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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
47/440

46マス目 黒vs金


 先に動いたのは、もちろんエリザベートだ。

 直線的な動きだが、まばたきできないほどの速度で向かってくる。


「やっぱそう来たか!」


 俺は手に持っていた袋の中身をぶちまけようとした。

 しかしその瞬間!


「あまいですわよ!」


 エリザベートは手にした剣を、クナイのように投げてきた。

 こっちが一番恐れていた事態。


「んぎっ! 嘘だろ!?」


 完全に胸元へ直撃する位置。

 避けられる速度ではない。

 エリザベートは決着がついたものと思い、ブレーキをかけ始める。

 だが、胸元を狙ったエリザベートは考えが甘かった。


「……あっぶねぇ」


 胸元に真っすぐ突き刺さった細剣は、刺さった衝撃で激しく揺れている。

 俺は平気な顔で剣を引き抜くと、ビヨンビヨンと揺れるそれを窓から投げ捨てた。


「さてと、得物が無くなったぜ。 どう来るよ?」


 エリザベートは足を止めて、目を見開いていた。

 その表情からも、完全に動揺しているのが読み取れる。

 

「あ、あなた、実力を隠してましたわね!」


「そう思うんなら、さっさとかかってこいよ」


 エリザベートの動揺っぷりは予想以上だった。

 何故ならトリックのつもりでも何でもない、ただ単にフライパンを胸元に入れていただけなのだから。


「来ないならこっちからいくぞ!」


 俺は用意していた小さな布袋を、エリザベートに投げつける。

 だがこっちの一切動じない姿を見て、エリザベートは吹っ切れた。


「あーー、もう! 考えてもさっぱりわかりませんわ。

でも、防御があっても、攻撃力は無いはず。

攻撃は最大の防御! それを教えて差し上げますわ!」


 その言葉と共に、エリザベートは駆け出しながら片手で袋を跳ね除ける。

 彼女はこの袋の中身が胡椒だと感づいていた。

 エリザベートは入口に散らばっていた胡椒の粉を見逃さなかったのだ。

 だから袋を切らず、直接手で叩く。

 斬って広がる粉末に目を潰されないために。

 そう思って袋を殴った瞬間、内部が一瞬光り……。


  ドンッ!


 それは小さな破裂音。

 だが、ルール上勝敗を大きく左右する破裂音である。

 爆発で舞い上がる煙が晴れ、姿を現したエリザベートの姿に、俺は苦笑いが出てしまう。


「どんな反射神経してんだよ……」


「今のは……、焦りましたわ。

とっても焦りましたわよ!!」


 エリザベートが手にしているのは傘だ。

 あの一瞬で傘を生成、素早く開いて防御したのだ。

 彼女は緊急用に二本のティースプーンを常備している。

 いざという時に傘に変えるための媒体として。

 だがこれは正真正銘の奥の手。

 俺はエリザベートをギリギリまで追い詰めていた。


「もしかして、入り口のあれも計算ですの?」


「……どうだろうな」


 俺のそっけない返事に、エリザベートの対抗心が膨れ上がる。

 防御用に広げていた傘を閉じて腰に構え直すと、どっしりと重心を大きく下げた。

 その構えは、まるで抜刀術のようにも見える。


「行きますわよ……」


 背筋が凍るような視線に、後ろへ下がり距離を取ることもできない。

 ダメもとで、俺は懐の袋を投げつける。


「もう同じ手は通用しませんわ!」


 エリザベートは高速の抜刀で袋を切断する。

 それが爆破結晶ならば、魔法陣が切れて効力を失うのかもしれない。

 だが、二頭目に投げたのは、本当に胡椒だった。


「んぶわぅ!」


 何とか直撃は免れたようだが、エリザベートの目には、僅かに胡椒が入ったらしい。

 目を押さえて縮こまっている。

 痛みに耐えかねたエリザベートは、水の魔法で手のひらに水の球体を作りだし、素早く目を洗浄し始める。

 ずぶ濡れになった髪をかき上げ、すぐに視線を正面に向けるが、その先で俺はライターに火を点けスプレーを向けていた。

 魔法障壁では防げない、科学の攻撃。

 まともに受ければ、勝負は終わるだろう。


「騎士として! 負けられませんのよ、わたくしは!!」


 俺の噴射よりも早く、エリザベートが飛びかかってくる。

 だが斬られる寸前に、俺は口から種を飛ばすように塊を吐き出した。

 それは魔法陣を残して、出来るだけ小さく削っておいた爆破結晶。

 咄嗟に対処できるように、火炎放射と一緒に用意していたのだ。


「そ、そんな!?」


 エリザベートは防御姿勢を取ろうとするが、下手な方向を防御すれば、爆破か火炎放射を食らってしまう。

 一瞬の迷いが焦りを生む。

 その結果、エリザベートは空中でバランスを崩して尻もちをついた。

 俺は素早く一歩下がると、容赦なく炎を拭きつけた。

 だが当然、エリザベートは傘で炎をガードする。

 しかし、エリザベートは防御に集中出来ていなかった。

 その視線の先にあるのは、先ほど吐き出された爆破結晶だ。

 床に転がる小さな塊は、爆発もせずに床に転がっていた。


「……なんで爆発しませんの?」


 実は石の魔法陣には小さな傷がつけてあり、爆発はしないようにしている。

 そうでもしないと、怖くて口に入れられなかったからだが、それを知らないエリザベートは視線を大きく下げていた。

 ……上から降ってくる袋の存在など知らずに。


「どうなっていますの? まさか不発し…ぶぎゃう!」


 見事に頭に直撃した袋からは、大量の胡椒がまき散らされる。

 俺はエリザベートの視界が傘で塞がるのを待っていたのだ。

 スプレー缶の裏に胡椒の袋を隠し持ち、傘が開いた瞬間に口を使って上に投げていた。

 知っているだろうか?

