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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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51マス目 一発の残弾


 眼前に広がる景色に、俺は息を呑む。


「……何だよここは!?」


 階段を下りた先で見たものは、完全な非日常。

 ゾンビのように痩せこけた人がゴミを漁り、明らかな盗品が堂々と売られている。

 物々しい護衛をつけた成金が女を物色し、どう見ても危険な薬物が道の真ん中で堂々と売られていた。

 それはまるで、混沌としたスラム街のような光景。

 現実離れした空間が、地下の空洞に小さな町として機能してる。


「治安が悪い街と思ってたけど、こんな場所があるなんて」


 辺りを見回すと、奥の方でガタイの良い男がリンチされている。

 しかし誰も騒がないし、見向きもしない。

 ゴミに集るカラスのように、僅かな関心も見せずに通行人は素通りしていく。

 ああいう光景が、ここでは普通なのだろう。

 ここは言わば、国の暗部といったところだろうか。


「こんな場所で何しろって言うんだよ、……あ、そうだ、地図」


 ふと思い出して、俺はマスターから貰った地図を広げてみる。


「印の場所に行け、……だったっけ。

とにかく、ここでオドオドしてると危ないな。

さっさと行っちまおう」


 地図上に記された、意味ありげな赤い丸印。

 俺はできるだけ目立たないように、その場所へ向かって歩きだした。








 少し歩くと、どこかから賑やかな声が聞こえてくる。

 声は丁度目的地の方から響いてきているように感じた。

 そのまま歩を進めると、妙にカラフルでこの町とは不釣合いな建物が視界に映る。

 サーカスのテントのようにも見えるその建物を見上げると、建物上部の特に目立つ場所に大きく、”源竜会”と書かれていた。


「地図によると、ここみたいだけど……」


 建物の周りには、武装した大男が数人目を見張らせている

 まるで社会的弱者を寄せ付けないシールド。

 俺としては、そんなものに巻き込まれたくはなかった。

 でもどうやら、簡単に素通りは出来ないようだ。


「そこの男、顔を見せろ」


 剣を携えた警備兵風の男が、俺を呼び止めた。

 男は俺の顔と、手元の紙を見比べている。

 あの紙には似顔絵でも描いてあるのだろうか?


「よし、ついて来い」


 男が扉を開く。

 それに合わせて、俺も歩を進めた。

 先導されて言われるがままついて行っているが、ここがどういった場所なのかの説明は一切聞かされない。

 しばらく薄暗い道を歩いていると、進行方向に矢印で『この先公演中』と書かれた張り紙が目に入った。


「えっと、なんすかあの公演中って?

ここでは何をやっているんですか?」


 男は答えない。

 ただ俺の少し前を黙って歩いている。

 念のため懐にある拳銃に手を添えた。

 残弾は残り一発。

 何が来ても、何が起きても、この一発しか攻撃手段はない。

 ただ歩くのみで会話がないこの時間は、気持ちを整える分にはちょうど良かったかもしれない。

 そうこうしているうちに、薄暗い通路の突き当りまで到着した。

 そこには木製の扉が一つ。

 男は何も言わずにこちらを睨んでいる。

 

「……入れってことか?」


 男は無言で佇んでいる。

 

「あー、ったく、わかったよ!

入ってやるさ、クソッ!」


 この先にはロクなものがない。

 それを知っていながら、開ける扉がこんなにも嫌なものだとは。

 ドアノブを握る手が重く感じる。

 だが、逃げるわけには行かない。

 シランとフラウトを何としてでも助けなくては!


