壱人に、もう一人の壱人は吐き出すように言った。


「ゲーム作りなんか止めろ!人生を無駄にするだけだ!」


「えッ? な、何を言って…」と質問しようとする壱人の言葉を「なぜなら」と遮り、指を突き付け、力強く言い放つ。


「お前のゲームは10年経っても完成しない!!!」


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