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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第五章 喰われる国
388/440

387マス目 石の種類


「君は、ドルトゥレートに何を言った?」


「さぁな」


 ククルと目一杯遊んで英気を養った俺は、ゴールドスモーカーとにらみ合っていた。


「奴が獲物を探すような眼になっていた。

あれは厄介だ、なだめるのに相応の食糧物資がいる」


「それはご苦労なこって」


 俺はどこか他人事で煙草に火をつける。


「もう奴のもとへは行かなくていい。

どうやら相性が良くなかったらしい」


「そうかい、それで?

俺はこの後どうすれば満足だ?

今すぐ治安維持部隊に入れるって言うなら、金の用意も始めるが」


「……そうだな」


 ゴールドスモーカーは部屋に靴音を響かせていた足を止め、ゆっくりと俺の正面に座り込むと、ぎらつく左目で俺をじっと見据える。


「今更だが、君の目的はなんだ?

どうも今更になって気になってしまう」


 その質問を振られ、俺はようやく来たかという思いで指を組む。

 用意していた回答はいくつかある、もちろん全部俺の本心じゃない。

 こういう輩が喜びそうなこと、面接でいうところの志望動機みたいなもんだ。


「権力が欲しい、莫大で絶大な支配力と言い換えてもいい」


「……それで君は何を成す?」


 俺はわざとらしくタメを作り、数舜言葉を濁す。

 そして組んでいた手を静かに口元へと持って行った。


「殺したい奴らがいる、俺の力じゃ到底かなわない化け物連中を」


「そうか、……なるほど」


 ゴールドスモーカーはどこか納得した様子で含み笑いを見せ、数度手をたたく。


「君は手の内と言っていたが、……そうか、処分の困る手懐けきれぬ番犬というわけか。

なるほど、君と私の利害は、思った以上に近い場所にありそうだ」


 よし、いい勘違いをしてくれた。

 これでゴールドスモーカーは、俺の狙いがブルーローズの殺害だと思い込んだはずだ。

 

「誤解が解けたようで何より。

そこでもう一度問うんだが、俺は何をすればいい?」


 ゴールドスモーカーは机から葉巻を取り出し、簡潔に説明していく。

 羅列されるのは、書類仕事に部屋の掃除、武器の手入れに洗濯。

 まぁ、簡単な雑用を任されたわけだ。


「期間は三日、他の者たちと同じだ。

三日間の働きで君をどう運用するか決める。

伸し上がるのはその後の頑張り次第といったところだな」


「それで構わない、認めてくれて助かるよ」


 これでひとまずは大きな関門をクリア。

 あとは目の前にいるゴールドスモーカーからどれだけ情報を絞れるかにかかっている。








 最初に任されたのは書類の整理。

 こういう仕事はエリザベートの屋敷で散々手伝っていた経験がある。

 そのかいもあって、向こうの想定以上の速度で終わらせてやった。


「なら次は私の部屋を掃除してもらう」


 書類整理の次に任されたのは、まさかのゴールドスモーカーの部屋の掃除。

 想定外の事態に、俺は動揺を隠しきれない。


「突然すぎないか? 

それともこの組織のセキュリティーはそんなにもザルなのかよ?」


「いいや、信頼しているのだよ」


 わかりやすい嘘をついてくれる。

 でもこれがまたとないチャンスなのも事実。


「それでは私はとある貴族のもとで会議がある。

三時間で帰ってくる、それまでに埃一つ残さず綺麗にしておいてくれ」


 それだけを伝え、俺一人をこの部屋へと残していった。


「……まったく、この俺に心理戦でも仕掛けてくる気か?」


 上等だ、乗ってやろうじゃねぇの、その戯れに。

 俺は支給された白の手袋を素早くはめると、指定個所の掃除に取り掛かった。








「よろしかったのですか?