「無事でいてくれよ、シラン、フラウト!」


 俺は意を決し、勢いよく扉を開けた。

 扉の先に広がるのは、飾りっ気のない殺風景なステージ。

 前方には、四方からライトで照らされた催し物がやっている。

 だがその見世物は、あまりに異常な光景だった。


「……何やってんだよ、あれは」


 目を疑うほどの狂気が、そこでは平然と行われていた。

 巨大な檻の中で首輪をつけた初老の男が、両手両足を縛られた若い男性を追いかけている。

 初老の男は泣いて謝りながら剣を構え、男性は怒鳴りながら這いずっている。

 歓声で聞こえづらいが、時折男性の口から「親父」と聞こえる。

 嫌な想像が俺の頭を巡った。

 

「おいおい、止めなきゃまずいだろ、あれ!」


 走り出そうとしたが、横から伸びてきた腕に髪を掴まれる。


「っいだだだ! 何だよ!?」


 なんとか振り払うと、俺はその腕の主を睨みつけようと顔を上げた。

 だが相手の顔を見たとたん、一瞬にして血の気が引く。

 なぜなら、そこに立っていたのは……。


「ろ、ロネット……」


 ある意味では、今現在ネストよりも会いたくない相手。

 治まって来ていた傷の痛みが、またぶり返してきた。

 

「貴様の出番はまだだ」


「出番? 何の話だよ」


「ショーに決まっているだろう」


 ショーって、……あんな悪趣味な娯楽があってたまるかよ。


「檻にいる二人は、親子じゃないのかよ!?」


「その通りだ、あの二人は源竜会の賭け事で破産した元貴族。

金を返さず逃亡したため、ああいった催しで金を作らせている。

こうでもしないと戻ってくる額ではないのでな」


「……どうすりゃ、二人は解放されんだよ」


「片方が死んだらだ」

 

 金持ちの悪趣味な余興も、ここまでひどい物があるとは考えたこともなかった。

 そりゃ、借金を返さない人間も悪い。

 でも血のつながった人間の命の奪い合いなんて、ひど過ぎる。


「ふん、これなどまだ軽いほうだというのに……」


 ロネットが呟いた声が、俺にははっきり聞こえた。


「それってどういうことだよ!」


「鬱陶しいな、これでも見て口を閉じろ」

  

 ロネットは懐から一枚の紙を取り出す。

 俺は差し出された紙を受け取り、文面を読んだ。


~公演内容一覧~

第一公演 我が子当てクイズ。

箱の中に入れた複数の赤ん坊の泣き声を聞き分けて、

自分の赤ちゃんを殺さないよう、ナイフを突き立てるショーです。

母親の絶望に染まった顔が見たい方は是非。


第二公演 レッツ!救出ゲーム

最愛の家族の命をかけて、ご主人が頑張ります。

右腕を切り落とせば妻が助かり、左腕で娘が助かり、

右足で息子が助かり、左足でご主人の母親が助かります。

制限時間内に見事自分で四肢を犠牲にできるのか?

その必死な顔と悶える動きに、爆笑必至間違いなし!?


第三公演 愛してるのはどーっちだ?

最愛の子供を奪われたふたりの親子が、いま激突する!

拘束された自分の子供に、激痛必死の生爪剥がしをしてもらいます。

先に剥がし終わったほうが助かります。

ですが、遅かった方は後日の公演で火炙りの刑です。

愛する子供の悲鳴に躊躇する、親御さんの雄叫び、どうぞご静聴あれ。


第四公演 芋虫息子をいざ成敗!

仲睦まじい親子が見せる、元気ハツラツな大喧嘩の開幕です。

縛られて動きを制限された息子さんは、剣を持ったお父さんから逃げます。

10分以内に息子さんが死ねばハッピーエンド。

10分逃げ切ると、お父さんとお母さんが子豚の晩ご飯になっちゃいます。

お父さんが選ぶのはどっちなのか?

そんなことよりさっさと殺せ、そんな茶番劇をお楽しみください。


スペシャル公演!

なんとあの騎士の子が!?

ここは絶対見逃せない!

