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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第一章 振られもしないサイコロの目
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21マス目 トマト好きの少女


「おい近づくんじゃねぇぞ! 精霊はやべぇ!」


 侵入者たちは一定の距離を置き、遠距離魔法で攻撃した。


「ひとつ言っとくが、ネクロライズに攻撃はやめときな、……ってもう遅いか」


 それは凄惨の一言だった。

 翼に攻撃が当たると、攻撃を放った男が二つに裂けた。

 胸に攻撃が当たると、男は全身から血を吹き出した。

 右腕に攻撃が当たると、体は焼け焦げ、左腕に攻撃が当たると、全身穴だらけになって死んだ。

 特にエグかったのが、鉄の処女に攻撃したマッチョだ。

 鉄の処女から放たれた鎖に捕まり、無数の針に叩き付けられる。

 その状態で、回転させて切り刻んでいたのだ。

 耳に残る断末魔は、そう簡単に忘れることはできないだろう。


 本当に一瞬の出来事だった。

 10人もいた屈強な男たちは、数秒前の怒号が嘘のように、息もしない肉塊になり果てている。

 あたりに漂う血の匂いに、俺は口元を手で覆う。


「エリザベート、終わったぜ」


「ええ、見ればわかりましてよ」


 エリザベートはリックのフードを、優しくかぶせた。

 するとリックのキリッとした表情は、たちどころに弱々しく変化した。


「あ、あの……、この方たち、どこに埋めて差し上げれば?」


 おどおどした声と言葉使いに戻っている。

 まるで二重人格だ。

 やっぱりこの世界の人は、どこかズレている。


「リック様、死体の処理は、こちらでやっておきますので」


「せ、セルバさん! あああ、ありがとう……ござい…ます」


「そうですわ! せっかく来たのですから、お茶くらい飲んでいきませんこと?」


「え、いただきます! ありがとうエリザベートちゃん」


 こうしてみると、普通の人に見えるのになぁ……。

 そう思いながら俺は死体清掃の邪魔にならないように、そそくさと屋敷を出る。


「ちょっと待ってくださーーい」


 屋敷の正門から出たあたりで、俺は呼び止められた。

 振り返ると、何かを持ってこちらへ走るテンダーの姿。


「ん? 俺、忘れ物したか?」


 目の前で息を整えるテンダーに、鞄の中身を確認しながら聞いてみた。


「いえいえ、エリザベート様からこれを渡してこいと頼まれまして」


 それは鞄にギリギリ入るくらいの、大きめの包みだ。

 とりあえずその場で開けてみる。


「これは……、服?」


 広げてみると、ローブだった。

 全体がベージュ色で、背中にペガサスが刺繍されている。

 シンプルだが割とカッコいいデザインだ。


「いいのか? 随分高級そうだけど……」


「ええ、どうぞ、差し上げます。 

それにそんなお金持ってそうな恰好でいると、悪党に襲われやすいですよ?」


「ありがたくいただきます」


 戦うのはもうこりごりだ。

 そんなほいほい襲われたら、命がいくつあっても足りない。

 今は本当に命がいくつもあるけど。


「それではお気を付けて」


 テンダーに手を振り返すと、俺はヒゲ爺の家へ歩き出した。








「ヒゲ爺の家、…………遠!!!」


 俺は再度地図に目を通す。

 地図上では結構近くにあるように見えていたのだが。

  

「……これって、この道を真っすぐ行くって書いてる場所で、

メチャクチャ端折ってるな」


 途中何度も馬車を借りればよかったと思うが、馬車の借り方が分からない。

 現代のタクシーのありがたみが身に染みるほどよく分かる。


「えっと……まさかまさかと思うんだが。

ここを行けなんてバカなこと要求しないよなぁ」


 立ち塞がるT字路、いや正確には真っすぐ行ける道もあるにはある。

 だが正面の道は、道とも言いづらい薄暗い建物の隙間。

 地図に従うならば、ヤバイ匂いぷんぷんの裏路地を進めということらしい。


「マジかよ、勘弁してくれホントに……」


 治安の悪い街の裏路地ほど怖い物はない。

 俺は既に路地裏の洗礼というものを十二分に味わっている。

 だがここを迂回するにしても、左右は商店街。

 次どこで曲がれるか分からない。


「はぁ……、早速使わせてもらいます」


 俺は鞄からローブを取り出し、全身を覆い隠すように羽織った。


「こんなローブ一枚で大丈夫かな?

やっぱ迂回しまくって……、いやそれで迷ったりしたら最悪だろ」


 そう考え始めたら泥沼だ。

 もうごちゃごちゃ考えるな!!

 突っ込めぇぇぇええええええ!!!