 胡椒が目に入ると、痛みよりも、激しい熱さに襲われる。

 焼けるような痛みは、そう簡単に耐えられるものではない。


「あぅぅ……目が、……あついぃ!」


「……少し可哀想だけど、この間に!」


 素早く炎の放射を止めて、俺は廊下の奥に向かって全力疾走した。

 あの状態のエリザベートに攻撃してもいいが、きっと防御に徹した彼女には、あの程度では攻撃を当てられないと判断したのだ。

 ここは欲張らず、当初の予定通り作戦Bを遂行する。


「っぐう……、もう許しませんわよ!!」


 エリザベートはさっきと同様に、水の魔法で目を洗う。

 大量の水を使い、髪も服もびしょぬれだ。

 水を滴らせながら、廊下の先の角を曲がる。

 その先に見える、足の遅い貧弱な後ろ姿。


「そっちは行き止まりですわよ!」


 エリザベートは走り出す。

 走りにくい格好とは裏腹に、人間離れした速度で駆ける。

 無防備な黒スーツの背中に剣が届きかけたその瞬間、エリザベートは突然の減速と共に近づくのを躊躇した。

 ……理由は、鼻を直撃するさぶいぼが立つほどの異臭。


「あなたまさか、その臭い……」


「ああそうだよ、ドロネズミの発酵汁をタオルに染み込ませた!

近づけるもんなら来てみやがれ!」


 俺はタオルを手に持ってひらつかせていた。

 しっかり手袋をして、ついでにティッシュで鼻栓もしている。

 そして駄目押しに、最低な臭いを発する激臭タオルを、エリザベートに向かって思いっ切り投げつけた。


「きゃああああ!!! なんてことをするんですの!?

そんな臭いが服に着いたら二度と落ちませんわよ!?」


 エリザベートの罵倒を無視して、俺は飛び込むように廊下の行き止まりへ行き着いた。

 そのまま背を壁に付けると、懐から二本の果物ナイフを取り出した。


「……もう策は尽きたようですわね。

それで戦うつもりですの?」


 その問いに、俺は答えずただ笑った。

 状況にそぐわない表情にエリザベートは警戒を強める。


「くらえ!!」


 俺は勢いよく二本のナイフを投げつける。

 だが、素人の投げるナイフだ。

 普通なら簡単に掴まれて、投擲武器を奪われるところだろう。

 しかしエリザベートは、そこをあえて大きく横に避ける。

 それは当然、ナイフの細工を警戒しての行動だった。

 だが、エリザベートの避ける動きを見た瞬間、俺は大きい動作で空中を引っ張った。


「糸付きナイフだよ!」


 言い終る前に、すでにエリザベートは身を反転している。

 剣を縦に構え、攻撃を防ぐ体制を取って気が付く。

 何も攻撃が来ないことに。


「まあ嘘だけどな」


 俺の言葉にエリザベートは振り返る。

 だが、一手遅い。


「あがりだ、いい勝負だったぜ」


 エリザベートの体が真下へ落ちてゆく。

 向きを反転するのに集中していたエリザベートは、反射的にジャンプもできず、無防備に落下した。

 この場所は、一階から床にヒビを入れて脆くしていたのだ。

 いわば室内の落とし穴。


「あぐっ! ……ここってまさか!?」


 エリザベートが落ちたのは、先ほど見た爆破結晶の山の真横。

 そして反対には壁。

 そこは爆破結晶によって密室にされていた、隙間のような空間だった。


「嘘……、ですわよね?」


 上から見下ろす俺の手には爆破結晶。

 ここに持ちこんだ最後の一つだ。

 それをデコピンで、下に弾き落とした。

 爆破結晶は赤い光を帯びる。

 真横の爆破結晶の山を見て、流石に顔が真っ青になるエリザベート。


「っ無理ですわ! 退避!!!」


 エリザベートは勢いよく窓を突き破り、外へ脱出する。

 その直後響く爆発音。

 だが、その音はあまりにも小さかった。


「……え?」


 爆破音は一個分。

 何百何千とあった結晶が、あの距離で連鎖爆発しないわけがない。


「……どういうことですの!?」


「……お嬢様」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、

 そこには背の小さいメイドが、申し訳なさそうに立っていた。


「実は、あの爆破結晶は魔法陣に小さな傷をつけてまして、

爆破しないようにしてあるの……です」


 確かにその説明ならば納得はできた。

 だが、エリザベートはある一点が腑に落ちなかった。


「何で、その事をあなたが知ってますの?」


「えっと、実は”けいたいげえむ”というのをやらせてもらえる条件で、

何人ものメイドや執事が、

爆破結晶の魔法陣に傷を付ける作業をしたの……したんです」


 エリザベートはポカンとした表情でメイドを見た。


「それって、試合開始までの二時間の間ですわよね?」


 メイドは目をつぶりながら、大きく首を縦に振る。

 それと同時に、ネックレスとして付けていた通信水晶から、セルバの声が聞こえ始める。


「この試合、場外により、エリザベートお嬢様の敗北でございます!

現在治療班が向かいますので、両方はその場にてお待ちください」


「…………プッ。

あはっ、あははっ、あははははははははははははははは!!」


 エリザベートは珍しく、普通の笑い方で大きく笑った。

 間違いなくお互いに全力で戦ったのだ。

 悔いは残らない。


「お、お嬢様!? 大丈夫……ですか?」


「ふふふっ、ええ、大丈夫ですわ。 

さて、これから忙しくなりますわね」


 試合開始から二十八分。

 最弱の戦士VS金の騎士の対決は、最弱の勝利で幕を下ろすのだった。


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