詳細は来てのお楽しみです。


「ふざけんな!!!」    


 俺はすぐに紙を破り捨てると、何度も足で踏みつける。

 あまりにも虫酸が走る文面。

 ただただ、気持ちが悪い。


「この公演は、毎月一回公演されている。

今では貴族たちの何よりの楽しみに……」


「黙れ!!」


 俺は無表情なロネットの顔に拳を叩きつける。

 だが、その瞬間拳に異様な激痛が走った。

 ロネットの硬い頬骨は、逆に俺へとダメージを与える。

 

「……っぐぁぅ」


「ふん、ゴミ虫とは鍛え方が違う。

これ以上喚くと、首を引き千切るぞ」


「……え?」


 ロネットの言葉に何かが引っかかった。

 …………首、そうか!


「……お前だったんだな、殺人犯は」


「なに?」


 俺はもう、頭で考えてはいない。

 思ったことをそのまま口にしてしまっている。


「このショーのために殺してたんだろ!?

首を抉って、貴族の人間や子供まで!

そのせいで一体何人が地獄を見たと思ってる!?」


 俺の叫びをロネットは止めようともせず、無表情で聞いている。  


「答えろよ!

あの連続殺人事件はてめぇがやったんだろ!!」


 ロネットは視線を動かしもしない。

 だが、静かに口を開いた。


「その事件なら耳にはしているが……。

あんな幼稚な事件の犯人にされるとは、非常に不愉快だな」


 犯行の否定、いやそもそも動機やアリバイだって不明確。

 だが俺は納得できなかった。

 

「お前なら首元を握りつぶして抉ることだってできるはずだ!」


「それをやって、なんの得がある?」


 ロネットは眉一つ動かさない。

 ただ唇だけを動かす。


「ショーとは動きだ。

死体を舞台に立たせて人形遊びでもするのか?

金持ちの罵倒を聴くほど、俺は暇ではない。

だがもし源竜会の存在を公言されかける場合は、恐怖を煽るためにも、限界まで無残に殺害するだろうな」


 俺はその言葉で思い出した。

 体を引き裂かれて殺されたフラウトの姿。

 連続殺人事件の殺し方とは、似ても似つかないレベルの違う惨状。

 ……ということは、やっぱりあの事件の犯人はロネットでもない?


「おやじぃぃぃーーーー!!!!」


 突然の声に俺は思考を引き戻す。

 それは、舞台上で起こった悲劇の雄叫び。


「おやじ、なんでだよぉぉ……」


 泣き叫ぶ男性の傍らには、剣を腹に突き立てた初老の男。

 息子を守るために自殺したのだろう。

 この状況に、会場は半ばブーイング状態だ。


「おいおいっ、なんだこれは金を返せ」

「ったく、……つまらん」 

「これなら息子も殺せ、息子を刺し殺せ!」 

「エンターテイメントをちっともわかっておらん! 火炙りだ!」


 聞こえてくる言葉は、本当に同じ人間か怪しくなってくる。

 そのブーイングを落ち着かせるため、アナウンスが入った。


『皆様、大変申し訳ございませんでした。

そのお詫びとして、スペシャル公演の予定を早めさせていただきます』


 ざわつく会場と裏腹に、嫌な汗が溢れる。

 この場所で特別とつくなんて、絶対にロクなものではない。


『さぁ、ご覧下さい!

この二人が本日最後の生贄です!』


 まるで舞台がせり上がるように、透明な巨大ケースが出現する。

 透明度の高い展示物風の風貌は、水族館の水槽のようにも見える。

 ……その中に二人はいた。


「シラン、フラウト!?」


 二人の名を呼びながら、俺は駆け出していた。

 ガラスのような透明の壁に何度も拳をぶつける。


「おい、大丈夫か!? 今助けるからな!」


 声をかけるが返事はない。

 二人はぐったりしたまま鎖で両手を繋がれ、中で宙吊りになっている。


「くそ! 割れろ! 割れろよ!!」


 蹴っても体当たりでもビクともしない。

 俺の必死の行動は、ただ会場を盛り上げるだけだった。


『この男性が本日の主役です!

