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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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36マス目 その力は乳飲み子の如く


「冗談ですわよね!?」


 馬車の車内で、エリザベートは、耳が痛くなるような声で叫んだ。


「本当だって、俺のレベルはたったの1だ」


 もはや屋敷に戻ってグダグダ説明するより、レベルを言ってしまった方が早いと俺は考えた。

 エリザベートの反応を見ると、正解だったかもしれない。


「……それでしたら、一番得意な魔法元素はなんですの?」


 魔法元素?

 そういえば本には、魔法の種類がどうたらって書いてあったっけ。


「えっと、火、水、木、雷、魂のどれかってことか?」


「ほかに何がありますの」


 やっぱり前に本で読んだ内容で合ってる。

 ……その中で一番得意な魔法か。

 この中で唯一成功したと言えなくも無いのは……。


「……木かな?」


「ふぅん、では簡単な魔法でも使ってみてくださる?」


 簡単な魔法か。

 俺は怪しい笑みをエリザベートに向けた。


「あいにく俺は、簡単な魔法なんて出来やしないんだ」


「……どういうことですの?」


「つまり、……俺の最強魔法を見せてやるってことだよ!」


 数分後、俺の手のひらからにょっきり生えたものを見て、馬車から笑い声が響き渡ったのは言うまでもない。








「あははははははははは!!! あ…赤ちゃんの魔法ですわ!

あっはははははははははははははははは……げっほげほ!」


 むせてんじゃねえか。

 そしてさっきから馬車が左右に揺れまくっている。

 テンダーも笑うのは良いが、操縦はちゃんとしてほしい。


「もやしっ……はははっひぃっ! ひぃひひひっ……。

もやしって……もやしって……!」


 カイワレ大根だっつーの。


「くぅっ、そんな笑わなくてもいいじゃねぇか」


 一応奥の手という意味では、俺はもう一つ魔法を持ってはいる。

 先ほどネストにぶちかました、今となってはちょっとグロテスクな魔法。


「……血とかついてねぇよな?」


 俺は不安になり、一度背を向け隠すように小声で『ダイス』と囁く。

 すると淡い炎が俺の手に顕現され、小さな六面体が生み出された。

 その表面は、危惧していたような血痕どころか汚れ一つない。

 これならあの爆笑ブラザーズをアッと言わせてやれる。


「こうなったらとっておき見せてやるよ!」


 正直これについては全然理解できてないが、一番魔法っぽいのも事実。

 いったん手の中にあるサイコロを消し去り、注目を集めてから大きく手のひらを開く。


「ダイス!」


 ネストにかました要領で、血走るくらい手に力を込めて叫ぶ。

 ……なんにも起こらねぇ。


「む……無理しなくてもいいんですのよ……」


「なんで? ……いやなんで!?

あれっ、今確かに出てたよな、あれぇ!?」


「っぷくくっはははは!!」


 必死の弁解虚しく、笑いの渦を止める事は出来なかった。


「爆笑してるけど、そういうお前はちゃんと魔法使えるのか!?」


「んふふっ、え? ああ……わたくしですの?」


「おう」


 エリザベートは、体術ばっかり鍛えているタイプだろう。

 ということは、魔法はあまり得意でないと見た。

 俺は悪そうな顔でエリザベートを見つめる。


「そうですわね……。

本当ならば、ちゃんとあなたの正体を知ってから、教えたかったのですけれど」


 そう言ってエリザベートは扇子をとじる。


「まあいいですわ、御覧なさい」


 エリザベートはゆっくりと扇子を握る。

 気が付いた時には、扇子はエリザベートの持っている物と全く同じ、白い傘に変化していた。


「今の魔法、さっきもやってたよな?

どうなってんだ、それ?」


「何を言ってますのよ、お望み通りの魔法でしてよ。

わたくしの持つ固有術は、お気に入りの物を複製できる秘義。

正式名称で言うなら”再造魔法”ですわ!

