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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第五章 喰われる国
281/440

280マス目 ククルの不思議な散歩道


 クリーム色の短いズボン。

 薄ピンクのヒラヒラしたシャツに、犬のマークが可愛いカーディガン。

 ククルは鏡の前で機嫌良さそうに、耳をピコピコと動かした。


「うん、バッチリ!

んじゃ、アルニア。

あたしちょっと出かけてくるね!」


「ああ、気を付けて」


 にこりと笑いかけてくれるアルニア。

 手だか触手だかわからないけど、優しく振ってくれるダイタル。

 新聞を読みながらこっちを見向きもしないワイゼム。

 あの爺さんは気に入らないけど、今日のいい天気に免じて許す。


「いってきまーーす!」


 あたし、ククル・ラビエッタの一日が、今日も始まる!








「んーー、美味しい!

うんうん、この店は当たりだね」


 ククルは短パンのポケットから紙とペンを取り出し、さらさらとメモしていく。

 次来た時にチェックするメニューと、今日食べた何品かの美味しさ。

 それを細かく書き止めていくのだ。


「ふんふん、ギルド地区にもこんな美味しいお店あったんだね。

このシュークリーム最高」


 テーブルの上に積み重なる皿は、もう七皿目に届こうとしている。

 ようやくフォークを置いたククルは、会計を済ませ上機嫌で店を出た。


「さーてと、食後の運動運動。

あ、そだ。

折角だからお兄さんの顔でも見に行こうかな。

また面白い話してくれるかもだし」


 ククルは大きく息を吸いながら伸びをする。

 そして、辺りに砂埃が舞うほどの勢いで息を吐き出す。

 近くを走っていた馬車を引く馬が驚き、蹄を鳴らしている。

 そんな光景を横目に、ククルは地面の感触を確かめて、膝に手を置いた。


「よーい、……ドン!」


 地面に薄くひびが入る程の強さで、ククルは地面を蹴る。

 グンと飛び出すように、ククルの体は一直線に道路を駆け抜けていく。


「うおぉ!?

お嬢ちゃん、それ走ってんのか?」


 横を走る馬車の御者が驚きの声を上げた。

 馬車とは言え、今日は道が空いている。

 既に馬は最高時速に到達してるのだ。

 それなのに走りで並走なんてされれば、驚くに決まっている。


「うん、おじちゃんもやる?」


 ククルは冗談交じりにニカッと笑うと、耳をピコピコと動かしながらさらに速度を上げる。

 御者が返事をしようとククルの背中を見つつ、手綱を振るう。

 だが馬を叩く音が響いただけで、会話が続く距離から一瞬で離れてしまった。

 御者はどんどんと小さくなるククルの背中を見ながら、薄く苦笑いを浮かべるのだった。







 中央区南東。

 ここからは修復途中の時計塔が良く見える。

 そんな林沿いのベンチに手を置き、ククルはそっと汗を拭う。


「ふぅ、さすがに疲れちゃった」


 ククルは汗を拭った手に違和感を感じ、指先に視線を送る。

 

「震え……止まんないな。

別に寒いわけじゃないのに」


 普段通りに走れた。

 体は回復してる。

 でも、完全ではない。


 ”ドラグニックギア”


 ククルにも制御の利かない、常軌を逸した肉体強化の魔法。

 その後遺症で、ククルはたまにこうして指先が震えるのだ。


「……うん、いいや。

どうせ考えたってわからないし。

気分上げるためにもう一軒、どこかで食べてこようかな?」


 ククルがぐっと胸を張ったその時。

 ポケットからはみ出しかけていた一枚の紙が、するりと落下する。

 そしてタイミングが悪い事に、ヒラヒラ舞う紙を掬い取るかのようにして、

少しばかり強い風がふわりとククルの髪をなびかせる。

 当然、白い紙も空へと巻き上げられていった。


「え? あ!?

あたしのお菓子メモが!」


 咄嗟にジャンプしたククルだったが、指先をかすめるようにして、

さらに高く遠くへと紙は自然に奪い去られてしまう。


「あぁ、折角書いたのにぃ。

ちょっと、待ってよぉ」


 用紙はまるで妖精にでも運ばれているかのように、ふわりふわりと建物の隙間をぬって、

どこまでも遠くへ飛ばされてゆく。


「もう、普段通りならとっくに追いついてるのに」


 木に足をかけ、レンガ造りの建物の外壁を走り、大きく手を伸ばしてもまだ届かない。

 そのうち風に攫われる用紙は、大きめの林へと入り込んでしまった。


「……うぅ、木に引っかかってないよね。

さすがにこの中から探せってなると、心折れちゃうなぁ」


 不安そうに肩を落としながら、ククルは林に足を踏み入れた。

 中央区のはずれに位置するこの場所は、葉の一枚一枚が通常の樹木よりも厚く、

日の光を大きく遮断している。

 その為、昼間でも随分と薄暗い。


「うー、どこ行ったのよ。

あたしのお菓子メモ。

あれに6店舗分も書いてあるのに」


 生物ならまだしも、ただの紙では気配を追う事もできない。

 キョロキョロと視線を動かしながら、歩幅を小さく歩き続ける。

 数分もしないうちに、先の方で大きく開けた場所から光が差し込んでいるのが見えた。

 