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 突っ込み続けて数分後、無事に路地裏を抜けた俺は気づく。

 商店街で普通の服を買えば良かったと。


「しくじったぁぁぁぁぁぁあああ!!」








 歩き疲れた俺は、公園のような場所で一休みしていた。

 すでにローブは脱いで鞄にしまってある。


「なんかあのローブムズムズするんだよなぁ。

何でだろ、異世界の服だからか?」


 独り言をつぶやきながら、買い物袋を漁る。

 俺は近くに売っていたトマトをかじりながら、公園の中央にある小さな噴水の前で、楽しそうに遊ぶ子供を眺めていた。


「……こういう風景は、どこの世界も変わらないもんなんだなぁ」


 暖かい光景に和んでいると、その雰囲気を壊すかのように嫌な光景が目に入った。

 遠くから見ている限りだと、あれはいじめだ。

 一人の女の子に、5人が寄ってたかって暴言を吐き、時折木の棒で叩いている。

 全員小学生くらいに見えるが、随分と容赦のない事をする。

 大人として見過ごすわけにはいかないが、下手に怒鳴りつけても、あの手の子供はまた同じことを繰り返す。

 俺は少し考えながら駆け寄り、胸元で食べかけのトマトを握りつぶす。


「ああああああぁぁぁぁ!!! 

き、君たちぃぃ! 助けてくれぇぇぇ!!!!!」


 足をプルプルさせ、呼吸を乱し、肩をガクつかせ、子供たちに駆け寄る。

 胸元からは赤い液体がボタボタと垂れている。


「お願いだぁぁぁぁあああ!!! 

刺されたぁぁ、刺されたあぁあぁァァァァあああぁぁ!!!!!!」


 子供たちは阿鼻叫喚。

 泣き叫ぶ、転ぶ、また泣き叫ぶ。

 そうして全力疾走で逃げていった。


「ふふっ、秘技死にかけの術だ、まいったか」


「……助けてくれたの?」


 驚いた。

 いじめられていた女の子は、この完璧な演技を見抜いていたようだ。

 高校時代に演劇部部長だった俺としては結構ショック。

 だがまぁ、無事みたいで良かった。


「おう、正義の味方参上だ。

大丈夫だったか?」


「うん、ありがとう」


 俺は地面にへたり込む少女に手を伸ばす。 

 そのとき、少女の肩まで伸びた白い髪が指先に振れる。

 ロシア人のようにも見える整った顔立ちは、クラスのアイドルになってもいじめられるようには見えない。

 そんな少女の体には、棒で叩かれた傷跡に血が滲んでいる。


「ちょっとこっち向いて」


「?」


 俺は少女の傷口に絆創膏を貼っていく。

 持っていた6枚全てを使い切ったが、まあいいだろう。


「痛くないか?」


「うん、もう平気」


 妙に落ち着いた子だ。

 あんな事をされたのに、目が潤んでもいない。

 不意に少女が俺の胸元を指さす。


「ねぇ、トマトってまだある?」


「え? まあ、あるけど……」


「もらってもいい?」


 ……トマトが好きなのだろうか?

 まあ、子供のころから野菜が好きというのは、とても良い事だ。

 せっかくなので、一番大きく色つやの良い物を手渡した。


「ありがとう」


 お腹が空いていたのか、大口をあけてガツガツと食べている。


「美味いか?」


「うん」


 無表情で食べているので、喜んでいるのかいまいちわかりづらい。

 俺はさっきトマトで汚した服の汚れを、ティッシュで拭きながら話しかけた。


「トマトが嫌いな子供は多いけど、君は食べられるんだな」


「うん」


「……トマト好きなの?」


「うん」


「…………そうなんだ」


「うん」


 どうしよう、会話が続かない。

 そもそも子供と話した経験もそんなにないのだ。

 ユキちゃんみたいに自分から喋ってくれると、会話もしやすいんだが。

 こういう大人しい子の相手をするのは、独身男性には難しい。


「……おじさん、トマトありがと」


「ん、もういいのか? もう一個食べてもいいぞ?」


「ううん、一個でいい」


 少女は首を横に振ると、すぐに立ち上がりどこかへ走っていく。

 俺は何となく、走り去ろうとする少女に名を聞いてみた。


「そういえば、君の名前は?」


 少女は立ち止まり、白い髪を揺らしながら振り返る。


「私はシラン、シラン・クローバー。

シランでいいよ」


 その時、少女は初めて笑顔を見せた。

 やはり子供は笑っている顔が似合う。


「そうか。

元気でな、シラン」


「うん、じゃあね」


 シランの走り去る後ろ姿を見送って、俺は腰を上げる。


「さてと、そろそろ行きますか」


 俺は残ったトマトをかじりつつ、ヒゲ爺の家に向かって歩き始めた。

 この後3時間も歩く羽目になるとは、この時の俺はまだ思ってもいなかった。


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