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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第五章 喰われる国
287/440

286マス目 プリン


 一位は俺。

 二位はシラン。

 三位、ククル。

 四位にエリザベート。

 そして悲劇の最下位にして、確定スープのテンダー。


「それではシラン。

セルバの用意したものの中から、好きに選ぶといいですわ」


 黄金の全身タイツ、猫耳。

 デスソース、そして圧倒的存在感を放つのは、蠢く謎のスープだ。

 これらの罰を、順位が高い順に選んでいく。

 シランはエリザベートの呼びかけに応じ、その中の一つを手に取る。


「これで」


 あのシランが一瞬たりとも迷わなかった。

 彼女が手に取ったのは、白い毛並みが可愛らしい猫耳。

 いやまあ、同じ立場なら誰だって消去法であれを選ぶだろう。


「これでいい?」


 シランは少しばかりもたつきながら、ふわふわした髪飾りを頭にのせる。

 白い髪だからか、猫耳がいい感じに交わり違和感を無くす。

 その容姿は、一瞬場がざわつく程には似合っていた。


「良いですわねぇ。

まさかセルバ、これを狙ってチョイスしましたの?」


「滅相も御座いません。

ベヨネッタ家自慢のメイドの持つ、潜在的美貌のなせる技。

福執事長として誇りに思う所存でございます」


 俺はここまでかしこまった「かわいい」という表現を聞いたことがない。

 しかも同時にこの家自体も褒め上げた。

 別に貴族間の茶会でもないのに、そのブレない立ち振る舞いには感服の一言だ。


「さぁて、次はククル。

あなたの番ですわよ!」


「うん、あたしはもう決まってるかな」


 そう言ってククルが手に取ったのは、黄金の全身タイツ。

 まあ、無難かな。


「よし、着替えて来る」


 ククルは隣の空き部屋へ移り、せっせと着替え始めた。

 約3分後、顔を赤くしたククルが部屋へと入ってくる。


「ど……どう?」


 何というか、これが似合う人間が存在しないと痛感させられた。

 スタイルも顔立ちもいいククルでさえ、滲み出る滑稽さと惨めさが隠れない。

 全員が目を背け、苦笑を隠し、爆笑を押し殺し、見るのがかわいそうと目を閉じる。


「……うん、知ってた。

知ってたよあたし、早めに終わらせてね、うふふ」


 ヤバイ。

 ククルが鬱モードになってる。

 やっぱあれは結構くるよなぁ。


「さぁ、それでは続けますわ。

今度はわたくしが豪快に別ゲームを果たして見せますのよ!」


 セルバさんの持つお盆から颯爽とデスソースを掻っ攫うエリザベート。

 手のひらに五滴ほど垂らし、一気に口へ放り込む。

 ……ありゃ辛い。


「うぶあぁぁ!!

水っ、水ありませんのぉ!?」


 そこはセルバさん用意が良い事で、右手にはもう水の注がれたコップが用意されてある。

 エリザベートは汗だくになりながら水を受け取り、一気に飲み干した。


「はぁっ、はぁっ、げほっえほっ、はぁ!

こんなもの、人が口にするもんじゃありませんわね」


 そう言いながらソースの瓶をセルバさんに返そうとするエリザベート。

 だが、その手が押し留められる。


「お嬢様、自分が言い出した罰ゲームです。

しっかり果たしていただきますよ」


「へ? は?

いや、今したじゃありませんの」


 そういやあいつ、自分で言ってたなぁ。

 ”負けた者はこの罰ゲームを最後まで受けていただきますわ!!” とかなんとか。

 〔最後まで〕 この部分がキモかな。


「まさかセルバ?

そんな非人道的なことを言うなんて事は……」


「残念ですが、現在私はジャッジ。

ゲームが終わるまでは、わたくしの方が発言権は上となります。

これもお嬢様のご意思ですので、お諦めください」


 ……言ってたなぁ。

 ”公平で厳格なジャッジを求めますわ” とか無責任な事。

 自分で自分の首を極限まで絞めた結果、死のソースが迫る。

 勝負とはどこまでもわからないものだ。


「いやあの、あれは言葉のあやというものでして。

あの…………、えへ?」


 瓶の先をセルバさんがへし折り、中身が一気にエリザベートの口へと溢れる。

 突然の出来事に、エリザベートも体が硬直している。

 というより、口内の状況処理に脳が追い付いていない。


「んびゃやややややああああああああああああああああああああああ!!!!」


「で、デスソースの一気飲み……か」


 口をおさえて床を転がりまわるエリザベートは、いつもの威厳が地に落ちる勢いだ。

 かと思えば魚のように跳ねまわり、時折ブリッジを繰り返す。

 ……辛さって人をぶち壊すんだなぁ。

 あとそれを平然と見ているセルバさんは、相当なド鬼畜と見た。


「さぁ、テンダー様。

最後の一品が残りました。

どうぞお召し上がりください」


 この流れでよく渡せるものだ。

 というか今の惨状を見たら、完食しか許されないのは明白。

 テンダーの顔は、食す前から青白くなってきている。


「頑張れ、俺は応援してる」


「む、無責任な……」


 テンダーは震える手でスプーンを手に取る。

 呼吸を荒くし、物凄い勢いでまばたきを繰り返す。


「……くっ、行きます!!」


 覚悟を決めたテンダーは大きく一口、スープを流し込んだ。

 震えていた肩が徐々に落ち着きを取り戻し、ゆっくりとした咀嚼と共に喉元を通り過ぎる。


「……どうだ?」


 テンダーは目を見開き、スプーンを力強く握りしめてこちらを向いた。


「…………プリンの味がします」


「なんでだよ!?」


 俺はテンダーから奪い取るようにスプーンを掴むと、一口すすってみた。

 口に広がるのは、確かに甘い味わいだ。

 ほのかに卵の香りが鼻孔を抜けてゆき、普通よりとろとろとした液状に近いプリンは、

新食感とも言える楽しさを味合わせてくれるようだ……。

 

「なんでだよ!!?」


 訳が分からない。

 こんなヘドロのような見た目で甘くなるのも、近づいただけじゃ無臭の癖に、

スプーンを入れた瞬間カラメルの匂いが広がるのも。

 

「この泥っぽさを強調させてる表面の腐った藻みたいなのって、

これもしかして綿菓子か?

