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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第五章 喰われる国
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390マス目 後悔したあの日


「いやぁお客さん、ほんとにいいんですかい?

こんなローブ着て指定の時間に出立するだけで三十万!

俺としちゃしばらく酒に困んねぇんでいいんだが、お兄さんにどんな儲けがあるってんだ?」


「大丈夫、もうすでに儲かってるようなもんさ」


 隣で寝息を立てるククルをよそに、俺は作戦がうまくいったことを祈る。


「はぁ、マジで六百万用意しといてよかった」


 何日か前に、源竜会の宝物庫でネストと一緒に盗った現金。

 あれを分割し、それぞれ三十万円、合計で二十の行商人に依頼を出した。

 このローブを着て、朝の七時に出立してくれと。


「複数人で移動して、なおかつ俺たちと背格好が似た行商人全員に声をかけた。

これで奴らは混乱してくれるだろう」


 俺一人なら雑兵を適当に散らばせるだけで問題ないが、こっちにはククルがいる。

 戦闘になった場合に、腕の立つ戦闘員を組ませなければいけない。

 二十という数は、奴らに人員を分散させるのを諦めさせるには十分な数字だろう。


「むにゃ……んむぅぁ……」


 ククルは積み荷の横ですっぽりと収まるように、ちょうどいい空間で丸くなっている。

 この作戦を一夜で完成させるために、この子には一晩中俺を抱えて走り回ってもらった。

 疲れただろうに、今はゆっくり眠ってほしい。


「すいません、パロット王国まではどのくらいかかりますか?」


「そーだねぇ、魔物が少ない地域を狙っていくから、四日程度を見た方がいいかもね」


「四日……、わかりました、ありがとうございます」


 大臣が死んで混乱の残る国内で、戦争の準備を整えるには時間がかかるはず。


「ちょうどいい休暇だ。

色々あったんだし、頭を使わずのんびり過ごすのもいいか。

……なぁ、ククル」


 馬車の揺れかはわからないが、その楽しそうに笑う寝顔から、一瞬頷きが返ってきたように見えた。








 馬車には魔物除けが付いているとはいえ、遭遇率がゼロになるわけではない。

 さらには盗賊に出会う危険性もあるわけだ。

 今のところ遭遇したのは魔物が一匹だけで、ククルが瞬殺してくれた。

 こういう職で長年働いている人を見ると、本当に頭が下がる。


「今日で三日目か……」


「明日の朝に出発すれば、お昼には着くってさ」


 馬車の中で本を読む俺の横に、ククルが座り込む。

 

「おーい、狭いだろが」


「いいじゃん」


 ククルはぐいぐいと俺を押しのけるように、強引に場所を確保した。


「どうした、寒いのか?」


「いや別に……あ、ん~と……ちょっとだけそうかな」


 外にいる御者さんが焚火を起こして火に当たっている。

 そこに混ざってくるように言おうと思ったが、なんとなくやめた。


「俺も、……人肌が恋しいのかな」


 自分でも聞き取れない声量の小言。

 だが俺が何かを言ったことだけは、ククルの大きな耳が捕らえていたらしい。


「なんか言った? お兄さん」


「なんでもねぇよ」


 夜は深い。

 外から入る炎の明かりだけでは、本も何だか読みづらい。

 俺は手にしていた本を鞄にしまい込む。


「もう読まないの?」


「ああ、……なぁククル、くだらない話していいか?」


 ククルは静かに「うん」と答えると、音を預けるように耳の先を俺の肩に乗せた。


「……俺がまだ、こんなスーツ着て仕事してなかった時だ。

あの時は学生でさ、部活もそこそこで悪くない生活をしてた」


 ククルにとっては意味の分からない単語も多いだろう。

 でも俺は説明する気にもならず、まるで夢の内容でも語るように淡々と話をつづけた。


「でも、三年の夏休み前にさ、母さんが倒れたんだ。

元々病弱で、入院なんて別段珍しくもなくて」


 話してるうちに、何気なく目を閉じる。

 瞼の裏に映る灰色がかった暗闇は、あの時の夏をうっすらと呼び戻す。


「連絡受けて、急いで病院向かってさ。

でも元気そうだったんだよ、普通に。

だからそのまま学校戻って、部活やって……」


 呼吸が少しだけ荒くなるのを感じた。

 

「部活終わって、携帯鳴って、出て……そんでさ」


「うん」


 ククルの優しい声が、俺の涙腺を揺らす。


「死んだんだって、連絡来て、母さんがさ。

容体急変して、でも俺演劇の部活してたから気づかなくて……」


「そっか」


 瞼を開いたら、一滴の雫が垂れた。

 遠い昔に感じてたけど、俺はまだあの時の事で泣けるんだ。


「もう一生分ってくらい後悔した。

折角任せてもらってた部長からも逃げだして……」


「閉じこもっちゃった?」


「ああ、なんで俺はあの時そばにいてやれなかったんだ、なんで死に目にすら会えなかったんだって。

それこそ死ぬほど後悔して、後悔して、後悔し尽くした」


 俺は小さく流れ出す涙を無理に押し留めるよう、袖口で雑に拭う。


「だから俺は……」


 心配そうにこちらを見やるククル。

 俺は目の端に残る涙の雫を指で軽く拭うと、陰鬱な空気を跳ね飛ばすように笑ってみせた。


「もう、後悔しないように生きるって決めたんだよ。

もちろん、お前を助けたのもそういう考えがあったからだ」


「ふーん、そっかぁ。

……あたしもさ、両親いないからちょっと気持ちわかる。

ねぇ、この話って他の人にもしたことある?」


「いいや、初めてした。

ここに来ていろんな事があったけど、なんだかんだで話す機会がなかったから」


 それに話しても皆はどうせ忘れるって、そんな考えがどこかにあったんだろう。

 

「ククル、こんな暗い話で悪いけどさ。

もしよかったら覚えてくれてると嬉しい、たとえまた世界が終わったとしても」


 戻りたくない。

 ふりだしが怖い、あの場所にこれほど恐怖を感じたのは久々だ。


「うん? ……なんかよくわかんないけど、お兄さんがそうして欲しいって言うなら、あたしは覚えとくよ」


「そうか、ありがとう」


 もう二度と、皆の死に顔は見たくない。

 今度こそ、皆で笑って迎えられる最善の答えにたどり着く。


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