棒状の物なら、大抵は傘にできましてよ」


 そう言いながら、エリザベートは俺の鞄に手を伸ばす。


「おい! 俺の鞄を傘にする気か!?」


「そんな四角い物は変えられませんわよ。

棒状の道具はありませんこと?」


「棒状って言ったって……、これでいいか?」


 彼は筆箱から、安物のボールペンを取り出した。


「……ちゃんと返してくれよな」


「もちろんですわ」


 その言葉と同時に、エリザベートは俺のペンを掴み取る。

 そして一瞬のうちに、白い傘に変えて見せた。


「……確かに凄いけど、元に戻るんだよな?」


 別に無くなって困る物でもないが、元の世界から持ってきた貴重品に変わりはない。


「もちろん戻せますわよ」


 その言葉通り、傘はすぐにペンに戻る。

 魔法を見慣れていない俺には、手品のようにも感じた。


「こんな魔法があるなら、何百本と作って売っちまえばいいのに」


「そんな大量に作れませんわよ。

せいぜい一日に五、六本。

それ以上は魔力と体力が持ちませんわ」


 魔力という概念が俺に備わってないから感覚がわからないが。

 それが枯渇すれば、単純に疲れるって認識でいいんだろうか?


「なあ、この固有術だっけ?

それって俺でも覚えられるのか?」


「……ほ、本気で言ってますの?」


「……冗談だよ」


 エリザベートの表情で俺は察した。

 顔真っ赤にして、笑いを堪えながら言われたら、可能性が無いことは嫌でも分かる。

 結局、俺はお屋敷に着くまで散々からかわれる事となった。








「「「「お帰りなさいませ」」」」


 綺麗に揃った男女の声が馬車を包む。

 馬車は美しい蹄の音を響かせながら、お屋敷の門をくぐり抜けた。


「おかえりなさいませ、お嬢……様?」


 馬車の扉を開けたセルバさんが目を点にした。

 まあ、高貴なお嬢様が涙目でクスクス笑い、変な格好の男が死んだ目でほうけていたら、誰だって困惑する。


「一体どうなされたのですか? それにこちらの方は?」


「気にしないで宜しくてよ、ただの客人ですわ。

それより食事の用意は出来ていて?」


「お客人……そうでしたか。

でしたら、料理長にお客様の分も早急に作らせますので」


 食事と聞いて、俺は少しだけ元気を取り戻す。


「おっ、もしかしてドラゴンの肉ですか!?」


 俺の言葉にセルバさんは困惑した表情を見せる。


「そうですが、……何故お分かりになったのですか?

献立はお嬢様も知りませんし、匂いもここまでは届かないはずですが」


 ……やってしまった。

 以前出て来たもんだから、つい口を滑らせてしまった。

 せっかく打ち解けてきたのに、こんなことで変な誤解を生んだらたまったもんじゃない。

 何とか誤魔化さないと。


「えーっと、いやその、ご馳走って言ったらドラゴンじゃないですか!

やっぱりお屋敷では、毎日のように高級肉を食べてると思いましてね」


 俺なんかが金持ちの食事事情なんて知る由もない。

 内心冷や汗ダラダラの俺の横から、エリザベートが会話に入ってきた。


「嫌ですわ。

毎日お肉を食べていたら、太ってしまいますわよ」


 エリザベートにその気はなかっただろうが、ナイスフォロー。

 俺は心の中で安堵しつつエリザベートへ感謝すると、そのまま会話に乗っかる。


「それもそうだな、肉ばっかの食卓なんて、

味が良くても、胃もたれしちまう」


「そうですわよ。

でも偶然とは言え、見事に当たったのはお見事ですわね。

セルバのそんな顔、わたくし初めて見ましてよ。 オーホッホッホッホ!」


 上手いこと誤魔化せたな。

 ただでさえ暗殺者とかスパイとか嫌な疑いがあるんだ。

 まだ完全な信頼関係が築けていない状況で、怪しまれる行為は控えないと。


「それはそれは、取り乱して申し訳ありませんでした。

どうぞこちらへ」


 俺らはセルバさんの後について行く。

 食堂に近づくにつれ、少しずつ鼻腔をくすぐるたまらない匂いが漂って来た。


「こちらでございます」


 開かれた扉の先に、美しく並べられたフルコース。

 スープにカルパッチョ、ラザニアに貝のソテー。


「お客様の分のステーキは、ただいま調理しております。

焼き上がるまで、前菜等をお楽しみください」


 結局このあとエリザベートの質問攻めもなく、無事にただの食事会として終了した。


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