表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第一章 振られもしないサイコロの目
20/440

19マス目 原始に劣る術


 夕食は、昼よりさらに豪華だった。

 炎天草という温かい薬草のスープ。

 王魚というピラルクのような魚のカルパッチョ。

 ヘルクロコダイルというモンスターのローストビーフ。

 などなど、目にも鮮やかな料理が並んでいる。


「あなた書庫で随分騒いでいたそうですけど、何をしてらしたの?」


「んむぐぅっ!」


 俺は口に含んだスープを吹き出しかけた。

 それを何とか堪えて強引に呑み込む。


「……なっ、何で知ってるんだ!?」


「わたくしの屋敷に、何人の従者がいると思ってますの?

大抵のことは誰かが見ているか、聞いていると思った方が良いですわよ。

書庫の事も、そこのメイドが聞いていたそうですわよ」


 エリザベートが示す先には、背の低いメイドさん。

 でも居眠り中なのか、頭がガックンガックンしている。

 今にも頭に付けているカチューシャが飛んでいきそうだ。

 

「で? 何をしてらしたの?

そんなに面白い本でもありまして?」


「まあ、そうだな、つい熱が入ってさ。

次から気を付けるよ」


 別に嘘は言っていない。

 適当に別の話題を振りながら、フォークを口に運ぶ。

 食後のワインを飲み干すと、俺は席を立った。


「ご馳走様。

なあ、エリザベート」


「ふぁんふぇふふぉ?(何ですの?)」


 食べてるときに話しかけた俺も悪いが、もう少し上品に食べてもいいと思うんだ。

 そう言おうと思ったが、ネクタイにソースのシミがあることに気が付いたので、言い返されないようにコッソリ拭きつつ言葉を飲み込む。


「えっと、また書庫を借りるけど、大丈夫か?」


「ひょもひゃにゃいひゃら、ひーへふはほ(汚さないなら、良いですわよ)」


「お…おう、ありがとな」


 もはや何を言っているのか分からないが、多分断られてはいないだろうし、お礼を言っておく。

 俺は部屋に置いておいた鞄を取りに行くと、再び書庫へ向かった。








「さてと、今度こそ脱線しないように、キッチリ行こう、キッチリと!」


 エリザベートの話だと、ここにいられるのは明日の朝までだろう。

 なら今晩が最後のチャンスだ。

 今度こそ、この世界が何なのか知るための有力な情報を見つけたい。

 とにかく、今一番知りたいことは歴史だ。

 おとぎ話のような物でもいい。

 この世界と、元の世界を結ぶヒントでもあれば帰れる可能性だってある。


「……このあたりになら、あるかもな」


 俺は書庫の奥に足を運んだ。

 このあたりになると、しばらく掃除がされていないようで、少し埃っぽい。

 いくつかの本棚を物色していると、妙にカラフルな本棚が目にとまる。

 何となく一冊手に取ってページを開く。


「随分文字が大きいな、子供用か?」


 それは小説と言うより、絵本に近かった。

 内容は、白いバンダナの少女が魔女の森に迷い込み、子供の竜の力を借りて森から脱出するファンタジーだ。


「この本棚、全部絵本か?」


 軽く見ても1000冊はある。

 これを読んでいては一週間あっても足りない。

 取りあえず、分厚い本を5冊ほど選んでみる。

 …………選んでる最中に見つけた、

『えりざべーとのぼうけん』と書かれた古い手書きの本は見なかったことにする。


 30分後。

 全部パラ見だが、これと言った収穫はなかった。


「何だかどれも似たり寄ったりだな」


 子供用の本に不満を言いつつ、本棚に戻していく。

 ここよりさらに奥にも本はあるが、よく分からない詩や、王政の演説の本。

 哲学や宗教の本など、確実に睡魔を誘う本がずらりと取り揃えてある。

 これらに手を出す気は毛頭ない。


「……何だあの本?」


 ふと俺が見つけたのは、背表紙に文字の無い茶色の本。

 ほかの本と違って、傷つき方が全く違う。

 表紙も剥がれかかり、明らかに年季が入っている。

