34マス目 もう一度ぶち破れ!
馬車の中はひどい揺れだ。
道行く馬車を上手く避けて、速度を落とさず走って行く。
俺は揺れの中で、扱い難そうにスマホをいじっていた。
「なぜわたくしに、この情報を渡したんですの?」
馬車の揺れをものともせず、エリザベートが話しかけてきた。
本当は舌を噛みそうになるから、喋りたくはない。
しかしそのせいで、前回では後にしてくれと言って会話を切ってしまっていた。
ここでの会話で何か未来が変わる可能性もある。
俺はスマホを懐にしまうと、舌を噛まないよう注意しながら口を開く。
「……このままだと、人が死ぬ」
「そうですわね」
「しかも、子供が死ぬんだ」
「よくあることですわ」
確かにこんな街ではよくあることだろう。
でも、せめて防げる死は何とかしたい。
「偽善だってわかってる。
見えるものを助けて、見えないものを見捨てる。
無責任だ、間違ってるのかもしれない」
……それでも。
「後悔したくないんだ。
たとえ死んでも」
笑われると覚悟しながら、エリザベートの顔を見る。
しかしエリザベートの目は、今まで見た中で一番輝いていた。
「良いですわね、……ええ、見事な騎士道精神!
その覚悟や良しですわ!」
騎士道ってのとは随分違う気もするが……。
謎にエリザベートからの好感度が上がる中、俺らの乗る馬車は全速力でユキちゃんの家へ向かう。
大通りを爆走する一台の馬車。
次々と周りの馬車を追い抜いていく。
安全とは程遠い、非常に荒い操り方。
だがそんな事を気にしている時間はない。
「11時15分か、……あ!
そういえば、この馬車に人参が積んであるだろ?」
「あら、何で知ってますの?
ちょうど使おうと思ってましたのよ」
俺は後ろにある木箱から、人参付きの棒を取り出す。
「これを頼む!」
「任せてください!」
テンダーが人参付きの棒を受け取り、すぐさま取り付ける。
そのおかげで馬車はより一層速度を増した。
現在11時16分。
少女の家はもうすぐそこだ。
「そこの通りを右へ!!」
「わかりました!」
二匹の馬が綺麗にカーブを描く。
やはりテンダーの馬捌きはさすがの一言。
たまに手元が白く光っていることがあるが、もしかしたら馬に幻覚でも見せているのかもしれない。
「あの赤い屋根の家でよろしくて!?」
「ああ、そうだ!」
言って俺は気付く。
俺らが真っ直ぐ向かう家の正面に、見覚えのある人影があった。
「あれはフロム兄弟の長男ですわ!」
あの細身の男か。
この速度で、よくもまあ判別出来るものだ。
「テンダー!! あいつをひき殺すつもりで、
全速力で馬車ごと突っ込むのですわ!!!」
「ええ!? か、かしこまりましたああぁぁぁぁぁ!!!!」
細身の男は機敏な動きで、横に避ける。
その時、窓ガラスから中の様子がわずかに見えた。
家の中はまさに絶体絶命の状況。
俺は馬車の中から、全力で叫ぶ!
「いっけえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ドガッシャァーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!
ガラスの砕ける音。
壁の砕ける音。
金属のぶつかる音。
馬の鳴き声。
様々な音が混ざり、爆音となって鳴り響く。
壁を吹き飛ばし豪快に突入した馬車は、反対側の壁を突き破りようやく停車する。
間に合った!
ギリギリだったが間に合った!!
突入時に見えたネストの顔が、俺の怒りを掻き立てる。
何度も殺された恨みは、そう簡単に消えはしない。
「……うふふっ、派手ねぇ。
派手なのは好きだけど邪魔されるのは嫌いよぉ」
「いったたた。
エリザベート様! これでよろしいですか!?」
「良いですわ。
最高に目立ってますわよ!!」
「ねぇー、姉御ぉー。
このおっさんはどうするのぉー?」
「ほっときなさい。
ちょっと面倒になりそうねぇ」
俺は馬車の扉を見るが、歪んでいて開きそうもない。
ネストへの怒りを八つ当たりするように、力任せに全力で蹴破った。
ボロボロになった馬車から出ると、正面に佇むネストと視線が合う。
「今度こそ……、終わらせてやるよ! ネスト!!!」
「威勢が良いわねぇ、殺しちゃいそう」
もう一度だ。
何度だってやってやる。
もうあきらめるわけにはいかない。
俺は再び、悪夢に立ち向かう。




