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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第四章 街色の花びら
201/440

200マス目 見慣れぬ号外


 目蓋に映るいつもの文字。

 もうこの光景も何度目だろう。

 

「この瞬間は、妙にまぶしく感じるな」


 降り注ぐ太陽の光に思わず目を細める。

 そしてゆっくりと手を頭の上に回しつつ、伸びをした。

 ここでこんなに清々しい気持ちでいられたのは、初めての経験だ。

 けれども浮かれてはいられない。

 ブルーローズのボス、フリギアの前では勝ち誇って見せたが、

実際倒せなければ完全勝利とはいかない。

 今の状況を例えるならば、三ラウンド制で一勝一敗の状況。

 勝負をかけるならここだ。


「となれば、……まずどうすっかなぁ」


 今の俺にやれることは多い。

 ブルーローズのメンバーにフリギアという名を聞かせれば、きっと飛び上がってくれるだろう。

 だが、そんな事をして一時的に仲間に引き入れても、フリギアと戦ってくれなければ意味がない。

 だとしたら、やはり戦力集めだろうか?

 結局のところ、フリギアだけではなく構成員もどうにかしなければならない。

 だったら構成員と真っ向勝負できる人間を集めておくのが無難か。


「構成員が確か9人だよな。

となると、こっちも最低9人は欲しいな」


 パッと思いつくのは、エリザベート、ククル、リック、ルガニスさんの4人。

 あと、無理をすればテンダーも戦えるか?

 それでも5人、あまりにも心もとない。

 ……俺結構色々やってるつもりだけど、案外味方が少ない。 


「ま、何にしたってここで座ってたら、そのエリザベートすら仲間になんないんだ。

全てにおいて初めから、……上等じゃねぇか」


 俺は強く両拳を合わせると、ベンチに置かれた鞄を手に走り出した。








 人々の雑踏と話声に紛れて、俺は商店街を歩いている。

 あと数分も歩けば、ネストの姿が見えてくるはずだ。

 いくつか考えてみたが、昔やったやり方でエリザベートと共闘すれば、

ネストを倒せるかもしれない。

 だがよくよく考えてみると、あれはあまりにバクチが過ぎるのだ。


「ここで上手く写真を撮って、エリザベートを説得して、

んでもってテンダーが一切事故らず、突入時に誰も怪我しないのが前提条件。

タイミングもギリギリで、いつも入った時には誰かが死ぬ寸前。

……よくもまあ成功してたもんだ」

 

