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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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42マス目 小さな新聞記事


 虫がうるさい。

 蚊だろうか。


「あー、もう、うっさい!」


 ベッドから体を起こすと、外はまだ暗く沈んでいる。

 枕元に置いてあった腕時計を見ると、三時の中頃を少し過ぎたころ。

 随分と中途半端な時間に起きてしまった。

 ま、早く起きればその分考える時間が増える。


「早起きは三文の徳とは、よく言ったもんだ」


 気が付いたら、もう虫はどこかへ行っていた。

 寝てるときに邪魔をして、起きたらいなくなる。

 羽虫ってのは気楽でいいもんだ。


「さて、どうしようか。

会合の作戦は完璧だったし、やっぱり中止させるしかないよな。

でも、今のままだと口を挟めないし……」

  

 ……だったら口を挟めるくらい、俺が評価されればいいのか?


「でもどうやって?」


 俺は自分に自分で質問をぶつけてみる。

 頭の中で思い浮かぶことと言えば、やっぱりネストのことだ。

 あれだけの大物を倒した功績は、多少なりとも認められているはず。

 ならば、あと一歩足りないのだ。


「ネストほどの大物とは言わないけど、

犯罪者でも捕まえれば、発言権くらいはもらえるかも。

でも俺が捕まえられそうな犯罪者って、……あ!」


 俺の頭に真っ先に浮かんで来たのは、シランが巻き込まれている連続殺人事件。

 もしもこれを解決することが出来れば、王様と直接話すことも不可能ではなくなるかもしれない。

 こうなったら、シランのおばけ騒動解決と、発言権獲得の一石二鳥を狙ってやる!


「そうと決まれば、善は急げだ。

あの事件について、詳しく調べてみよう」


 俺はスーツに袖を通し、ネクタイを締める。

 図書室を探せば、事件の資料くらいは出てくるかもしれない。

 俺は意気揚々と部屋を出るも、こんな時間じゃ屋敷の中は真っ暗で物音一つしない。

 大きすぎる屋敷は俺のマッピング能力じゃまだ迷路のようだ。


「えっと、図書室ってどっちだっけ?」


 せめて電気の付け方が分かればよかったが、そもそもこの世界の電灯はスイッチ式なのだろうか?

 よく分からないので、窓から入る月明かりとライターの火を頼りに、足元に気を付けて進む。

 きっと昼間なら適当に歩いて見つけられそうだが、明るい時と暗い時では景色が違うのでわかりづらい。


「えっと、ここが食堂か。

ってことはこっちが階段かな?」


 図書室は一階の玄関近くにある。

 一階に降りてしまえば、すぐにわかるだろう。

 俺が階段に向かおうと振り向くと……。


「こんな時間にいかがされました?」


「っぎあっぷん!!」


 俺の体が電気ショックでも受けたように飛び跳ねる。


「せせせ、セルバさん!?」


 そこには、火を灯した燭台を手に持ったセルバさんが立っていた。


「ああ、申し訳ありません。 驚かせてしまいましたか?」


「……まあ、多少は」


 つい意地を張ってしまったが、ものすごい声が出るくらいには驚いた。

 おかげで、危うくライターを落とすところだった。

 この人は神出鬼没過ぎて困る。


「えっと、見回りかなんかですか?」


「ええ、一応侵入者感知の魔術式は組んでありますが、

何分、ベヨネッタ家の皆様は各地に敵が多いものですから。

警戒しすぎるということはないのです」


 それはわかるが、じゃあこの人はいつ寝てるのだろう?


「ところで、どこかに用事でございますか?

よければご案内いたしますが」


「あ、じゃあ、図書室までいいですか?」


「かしこまりました」


 明かり代わりにしていたライターが、どんどん熱を持って熱くなっていたので、ちょうどよかった。

 このまま光源役と案内をお願いするとしよう。








「こちらでございます」


 ドアが開いた瞬間、図書室内の明かりが一斉に点灯する。

 近代的な感知式の自動点灯ではないだろうし、一体どういう仕組みになっているんだろうか?


