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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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43マス目 竜王の手鏡


「本に囲まれた睡眠は快適でしたかしら?」


 食事の席に着いて、初めに言われた一言がこれだ。

 本当に大抵のことは筒抜けになっているらしい。

 これじゃあプライベートも何もない。


「情報が早いな。

そこら中に監視カメラでも付いてるのか?」


「かんしかめら? 監視魔術式の事でしたら、そんなものこの館には設置してませんわ」


 つい口が滑ってしまったが、……あるのかよ。

 監視カメラみたいな魔法が。


「でもそれなら、何で俺が寝てた事知ってるんだ?」


 そう言った後に、俺はセルバさんの顔を凝視する。

 しかし、セルバさんはにこやかな顔で右を指さしていた。


「?」


 俺は指差す方向へゆっくりと視線を向けると、スープを配膳するテンダーと目が合った。

 そんなテンダーはすぐさま俺と視線を外す。


「……お前か?」


「さぁ?」


「お前だな!? こらぁ!」


 俺は全力でプチトマトを投げつけた。

 プチトマトが当たる瞬間、テンダーの体は霧となって1メートル右へずれる。


「食べ物を粗末にしないでくださぁーーい」


「くっそ! 攻撃を見越して幻覚作ってやがったな!?

おい待て、お前は一回引っぱたく!」


 俺とテンダーが走り回ってる間、エリザベートはのんびりと料理を口に運ぶ。

 テーブルに肘をつきながら。

 豪邸の食堂とはこんなに騒がしくなるものなのかと、俺はネジの外れた方向に関心をしてしまった。








「ええ!? いや無理でしょそんなの。

会合をどうにかしたいだなんて、何考えてんですか」


 無駄だと分かっていたが、

 もしかしたらテンダーなら妙案でも思いつくと思ったが……。


「反応が想像通り過ぎてなぁ、……はぁ」


「こんな理不尽なため息つかれたの、私初めてですよ」


 食事を終えた後、エリザベートは仕事があると言って部屋に戻ってしまった。

 屋敷を出るまで暇になった俺は、テンダーに会合を止めようとしていることを明かしていた。


「でも何でまた、そんな大それたことを?」


 正直誤魔化しばかりで意見を聞くのは、あまりフェアじゃない。

 エリザベートに正面切って話すと面倒なことも多いんだが。

 テンダーは世論に影響を与える発言力があるわけじゃないし、多少奇想天外な事実を話しても影響は少ないだろう。

 …………多分。


「どうしたんですか? 黙りこくっちゃって」


「……単刀直入に言う、俺は未来が分かる」


「はい?」


 流石にふりだしの事を話しても、何言ってんだこいつと思われて終わりだろう。

 だったらそこだけ誤魔化して、真実を伝えてみる。


「こいつを見ろ。 これが何だかわかるか?」


 俺はポケットからスマホを取り出して、テンダーに見せつける。


「……これって、魔法の鏡? でもそれにしては小さすぎるような」


「いいか見てろ、……ほらこれだ!」


 俺はスマホの再生ボタンを押した。


『ええ!? いや無理でしょそんなの。

会合をどうにかしたいだなんて、何考えてんですか』


 そこに映し出されていたのは、

 今さっきの会話と、その会話をしているテンダーの姿。


「え? これって私ですか? あれなんで?」


「これは俺の故郷に伝わる秘宝の一つ、竜王の手鏡だ!」


 まあ嘘だが。


「秘宝!? どういうことですか?」


「今のは過去のお前だ。 

この手鏡は過去を映し、たまに未来を映す。

時空を映し出す究極の魔法具だ!」


 まあ嘘だが。


「その話本当ですか!?」


「ああ、本当だ」


 まあ嘘だが。


「……えーっと、だったら一つ予言をしてみてください!

的中したら信じますよ」


「おう、いいぞ」


 そう言うと思った。

 予言なら丁度いいのが、昼頃にやってくる。

 俺はスマホの画面をこすりながら、何かが見えてるふりをする。

 ちょうど占いの水晶のような、あんな感じだ。


「よし、よ~く聞けよ。

昼頃になると緑色の服装をした奴が現れる。

そいつはこの屋敷に来て、エリザベートに何か言うんだ」


 これだけで、テンダーにはリックのことだとわかっただろう。

 まあリックの事や、毎日の熱い告白ならば少し調べれば分かること。

 これだけならば、信じてもらうのは難しい。、

 せっかくだから偶然と言い切れないレベルの予言をしてやろう。


「うーん、何だこれは?

羽が生えたゴロツキがどんどん降りてくるな、……10人くらいか?

俺とテンダーと、……エリザベートまで隠れた!?

そのあとは画面が真っ赤になってわからないな。

まあこんなところだ、もし当たったらちゃんと話を聞いてくれよ」


「お…おー」


 声が震えている。

 これは後でどんな反応をするか楽しみだ。


「んじゃ、俺は少し用があるから」

 

 少しのいたずら心と笑いを押し殺し、俺はそそくさと部屋を出た。


「……んじゃ、今のうちに出発するか」


 マリー・エルトリックが殺害された場所。

 エルトリック家に向かうため、俺は一旦部屋に戻る。

 戻る途中、エリザベートの部屋を通り過ぎ、俺は少し迷いながら数歩後退して足を止めた。


「……やっぱり、もう一度頼んでみよう」


 屋敷にいられるのは今日が最後。

 なら、ダメ元でもう一度くらい頼んでも、バチは当たらないだろう。

 俺はついでと言わんばかりの軽い気持ちで、ドアノブに手をかけた。


「さて、……と?」


 よく見ると、エリザベートの部屋のドアノブには、「仕事中ですわ」と書かれた板がかけてある。


「……開けづらい」


 考えてみると、国外会合の護衛という大任を任せられていて忙しくないわけがないのだ。

 そう思うと、罪悪感が邪魔をしてノックしようとする手が止まる。

 あと10分待ってみようかとか、お茶でも持ってきて差し入れ風に中に入るとか。

 そんなことをグルグル考えながら、あれやこれやと無駄に部屋の前をうろついていた。

 そうしていると、部屋から「入っていいですわよ」と声がかかった。

 ……何で居ることがばれたんだろう?