あの男を一人部屋に残してしまっても」


「ああ、構わん。

最も触られたくない物はあの部屋に置いていないからな」


 ゴールドスモーカーは続けて外で待機する監視員に連絡を取る。


「目立った動きはあったか?」


『いえ、ただ掃除に取り掛かる様子はなく、観察しているだけです』


「よし、そのまま監視を続けろ。

しかし監視系統の魔法陣を展開したらすぐに連絡しろ」


『了解です』


 葉巻の先をカットし、別室で盛大に煙を吹かす。

 その顔は余裕の笑みに満ちていた。


「ふん、あの部屋にある材料では、私の魔法のカラクリを解くことはできん。

好きに調べ、そして私に正体を見せるがいい」








「ま、雑に監視されてんだろうな」


 俺はちらりと窓に視線を放る。

 そん先には誰もいないのか、見えないように細工しているのか俺にはわからない。

 だがこのタイミングで部屋の掃除だなんて、こんなわかりやすい釣り餌はそう見かけない。

 

「逆に言えばお互いそのつもりなんだ。

掃除なんてほとんどしなくていいよな」


 見えやすい釣り餌と言っても、向こうも俺が気付く事前提で進めていることだろう。

 ただここで分かりやすく探せるタイミングを与えるかわりに、もう二度とチャンスを与えないという意思表示にとれる。

 どちらにしろ、エサが欲しい魚は食いつくしかない。

 問題はどうエサだけを掠め取るかだ。


「ゴールドスモーカーは見えやすい証拠は残してないだろう」


 部屋に置いてあるのは、騎士の彫刻や、木に実る果実を石に置き換えた芸術的な置物。

 宝石をあしらったシャンデリアに、棚へ飾られた貴金属。

 部屋の隅も調べてみたが、ゴミ一つ残ってない。

 前に破壊されたテーブルの破片でもあれば、少しはヒントになるかと思ったんだが。


「多分この部屋のほとんどはブラフ。

どうせ引き出しの中身も……」


 あえて誘いに乗ってやろうと、俺は一つ一つ引き出しを開けていく。

 いくつか気になる資料は見つけたが、隕石や石像を動かすギミック、石を産み落とす生物の資料など。

 見るからなミスリードに読み込む気にもなれず、元あった場所へ戻す。


「石……、あいつはミスリードもそうだけど、妙に石にこだわる」


 ゴールドスモーカーはあまり自分では戦闘を行わないらしく、ドルトゥレートと違って情報がない。

 しかし、俺には唯一無二の情報が頭の中にある。


「ブルーローズとカナリアをぶつけたとき、あの戦場には何があった?」


 ただ触れるものを石化させる。

 それだけじゃ説明できないものも多々あった。 

 触れたものを崩し、石化させ、水晶で貫く。

 そこから導き出されるのは……。


「宝石……?」


 石という物質にとらわれ過ぎたが、石にも種類はある。

 世界一硬い宝石がダイヤモンドだとすれば、逆に触れるだけで崩れる宝石もあるかもしれない。

 

「触れたものを宝石にする魔法。

……いや、それだけじゃないな」


 もう一つ、あの男には隠し玉があったはずだ。



『封印石は、生命を閉じ込める私のとっておきでね。

四獣と呼ばれるこ奴らを、並の魔物と思わないほうがいい』



 ブルーローズと組んで追い詰めたとき、マリアさんと戦うゴールドスモーカーが口にした言葉。


「封印石ってのが言葉通りだとするんなら……」


 あの時見た、パワーストーンにも似た石。

 それがこの部屋の一角には存在する。


「気になってはいたんだよな、木の実のオブジェ」


 俺は軽く部屋全体を見まわした後、部屋の一角にひっそり置かれた芸術作品へと目を向けた。


「この石、色や大きさはあの時に持っていたものとほぼ同じだ。

俺の考えが合ってれば……、リスキーだけど試してみるか」


 俺は少し緊張した面持ちで鞄に手を入れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の度胸値が限界突破 [気になる点] ゴールドスモーク…宝石…スモーキークォーツ 触ったものを宝石にする(錬金術?)or宝石に封印する能力…? 謎が多い能力ですね [一言] ゴールド…
2022/03/09 01:40 ふぁんくらぶ5090
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