「何か御用がおありでしたら、すぐにお呼びください。

それでは失礼致します」


 セルバは深く頭を下げ、その場を立ち去ろうとする。


「あ、ちょっと待ってください。

ここって新聞とかも保管してますか?」


「ええ、3ヵ月分はそちらの棚に揃えてあります。

調べ物でございますか?」


「そんなところです」


 そう言うと、セルバさんは「ごゆっくりどうぞ」と告げて部屋を出た。

 とにかく、ここにある新聞記事に載っているはずだ。

 シランが巻き込まれている、連続殺人事件の情報が。


「さぁーて、一丁頑張りますか!」








「あったこれだ!」


 一時間かけて見つけ出した記事は、計三つ。

 三面に載っていた、騎士の男性が殺された記事。

 一面に大きく取り上げられた、貴婦人が殺された記事。

 そして最後に、シランの同級生が殺された記事。

 この記事だけ妙に小さく載っていて、見つけるのに苦労した。

 だが殺された人は合わせて五人と聞いているから、二人足りない。


「新聞記事は3ヵ月分しかないって言ってたな。

残りの二人の記事は、もう処分されてるかもな」


 でも、三人分見つかっただけでも上出来だ。

 ここから犯人の糸口が少しでも見つかればいいが。


 最初は三面に載っていた騎士の事件だ。


【被害者の年齢は40代前半。

騎士団でも優秀な成績を収め、剣の腕に長けていたという。

犯行現場は目撃者の少ない路地裏。

犯行時刻は午後六時から午後七時までの1時間に行われた。

被害者はひったくりを追って裏路地に入り込み、そこで消息を絶った。

それから1時間後、心配したひったくりの被害者の通報で捜索が開始される。

捜索開始から五分後、被害者の遺体が、壁にもたれ掛かった状態で発見された。

遺体には、首筋を大きく抉られたような傷跡が残っていた。

遺体の傷跡から、例の連続殺人犯の犯行と、模倣犯の犯行の両方で捜査されている】


「これじゃあ目撃証言もないだろう。

それに愉快犯の可能性だってある。

これは一旦保留だな」


 次は一面に載っていたひと際目を引く記事。

 この記事だけかなり大々的に紙面を飾っているが、有名人だったのだろうか?


【被害者は国王にも一目置かれていた人物。

かのエルトリック家令嬢、マリー・エルトリック様。

犯行現場は被害者の自室。

場所は三階で、出入り口は正面の扉と小窓。

ただしベランダなどは無く、空いていた窓は子供一人がギリギリ通れるほどの大きさだったため、実質出入り口は一か所。

犯行時刻は午前2時から午前3時までの短い時間に行われた。

被害者は午前2時まで小説を読んでいた。

メイドがその時間に被害者に頼まれて紅茶を運んだので、その時間には被害者は確かに生きていた。

だが、一時間たっても紅茶の片づけに呼ばれなかったメイドは、寝てしまったと思い、勝手に紅茶を片付けようと部屋に入室。

変わり果てた姿の被害者はここで発見され、すでに亡くなっていたという。

部屋の状態は、窓が割れていたという一点のみ。

遺体の傷跡から、例の連続殺人犯の犯行と断定。

調査が続けられている】


「……どういうことだ?

呼べば来るなら、メイドとこの人の部屋は近いのだろう。

加えて夜中ってことは、悲鳴を上げれば聞こえるはずだ。

逃げ回ったり暴れても、誰も気づかないなんてありえない。

無音の魔法? 詠唱も無しで?

……これはヒントになるかもな」


 そして最後の記事。

 シランがお化けと呼ばれる原因となった事件だ。

 でもこのなぜかこの記事だけ、妙に小さく情報が少ない。


【被害者はある貴族のご子息。

犯行時間は午後4時半頃に行われた。

目撃者は同級生の子供たちだが、

証言がバラバラで、調査は難航している】


「証言がバラバラ?

でも公園で話してくれた女の子は、かなり詳しく覚えてたはずだ。

子供だから証言の確実性が薄いとかか?

……わからん」


 とりあえず今後の方針は決まったな。


「この屋敷から出たら、エルトリック家に行ってみるか。

犯人の証拠が、何か残っているかもしれない」


 少しずつだがやることが見えてきた。

 だが、調べるにも時間が足りないし、ただの探偵ごっこになってしまう可能性は高い。

 そう思うと、何だかため息が出る。

 そのため息が段々とあくびに変わり、空の明るみと共に俺は舟を漕ぐ。

 数時間後、俺は「朝食の用意が整いました」というセルバさんの声で、やっと目を覚ましたのだった。


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