「し、失礼しまーす……」


 俺が部屋に入ると、エリザベートは書類に羽ペンを走らせていた。

 やはり忙しいようだ。


「用があれば、ノックしてくださればいいのに」


「忙しいだろうと思って入りづらかったんだよ。

それよりなんで俺がいることが分かったんだ?」


「あんなにダダ漏れの気配で、わたくしが気づかないとでも思って?

たとえ机に向かっていても、わたくしに隙はありませんわ!

オーッホッホッホッホッホ!」


 随分と器用なもんだ。

 半分呆れながら、椅子を借りて腰掛ける。


「それで? わたくしに用事ということは、

昨日の件ですの?」


「……いや、違う」


 それは嘘だった。

 だがいきなりその話をしては、断られるに決まっている。

 エリザベートにはもう一つ頼みたいことがあったのだ。


「違うけど似た話。

そんな感じですわね」


「まぁ、そんなところだ」


 俺は一呼吸つくと、話を切り出した。


「ベヨネッタ家が所有している物件で、使われてない物はあるか?」


「物件?」


 エリザべートは羽ペンを口元に当てて、首をかしげる。


「もしかして、この屋敷を出たら、

そこに住みたいなんて言いませんわよね?」


「そうじゃない。 匿いたい奴がいるんだ。

お前が会合から帰ってきたら、中もちゃんと掃除して返す。

だから頼む! 少しだけ場所を貸してくれ!」


 俺は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

 そう、これはシランとフラウトを匿う隠れ家だ。

 会合の方に手をかけていれば、二人は危険にさらされる。

 それをまず防ぎたかった。


「……そうですわね」


 エリザベートは深く考え込み、直後大きく手を叩いた。


「セルバ! おりまして?」


 その言葉から三秒もしないうちに、扉からノックの音が聞こえる。


「お呼びでございますか、お嬢様」


 この人瞬間移動でも出来るんじゃないか?

 神出鬼没過ぎて、だんだん疑問に思ってきてしまった。


「時計台近くにある書物保管庫の鍵はありまして?」


「はい、少々お待ちいただければすぐに」


「ではお願い致しますわ」


 エリザベートの指示を受けると、セルバはすぐに部屋を出た。


「書物保管庫?」


「ええ、図書室に入りきらない書物を保管している地下倉庫ですわ。

まあ、ベットも何もないですけれど、隠れるにはうってつけですわよ」


 地下倉庫か。

 それならいざってときに籠城も出来そうだ。


「ありがとう、助かる!」


「お待たせいたしました」


 死角からの声に、一瞬体が跳ねてしまう。

 今日だけで二回目だ。


「彼に渡してさしあげて。

よく知りませんが、必要らしいんですの」


「かしこまりました。 

スペアはございませんので、気を付けてお取り扱いください」


 渡された鍵は少し変色した銀製の鍵。

 ここにもペガサスが描かれている。

 俺は礼を言いながら鍵をハンカチで包み、鞄の奥へしまった。

 だが本題はここからなのだ。

 俺の顔つきが変わったのを見て、エリザベートは気を利かせる。


「悪いけれど、セルバはこれで席を外してくださるかしら?」


「かしこまりました。 それでは失礼いたします」


 扉が閉まる音と共に、エリザベートは少し険しい顔になった。


「昨日と同じ話をしたい。 そうですわね?」


「……なんでわかった?」


「表情が昨日と同じですわ。 

切羽詰まったような、でも諦めきれない、そんな表情」


 エリザベートの目は、全てを見抜いているように感じた。

 でも、見抜いているのに話を聞いてくれるということは、彼女に何か考えでもあるのか?


「国外会合への発言権が欲しい。

俺の考えは変わらない。 

どうしても、王様と話をしないといけないんだ」


「……どんな事情があるのか、わたくしにはわかりませんわ」


 そう言うと、エリザベートはおもむろに立ち上がり、自分の引き出しから白い鍵を取り出した。


「でも一つだけ、わたくしが協力して差し上げる方法がありますわよ」


 指でつまみながら左右に振っていた鍵を優しく宙へ放る。

 それにつられて、俺はついキャッチしてしまった。


「この鍵は?」


「武器庫の鍵ですわ。 

武器庫は廊下に出て、右に行った突き当りにありますわ」


「武器庫って……、こんなもの渡されても、俺にどうしろってんだ?」


 その言葉を聞いたエリザベートは、ニヤリと笑った。

 その笑顔は悪意に満ちている。

 どうにも悪い予感しかしない。


「わたくしを動かしたいなら、それなりの努力をしてもらいますわ!

かすり傷でいいですの、たった一撃!

わたくしに攻撃を当ててごらんなさい!」


「へ?」


 嫌な汗で背中がびちょびちょになる。

 おい、待ってくれ、まさか……。


「騎士に意を示す単純明快で最短の方法!

わたくしと決闘なさい! 正々堂々勝負ですわ!」


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