「はぁ、向こうに無かったらもう一往復して来よう」


 もはや諦めの色が濃厚になってきたククル。

 肩をがっくり落とし、いつもピンと立っていた耳はしょんぼりと折りたたまれる。

 そんな彼女の前に、人影が立っていた。


「え?」


 気落ちしていたとはいえ、辺りに気を配っていたククルが、

人の気配を見落とした。

 その事実に、ククルは少しばかり焦りを覚えた。


「誰!?」


 咄嗟に構えるククル。

 逆光で見えづらいが、子供のようなシルエット。

 だが、こうして視界に捉えているのに、今だ気配を感じない。


「……これ、お姉ちゃんの?」


「ん?

……って、あーーー!

あたしのお菓子メモ!?」


 ククルは飛び出すように距離を詰める。

 目の前に差し出された物を受け取ると、それは確かにククルの無くした用紙。


「良かったぁ。

もう絶対見つからないと思ってたんだ!

ありがとう、ほんっとにありがとう!」


 ククルの喜ぶ顔を見て、小さな少女はにっこりと微笑んだ。


「じゃあね」


 それだけ言うと、少女はどこかへと去ってゆく。

 ククルはもう一度お礼を言いながら、少女に向かって手を振った。

 その時ようやく、ククルは辺りの異変に気づく。


「……あり?

ここどこ?」


 見回しても、街で見た建造物は何もない。

 付近は森の木々で囲まれて、地面は草が覆い茂る。

 ククルの立つこの場所だけが、樹木を追い払ったよう広い空間となっていた。

 その中央に存在する木造の小屋だけが、今見える時点で唯一の人工物だろう。


「ああっ、えっと……。

ちょっと待ってよー」


 ククルは小屋へと入ってゆく少女に向かって、今度は違う意味で手を振った。

 しかし、少女は気づかず入って行ってしまった。


「ど、どうしよ。

いやでも、普通に戻ればいいのかな?」


 ククルは今来た道を振り返るが、どうもさっき足を踏み入れた時より暗く見える。

 薄暗いというよりは、明かりが欲しいくらいには暗い。

 そもそも、入った時の印象は街にある普通の林。

 だが、今こうしてみるとどう見ても深い森だ。

 

「……うん、やっぱあの子に聞いておこうかな」


 何となく背筋が寒くなったククルは、平静を装って小屋の戸を叩く。


「もしもーし。

あの、さっきメモ拾ってくれた女の子いますか~?

ちょっとお話ししたいんですけど」


 コンコン、コンコンと、二回三回ノックを繰り返す。

 けれども小屋の中からは一向に返事が無かった。


「えっと、……あれ?

鍵かけてない」


 ドアノブが動く。

 試しに少しだけ引いてみると、ゆっくりと動いてしまった。

 ククルはピタリと手を止め、音が立たないように元へ戻す。


「いやいやいや、勝手に入るのはマズいよ。

まぁ、不法侵入くらい隊に居た時いくらでもやったけど。

……うーん、でもあれは依頼だったしなぁ」


 頭を抱え、葛藤するククル。

 だが、目の前に佇む辺鄙な小屋を見上げて、ククルはふと気がつく。


「それにしても、なんであの子気づかないんだろ?

こんな小さな建物、どこに居たってノックくらい聞こえるよね」


 ククルの中で、現状の不安よりも少女の心配が上回る。

 気づかないんじゃなく、気付けない可能性。

 不慮の事故や、中に悪人が潜んでいた場合など、カナリア国ではよくある事だ。

 ククルは急いで扉に手をかけ、一切の躊躇も無く開いた。


「大丈夫!?

なんかあった…………の?」


 張り詰めていたククルの緊張は、一瞬にして無数の?に覆われる。

 飛び込んできた光景は、普通の住居。

 窓からは綺麗な緑が見え、清潔にしてあるキッチンに玄関周り。

 小さな花瓶に入れられた花が、とても可愛らしい。

 でも、そんなものはククルの眼には少しばかりも映っていない。


「なに、あなた?」


 街の飲食街や酒場でも良く見かける木のコップ。

 それを器用に尻尾で持ちながら、中に入っている水を飲む生物が、

木製のテーブルの上に鎮座している。


「…………ドラゴン?」


「カウゥゥーー」


 それは、小さな小さな紫色の竜だった。


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