では、ステージ完成までもう少々お待ちください』


「は!? おい、何言ってんだ!」


 俺の声に答える者はいない。

 ただ、水槽の内部だけが変化していく。

 縛られた二人は、どんどん上へ釣り上げられる。

 すると、突如水槽の底が水で溢れ始めた。


「まさか二人を水責めにでもする気か!?」


「ククッ、何にもわかってないな」


 会場に座る観客の一人が、笑いを漏らす。


「おい、てめぇらも二人を晒し者にしてんじゃねぇよ!

さっさとどっか行きやがれ!」


 俺は怒りに任せ、半ば八つ当たり気味に観客へ殴りかかる。

 しかしその拳は空中で静止した。

 拳を止めたわけではない。

 見えない壁に遮られたのだ。


「っがぁ、っつぅ……」


 強固な壁にぶつかった俺の拳は、皮が裂け血が滴る。


『観客の皆様はこちらの魔法で保護させていただいてます。

申し訳ありませんが、マナーを守っていただけるようお願いいたします』


「ふっざけんな! どの口が言ってんだよ!?

いいから二人を離せよ! おい!!」


 彼のことなど見えていないような振る舞いで、舞台は進行していく。


「ゲウッゲウッゲウッゲウッゲウッ!」


 水槽に半分ほど溜まった水から、気味の悪い声が聞こえてくる。

 俺が観客と口論しているうちに、水槽の中は気味の悪いモンスターで溢れていた。

 どこかナマズにも似た生物は、バチャバチャと音を立てながら泳ぎ回る。


『さぁ、準備が整いました!

ではまず、デモンストレーションと参りましょう』


 司会の声とともにケースの上蓋が開いた。

 そして舞台裏から連れてこられる、ひとりの男。

 男は拘束され涙を流しながら唸っている。

 しかし口を塞がれ、何を言っているのか聞き取ることはできない。


『この男は、先日奴隷の少女を無断で開放いたしました。

よって、見せしめとして処刑させていただきます』


 アナウンスに呼応するように歓声が響き渡る。

 その歓声に押し流されるように、男の体が浮き上がった。


「むううう!!! んんぐがぁぁぁ!!!!」


『それではごきげんよう!』


 妙に明るく言い放った処刑宣言と同時に、男性の体は自然落下を始める。


「ゲゲヴゥゥゥーーー!!!!!!!!」


 中の生物たちは奇声をあげながら、男性に群がる。

 まるで獣のような悲鳴とモンスターの声が混ざり合う。

 その光景はとても直視できるものではない。

 薄目を開けてぼかさないと、こっちの気まで狂いそうだ。

 体にただ噛み付くだけなら、まだマシだろう。

 モンスターは、男性の穴という穴に体をねじ込んで、内部から食い荒らしている。

 口から、鼻から、耳から、目から、肛門から、裂けることも厭わず、30センチ以上もある体をうねらせ体内へ体をねじ込んでいる。

 男性は時折ビクンッと反応しているが、あれではもう助からない。


「これに落とすっていうのか……、二人を」


『どうですか? その衝撃は伝わりましたでしょうか?

それではそこの黒服くん、準備はいいかな?』


 きっと俺の事を言っているのだろう。

 だが、今は返事ができるほど冷静にはなれない。


「どうする、どうする、どうすればいい、どうすればいい、

ああ、どうすればいいんだよ、どうすれば……」


 思いつかない。

 どんなに考えても、二人を助ける方法が何一つ思いつかない。

 精神が不安定になり、目の照準が合わなくなってくる。


『助けたいですか?』


 その言葉に俺は勢いよく顔を上げる。

 動揺しすぎてつい反応してしまった。

 周りの下衆どもを楽しませるのはわかっている。

 だが、無理難題でも助けて貰えるのならやってやる。


「助けたいさ、何をやらせたいんだ!?

綱渡りでも火の輪くぐりでもやってやるよ!

絶対にシランもフラウトも連れて帰るぞ!」


『いい返事ですね、そういうのはとてもいいです。

ではゲームを発表します。

あなたにやってもらうのはこれ!』


 アナウンスと同時に、俺の足元から丸い支柱が伸びてくる。

 その上には、赤い水晶と青い水晶が並べられていた。


「なんだこれ? 魔法の道具?」


『どちらか好きな方を破壊してください!