……なるほど、震えるプリンの上で不自然にこいつが動くから、

気持ち悪く蠢いて見えたって訳か。

ってかセルバさん、何でこんなヘンテコなもんが?」


「ご説明いたしましょう。

それは今厨房で人気の品、ドロネズミプリンでございます」


 名前を聞いただけで、口に指突っ込んで吐き出したくなる。

 そんな俺の表情を見てもお構いなしに、セルバさんは解説を始めた。


「最近ドロネズミ肉の保存食に、消費時期が近づきまして。

どうにか使い切りたいと考案致しましたのが、こちらのプリンとなります。

臭みを消し、味も卵と上手く混ぜ合わせ絶品の出来にすることが叶いましたが、

何分程よく固まらず、色、見た目、内部の細かい気泡による不自然な流動など、

とても皆様にお出し出来る品とはなっておりませんでした。

とはいえ味は確かですので、ぜひ味わっていただきたいと持ってきた所存でございます」


 ……何となく説明は理解できたが、罰ゲームに持ってくる意味は全くなかっただろう。

 しかもこの人、持ってきたときに謎のスープと確かに言っていた。

 こんな藻を足したりだとか、どう見たって見た目が悪くなるような創意工夫がなされてるのを見るに、

セルバさんはあれだ、絶対にこのプリンを押し付け合う光景を楽しんでいただけだ。


「しかしまあ、うん。

多少食べにくいですけど、まずいと覚悟してたおかげか、全然いけますね。

むしろ美味しくてラッキーですよ」


 テンダーは罰ゲームのルール通り、気持ちの悪いプリンをガツガツとかきこんでいる。

 ……それとは対照的に、豪華なドレスのまま床に突っ伏す物悲しい少女の姿が一つ。


「……元気出せよ」


 まさかの提案者が最も過酷な罰を受けるという悲劇。

 きっと明日のトイレは厳しかろう。

 結局その日はこれでお開きとなり、楽しい一日に幕が下りたのだった。








 皆が寝静まった真夜中の時間。

 月明かりが優しく窓から差し込んでいるものの、俺は何となく寝付けなかった。

 見られているというか、人の気配がするというか。

 別に今更幽霊とかが出てきても驚いたりはしない。

 だがまあこういう場合、暇つぶしにイタズラを仕掛けに来たテンダーとかが一番めんどくさい。


「誰かそこにいるのか?」


 もし居ないのならば居ないで別にいい。

 だが、静まり返った部屋から帰って来たのは意外な声だった。


「別に気配は消してませんでしたわ。

起きてたなら言ってくれればいいですのに」


 布団から起き上がる俺の視線の先に、髪をほどいたエリザベートが立っていた。

 純白のシンプルな服は、多分寝間着だろう。


「エリザベート……、お前タラコ唇はどうした!?」


「とっくに冷やしましてよ!!

もうその話題は振らないで欲しいですわ!」


 復帰が早い事で。

 というより、俺の部屋に忍び込んで何する気だったんだこいつ。


「……少し話がありましてよ。

ベットに座っても構いませんかしら?」


「どうせお前んちだろ?

俺は借りてる立場なんだ。

許可を取る必要はねえさ」


「ありがとうございますわ」


 エリザベートは俯きながら、俺の横へ腰を下ろす。

 

「真面目な話か?」


「ええ」


 どう話を切り出そうか、まだそんな悩みが見えるような、

少し複雑な表情をしている。

 わずかばかりの沈黙を虫の声が癒している。

 そんな時間も心地良いと思い始めた時、意を決したエリザベートが口を開いた。


「カナリア国の使者が、この国にやってきますわ」


「……何のために?」


 聞いてはみたが、大まかな理由は察しが付く。

 きっとブルーローズが関連しているのだろう。

 あれは正真正銘、国が動くような相手だった。

 現段階で石油を取り合って会合まで開くカナリアが、何の動きも見せないはずがない。


「言わなくても問題なさそうですけれど……。

わたくし達が戦ったブルーローズ。

あれに関して重大な話があると、今日の朝手紙が届きましたのよ」


「使者が来るのはいつだ?」


「三日後。

本当ならパロット城に招くのが普通ですけれど、

当然数日で済む修復作業ではありませんわ。

今の段階ではお父様が国王様と話し合い、このベヨネッタ邸で迎える事になってますの」


 カナリア王国からの使者。

 どんな奴が来るのか想像もつかないが、

普通の人間がやってくるはずがない。

 これは気を引き締めておいた方がいいな。


「ま、安心しとけ。

話し合いなら多少自信がある。

……というより、話し合い以外はからっきしなんだがな」


「ふふっ、構いませんわよ。

だからこそ、あなたに頼りに来たんですもの」


 窓から見える月が美しい。

 この月をあと二回見たら……。


「また、戦いが始まんのかな」


「わかりませんわ。

でも、わたくしは負けませんわよ」


 どの口が……と言いたくなったが、やめておこう。

 今はまだ、平穏な日々を噛み締めていられるのだから。


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