 その本は本棚の一番上の段にあったが、手を伸ばしギリギリで取ることができた。


「その名は六面体の目に、……か、何だろうなこの本」


 俺はその場で軽く読んでみた。

 それは小説と言うよりは聖書のような内容。

 神はいかにしてこうなされた、神はこのような言葉をくださった。

 そういった文章が500ページ以上にわたって綴られている。

 武神ライ王がどうとか、魔女エルヴィラがどうたら、終焉の魔王がうんたらと。

 こういった文章を読むのは苦手だ。

 俺はそっと本を元の場所に戻す。


「ダメだ……、こんなんじゃ絶対見つからない」


 図書館のように、ちゃんと種類ごとに分けられていたら少しは違うだろう。

 だが所詮は人の家。

 そこまで綺麗に整頓なんてされていない。

 料理の本の中に”魔物と昆虫の違い”という本が紛れていたり、

”淑女の嗜み”という本の隣に、”悩殺セクシーパンツの選び方”という本があったり。

 パッと見は整頓されているが、よくよく見ると完璧に整頓された棚は半分もない。

 俺はだんだん諦め始めてきた。

 そして目が行った先は、”ゴブリンでもわかる魔法術”という本だ。


「……少しだけだ。

10分だけ見たら探し始めよう」


 いくら社会人になっても、豪快な魔法には憧れてしまう。

 頑張れば使えるかもしれないと思うと、そう簡単に好奇心は抑えられない。

 たとえ大人だって、手から炎が出たり、武器を召喚出来たりしたら、誰だってキャッキャと騒いでしまうと思う。


「えっと、人には得意な属性があります。 ふむふむ。

火、水、木、雷、魂、以上の5種類です。なるほどなるほど。

得意属性の反対は苦手属性となるのでうまくいかないことも。ほうほう。

つまり俺のかいわれ大根事件は、火属性が得意だから、木の魔法が出来なかったと。

そういう理由で上手くいかなかっただけなのか!?」


 とにかく、やってみよう。

 だがこのまま試して、もし呪文を唱えた瞬間火の玉が出たら大惨事だ。

 窓を開けて、空に向かって魔法を使えば問題ないよな。

 俺は早速窓を開けて、木の魔法と同じように紙に魔法陣を描く。

 そして、手のひらに握りこんで魔力を注ぐ!

 そこですかさず呪文!


「我が名に答えよ、大地を照らす炎天に集え、ベルノフェルド・インフェルノ!!」


 俺の右腕から赤い光が淡く輝く。


「むむむむむ…………ぬぅううっっりいぃぁあああぁぁぁぁぁーーーー!!!!」


「来い、来い、来い、来いっっ………ふぅぅううううぉおおおおおお!!!!!」


「せいや、ほいや、こらしょ、えいや、……そいやぁぁぁぁあぁーーー!!!!!」


「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 できねぇじゃねえか!!!!

 火の魔法できないじゃねえか!!!!

 30分奮闘した結果、指先からちょっと煙が出た。


「原始人にも劣るっっつうの、バァ――カ!!」


 誰もいないのに、つい叫んでしまう。

 いや一応いた。

 窓の外からメイドさんがこっちを見てる。

 さっき頭をガックガクさせてた、カチューシャの人。

 あの人が何も言わずにじぃーっとこっちを見ている。

 俺は顔を赤らめながら窓を閉めた。

 結局、炎魔法より赤らめた顔の方が温度が高かった。


「……もう少しだけやってみるか」


 俺は結局全ての属性の、最初級魔法を試した。

 結果は以下の通りだ。

 火属性は、指先からちょっと煙が出る。

 水魔法は、水滴が垂れそうで垂れないくらいの手汗が出る。

 木魔法は、かいわれ大根が生えてくる。

 雷魔法は、指先がちょっと痺れる。

 魂魔法は、爪の間が綺麗になった。


 俺は何とも言えない表情をしながら、部屋に戻り布団の中で丸くなった。

 その時、俺とすれ違ったメイドはこの時の表情を、

『強烈なボディブローを受けながら、苦虫を頬張っているようなすごい顔』と語った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