表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
40/440

39マス目 血濡れたシラン


 あれからしばらく少女は泣き続けていたが、

どうやら収まってきたようだ。


「もう大丈夫そうか?」


「うん、……大丈夫です」


「ならよかった」


 少女は目を赤くして、鼻をすすりながら頭を下げる。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい!」


「ああ、もうい…」


「そう簡単に収まる物ではございません」


 燃えかけていた木の消火作業を終えたセルバが、俺の言葉を遮った。

 俺はもう許す気だったが、セルバの殺気立った表情が変わらない。

 セルバは、俺の想像以上に厳格な人間のようだ。

 一番怒らせると怖いのは、こういうタイプの人なのかもしれない。


「人に向けて攻撃魔法を放つと、牢獄行きというのはご存知ですか?」


「ちょっとセルバさん!」


「申し訳ありませんが、止めないでいただきたい」


 セルバさんの言い分も分かる。

 例えるなら、子供が街中で拳銃をぶっ放したようなもんだ。

 怒られて、それでお終いとはならないだろう。

 でも、これだけの事をするのは、それなりの理由があるはずだ。

 やはり、きちんと話を聞いた方が良い。


「とにかく衛兵に連絡させていただきます。

あとのことは、専門の方々に任せましょう」


「セルバさん。 すみませんが、連絡するのはもう少し待ってください」


「……庇うのですか?

この子の為になりませんよ」


「理由があるはずです、この子なりに、何か理由が」


俺は少女に向き直り、目線を合わせる。


「話してくれないか? おばけの事を。

なんであんなにシランを怖がったのか、教えてほしいんだ」


 俺がそう言うと、少女は俯いていた顔を上げる。

 だが、少女は嫌そうな顔でシランを見つめた。

 確かにこの話は、シランの前ではしづらいかもしれない。


「……少し向こうで話そうか」


 俺の言葉に、少女は静かに頷いた。


「セルバさんから見える位置にしか行かないので、

二人で話をしてきてもいいですか?」


「かしこまりました、お気を付けて」


 俺は少女の歩幅に合わせて、ゆっくりとした速度でセルバから離れる。

 二人は滑り台の付いた、少し大きめの遊具の前に立った。

 シランとセルバからは50メートルは離れている。

 これならば、この子も安心して話せるはずだ。


「よし、じゃあまず、なんでシランちゃんが怖いのか、教えてくれないか?」


「……おばけだから」


 少女は俺の想像通りの答えを返した。

 問題はここからだ。


「おばけって、どんなおばけなんだ?」


「わかんない」


 ……分からないということは、

幽霊になってるところを見たことが無いってことだろうか?

 でも、噂だけであんなに怯えるとは思えない。


「わからないなら、なんで怖いんだ?」


「……私のクラスにジル君っていう子がいるんだけどね」


「ああ」


 少女はその先を言うのに戸惑っているのか、

身体を震わせて言い淀んでいる。


「大丈夫、何を言っても疑わない。

怒らない、言いふらさない、約束する」


「……うん」


 少女は深く息を吸って、意を決したように口を開く。


「ジル君ね、……シランちゃんに殺されちゃったの」


 ……人の死が関わっている、そんな大事だとは思いもしなかった。

 この子が嘘を言っているようには見えない。

 でも、俺は知っている。

 シランは人を殺すような子では、絶対ない。

 大人しくてトマトが好きな、何の変哲もない普通の女の子だ。

 だが、俺は少女を疑う気もない。

 きっと何かがあるはずなんだ。


「ジル君が殺されたとき、どんな風だったかわかる?」


「……わかんないよ」


 少女がどんどん涙声になってくる。

 怖いことを思い出させてしまったのかもしれない。


「ごめんな、大丈夫か?」


「うん、……大丈夫。

……実はね、この前皆で鬼ごっこしてたの」


 涙をポロポロと流しながら、少女は一生懸命語り始めた。


 少女が教えてくれた事件の全貌はこうだ。



 シランと、その友達の子供たち五人が、下校中の夕方に鬼ごっこをしていた。

 シランとこの少女含め4人が逃げて、鬼になったのが、ジルという男の子だった。

 逃げてるうちに、近くの薄暗い道にみんなが入り込み、ジル君もそれを追った。

 足の遅いシランは、最後尾を走っていたらしい。

 その時、突然背後から、ジル君の叫び声がしたので、急いで様子を見に行った。

 少女が見たのは、道の中央に倒れたジル君と、全身血まみれのシランだったらしい。

 シランはすぐにその場を走り去り、その場に残されたのは、倒れたジル君だけだった。

 少女がジル君に声をかけようと近づいたが、

 ジル君はすでに首元をえぐられて、死んでいたらしい。

 その時少女は、「何でシランちゃんが……」と言ったらしいが、

他の二人は怯えながら、「シランじゃない、おばけだった、あれはおばけだ!」

 そう言いながら、震えだしたという。



 とんでもない話、それが第一印象だ。

 それに聞いた限りだと、今の話は、さっきセルバさんから聞いた話と繋がる。

 だが、この少女が知っていることは、これで全てだろう。

 何かを考える前に、お礼を言っとかないと。


「……良く話してくれた、怖かったろ?」


 少女は小さく首を縦に振る。


「ごめんな、ありがとう」


 そう言いながら、俺は優しく頭をなでる。

 少女は黙って涙を拭っている。


「知ってるの、……これだけだから」


「ああ、もう帰っていいよ。 ありがとうな」


 その言葉を聞いて、少しほっとしたのだろうか。

 少し嬉しそうな顔をしたと思ったら、すぐに駆け出していった。

 少女は走りながらこちらに手を振ってきたので、俺も手を振り返す。


「結局、帰してしまわれたのですね」


 急に背後から声がかかったせいで、体が軽く跳ねてしまった。

 出来れば普通に声をかけてほしいものだ。


「……あの子には事情があったんです」


 セルバは睨むような眼光で、俺を見たように思えた。

 だが、軽く息をついたら、その目は少し優しそうになったように見えた。


「……そろそろよろしいですか?

あまり時間をかけると、お嬢様が心配なされます」


「えっと、それはいいですけど、シランちゃんは?」


「もうお帰りになられましたよ。

伝言を頼まれまして、おじさんありがとう、だそうです」


 少し話が長くなりすぎたかもしれない。

 シランはあまりいい気はしてなかっただろうに。

 でも、気を使って我慢してくれたんだろう。

 やはり、そんな子が人を殺すとは思えない。


「つき合わせてすみませんでした。

そろそろ馬車に戻りますか」


「かしこまりました」


 相手はヴァーデ公爵だけではないかもしれない。

 正体がつかめない分、ある意味ネストよりも厄介だ。

 見えない脅威と押し寄せる不安から逃げるように、

俺は馬車の方へ足を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