赤は可憐な少女、シランちゃん。

青は勇敢な少年、フラウトくん。

水晶を破壊された子は、下にぽちゃんでーす』


「は?」


 まともな言葉が出なかった。

 だってその説明じゃあ、……どっちかが死ぬ?


「え? おい! 助けたいかとか聞いてたじゃねぇか!

あれはなんだったんだよ!?」


『助かりますよ、一人は!

ああ、なんて良心的なんでしょう』


 俺は二つの水晶を持って放心していた。

 選べるわけがないのだ。

 こんな物、選択肢とは呼べない。

 だが、ここの人間は待つという言葉を知らない。


『それではここで、睡眠魔法を解除致します。

お二人はどんな反応をするんでしょうか?』


「な!? やめろぉぉ!!」


 二人の下では、まだモンスターが男性の遺体を貪っている。

 無惨という言葉では言い表せない光景を、あんな小さな子供に見せるのか!?

 しかし、俺の命令をここの奴らが聞くわけがない。

 アナウンスの指示が行き渡り、二人は最悪な場所で目を覚ました。


「……んん? ここは…っうわぁぁぁぁあっぁああ!!!!!」


「……あれ、私寝ちゃって……ひぅっ!?」


 二人は怯え切った表情で辺りを見回している。

 そして下の光景を見て、涙を流しながら叫び始めた。


「いやだぁぁぁ、死ぬのやだぁぁああぁぁぁぁぁああ!!!!


「いやぁぁぁぁあぁあああ! 助けて、フラウト君助けてえぇぇぇ!!!」


 ……無力だ。

 俺はなんて弱いんだ。

 一度やり直しているのに、こんな結果になっちまった。

 なんでだ? どうしてこうなった!?


『あまり待つのもあれなので、あと10秒で決めてください。

決めなかったら、二人共ぽちゃん決定です!

はい皆さんご一緒に! じゅーーう!』


「待って! 待ってよ! お願いだから待っでぇぇぇええ!!」


「いやぁぁぁああっぁぁああぁっぁああああ!!!」


 アナウンスの声に合わせるように、醜い成金たちが子供のように幼稚で意地の悪いカウントを始める。

 それは下手な合唱よりよっぽど耳障りな音。


『「きゅーーう」』


「くそ、やめろ……、やめろ……」


 か細い声で言っても、最早誰にも届かない。

 もはや俺は、諦めかけていた。

 その時、さきほど見た自分を刺して息子を守った男性を思い出した。

 俺の目にははっきりと光が宿る。


「……決めた」


『「はーーち」』


「決めたっつってんだろ!

黙りやがれ!!!」


 俺の叫びで気持ちの悪いカウントダウンは止まる。

 だが、周りからはヒソヒソと笑い声が聞こえてくる。


『では、どちらを壊しますか?

赤? 青? それとも両方?』


「私嫌だよ……、誰も死ぬのやだ……」


「おじさん! 僕は……僕はいいからシランを助けて!!」


 フラウトは恐怖で全身を震わせながら叫んでいる。

 だがもちろん、どちらかなんて選べない。


「壊さねぇ、俺はどっちも殺さねぇ!」


 会場のすべての視線を背中に受けながら、俺が取り出したのは小さな鉄の塊。

 武器とするにはあまりに心もとない、残弾一発の鉄屑。


「俺は二人を生きて帰す。

……だから考える時間を貰うぞ」


 そう言いながら、俺はリボルバーの銃口を頭に添える。

 腐った奴らをあざ笑うように、ただ笑みをこぼす。

 嬉しいわけではない。

 これは宣戦布告だ。


『あなた、何か企んでいますね。

この男を拘束しなさい!』


 俺は笑みを崩さない。

 終わりを始まりに変えるため。

 一切の躊躇なく引き金を引いた。














『ふりだしに戻る』


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