 自分の豪運っぷりに、思わず苦笑いが浮かぶ。

 こうやって冷静に思い返すと、もう二度と実行に移せる気はしない。

 とにかく、ユキちゃんの家でネストと戦うのは候補から外れた。

 そうなれば、あとはまた説得の道だ。

 しかし、それはそれであとからしっぺ返しが来るのは経験済み。

 どんなに嘘を並べたとしても、持って数日。

 それじゃあ少し短いんだ。


「説得も駄目となると、あとは……。

おっ、来た来た」


 俺の正面から歩いてくる人影。

 目立つ三人組は、明後日の方向を向いていたって気づけるだろう。

 特に右側を歩く巨漢の男には。


「さて、どう仕掛けるか」


 正面から行けば秒で首が飛ぶ、俺の。

 ま、為せば成るか。

 もう綱渡りは慣れた。

 初見じゃなけりゃ、こうも落ち着けるのか。

 俺は深く息を吸うと、ニヤリと口角を引き上げる。


「やっ、おねぇさん随分美人じゃない?」


 俺は駅前のキャッチのような営業スマイルで、チャラく声をかける。

 当然相手さんから鋭い視線が飛んでくる。


「何だテメェ、姉さんに気安く声かけてんじゃねぇぞ」


 細身の男は人目もはばからず平然とナイフを取り出す。

 まあ別に驚くことじゃない。

 というか、こいつの名前なんて言ったっけ。

 ……ああそうだ、思い出した。


「そんな警戒すんなよ、ジペスタ・フルムダーリック。

民家襲いたいんなら、さっさと行ってションベンでも引っ掛けて来な、薔薇の犬っコロが」


 予想通り怒り心頭のご様子。

 煽り体勢がなさすぎて、ある意味扱いにくい。

 後先考えずに俺を殺そうと、思いっきりナイフを振り上げる。

 その背後に立つ女の気持ちも考えず、無様に。


「ぶち殺してらがっぺぇ……」


 細身の男の喉元を、深々と突き刺す曲剣。

 そのままヒョイと浮かされた男の体は、近くの人混みへと投げつけられる。

 その瞬間、まるで隕石でも落ちてきたような阿鼻叫喚が巻き起こる。

 取りあえず俺は、顔に飛んできた返り血をそっと袖口で拭った。

 あんなショッキングな瞬間も、意識して見ないようにすれば普通に耐えられるようになってしまった。


「困ったわねぇ。

騒ぎにしたくなかったのに……」


「あっ……、え?」


 固まったままの大男。

 兄の死を目の当たりにして、まだ頭が追い付いていない様子。

 そこへ無慈悲な斬撃が振り払われる。


「あーあー、思いっきり見ちまった」


 頭の半分が吹き飛び宙を舞う。

 死体だけならもう大丈夫だが、やはり人が無残に死ぬ瞬間は気持ちが悪くなる。


「聞かせてくれない?

あなたは何者なの?」


「あんたに言う義理はないだろ。

まあ、言うなれば通りすがりのナンパ野郎だよ」


 俺は後ろ頭を掻きながら、思い出す風を装ってとってつける。


「あ、そうだ。

フリギアの馬鹿に言っとけ、魔道結晶は諦めろってな」


「……へ?」


 その場でぺたりと座り込むネスト。

 俺はそのまま背を向けて去りつつ何回か振り返るが、ネストはずっとうつむいたままだった。

 念のため、その後数時間ユキちゃんの家を見張っていたが、結局ネストは現れなかった。








「……美味い」


 思えばいつもスルーしてた。

 中央広場に出てる肉屋の屋台。

 ここのケバブっぽい匂いはいつも気になってたのに、

ゆっくり食べる時間なんてほとんど取れてなかった。

 今初めて口に運ぶこの味、……たまらん。


「何だろうな、この肉。

牛タンっぽいけど、歯ごたえはもっと柔らかいし。

あと、かかってるタレは何使ってんだろうな。

いい感じに甘辛い」


 どうせなら店の人に聞いてみようかな。

 今晩どこかに泊まった時にでも、夕食で使うってのも手だ。

 そんな風に安全な日常へ思いを馳せていると、広場の中心辺りに人だかりができ始めた。


「号外! 号外だ!!」


 人だかりの真ん中で、大声をあげながら新聞を配る男の姿。

 号外というのは、今までに出会ったことが無い。

 いつもとは少し違う未来になったのか、それとも俺が今まで気づかなかっただけか。

 まあとにかく、見ればわかる。

 俺は新聞屋の足元にある料金用の箱に、百円玉を放り込み新聞を受け取る。

 早速近くのベンチに腰掛け、適当にタバコをくわえて新聞を広げた。


「んな!?」


 火を点けようとライターを近づける手が、途中で停止した。

 動揺で口から転げ落ちそうになったタバコを、慌ててくわえ直し、再び新聞に目を落とす。

 見出しはこうだ。


”ブルーローズ大幹部、ネスト・ダーリッヒ衝撃の逮捕!!”


「……まさかあいつ、あのままずっとへたり込んでたのか!?」


 ……とにかく、平和な時間は終わったようだ。


「えっと、パロット城で拘留されてから、

三日後に裁判とか書いてあるから、少なくとも三日間は城にいるはず」


 俺は最後の一服とばかりに、タバコを限界まで吸い尽くしてから、

鞄の持ち手を強く握りしめ、城へと向かった。


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