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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第四章 街色の花びら
229/440

228マス目 午後六時


「というわけで、これがそのビー玉です」


「ほぅ、こんな小さな玉が。

しかし、そんな事をこんな老いぼれに話していいんかのぅ?」


「ま、ルガニスさんにバレたら大目玉ですけどね。

でも俺は、ヒゲ爺がブルーローズに加担してるとは考えらんないんで」


 ここはヒゲ爺の自宅。

 本当は拳銃を取りに来るつもりだったが、

思わぬ収穫があったため、ある作戦をヒゲ爺に伝えに来たのだ。


「しかし、こんな玉どう使えばいいんじゃろう。

ブルーローズほどの集団が狙うともなれば、相当なものなのじゃろう?」


「ええ、使い方はちゃんと聞いて来ましたよ。

想像以上にシンプルな魔道具です」


 俺は帰りの馬車の中で聞いた、ルガニスさんの説明を思い出す。








「竜の魔道結晶。

その本質は、攻撃でも防御でもない。

むしろ敵を利用することにある」


「利用?」


「そう、この魔道具は竜にしか効果が得られず、腹の中で消化されればそれまでの消耗品。

本当はもう少し鮮やかな色だったと言われているが、数回の使用で消化されひどく光沢がくすんでしまっている」


「消化って事は……、食わせるんですか!?

こんなとんでもない代物を!?」


「ああ、こいつはそれが使用用途だ。

これを食べさせた竜族はたった一つだけ命令を聞く。

それがこの宝玉の効果だ」








「洗脳系の魔道具。

確かに珍しいが、使いどころが難しいのぅ」


「桃太郎印のきびだんごみたいですよね」


「なんじゃそれ?」


「なんでもないです」


 それはそうと、この魔道具をブルーローズの手の届かないところに隠してほしいと言われている。

 しかし、折角の道具をここまで来て温存というのも、逆にもったいない気がするのも事実。

 というわけで、一つ作戦を考えて来た。


「ヒゲ爺、あなたに折り入って頼みがあるんです。

実は……」








「それをワシが実行に移せと?

随分老体に鞭を打つのぅ」


「何言ってんですか。

老体って次元じゃないでしょう。

200歳越えなんですから。

それより、今のを実行に移せますか?」


 俺は相当に熟考すると踏んでいたが、ヒゲ爺はいとも簡単に答えた。


「出来るに決まっとろう。

じゃが、時間ピッタリとはいかんと思うぞ」


「……本当ですか!?

いやいや、十分です」


 ともかく、これで運が良ければさらに戦力が増える。

 俺は躊躇もせずに竜の魔道結晶を手渡す。

 そして結晶と交換するように、俺は拳銃を受け取った。


「助かりますヒゲ爺。

それじゃ、運が良ければまた後で」


「おお、そうじゃな。

お互いに生きて会えるようにのぉ、ほっほっほ!」








 城に戻った俺は、荷物整理のために部屋へ閉じこもる。

 

「しっかりと整理してなかったから、ぐしゃぐしゃだな」


 随分と久しぶりに、俺は鞄の中身をぶちまける。

 ベッドの上に散らばった道具たちには、もはや愛着すら湧き始めている。


「このライター、こんなボロボロだったっけ?

口臭スプレーも随分変な事に使ったよな。

もう中身ほとんどないけど。

この小説も相当読み込んだな。

一時は折り目だらけだったのに、今は綺麗なままでやんの。

そういえば筆記用具の中にカッターなんて入ってたっけ。

折角の武器なのに一回も使ってないな。

タブレットは……あと充電が30パーセントか、大事に使わないと。

スマホはもうダメだな。

ククルが急に動かなくなったって、半泣きで駆けこんできたときは随分笑ったなぁ」


 そして、もう吸わないと思って鞄の奥にしまっていた、煙草の箱。

 一本は潰れて吸えなさそうだが、もう一本は無事なようだ。


「……俺たちの勝利を願って。

…………乾杯」


 染みわたる煙は、震えるほど美味かった。








 時計塔の針が進む。

 現在の時刻は午後五時四十分。

 俺は、そんな時計塔の展望台にある手すりに、そっと上着を巻き付けた。


「……さてと、皆準備はいいか?」


 俺の背後に並び立つ、第0部隊の精鋭。

 並びに、リックとルガニスさん。

 そうそうたるメンバーを前に、俺はゆっくりと振り向いた。


「この戦いは絶対に負けられないものだ。

でもな、一つだけ言っておく。

…………絶対に死ぬなよ」


 それぞれが強く頷く。

 もう時間だ。


「それじゃあ総員、配置に付け!!」


「了解!!」


 散開してゆくメンバー達。

 ただ一人エリザベートを残して、皆はそれぞれの持ち場へと向かってゆく。

 

「本当に、わたくしがこの場に立っていいんですの?

……わたくしには、奴に勝てる確信がありませんわ」


「いいんだ。

できる事を精一杯やってほしい。

無理だと思ったら逃げたっていいんだ。

俺たちがフォローする」


「ですけれど……」


 気弱になるエリザベート。

 だが、言う事は決まっている。


「俺は信じてるぞ。

お前なら勝てるって。

微塵の疑いも無いさ」


 エリザベートは言葉に詰まった様に顔を伏せた。

 そして、ため息をつくように顔を上げると、

さっきまでの気弱な表情は、どこかへと吹っ飛んでいったようだ。


「敵いませんわね。

わたくしよりずっと弱いあなたが、そんな風に檄を飛ばしてくれるんですもの。

頑張らないわけにいかないじゃありませんの」


「そうか?

俺はお前と戦っても勝つ自信があるけどな」


 お互いに顔を見合わせ笑い合う。

 一通り笑った後、俺はそのまま出口へと歩き出した。


「あなたが言ったんですのよ。

絶対に死ぬなって。

これが今生の別れとなったら、墓石を蹴り飛ばしてやりますわ」


「そりゃ怖いな。

万が一にも死ねねぇや」


 俺の靴音だけが響く中、俺は振り向かずに片手を上げた。


「またな」


 決戦の鐘の音。

 時計塔が午後六時を指し示し、美しい鐘の音色を街中へと響かせた。


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