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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第四章 街色の花びら
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181マス目 指を使った交渉術


 ヘロヘロになりながら、俺は最後の一段を登り切る。


「ぶはぁ! やっと出れた。

ここどこだよ」


 適当に見渡すが、多分ここはゴミ捨て場だ。

 もちろんゴミ収集車なんて便利な物はないのだから、ゴミは溜まっていく一方。

 そんな中に土管のようなものがひょっこり飛び出していたって、誰も気に留めないのだろう。

 俺はその土管から体を乗り出し、鉄屑の上に着地する。


「あー、ひどい目に合った」


 思わずこぼれる愚痴にため息をつきながら、俺はゴミ山から下りた。

 正直言ってもう地上に上がりたいのだが、もう一つやりたい事も残ってる。


「どうしよう、また後日にするか?」


 そんな事を考えながら、俺は地下の街を普通に歩く。

 多少襲われる心配もあったが、それどころか目を逸らされる始末。

 まあ黒で目立たないとはいえ、血の着いた服の男には流石に関わって来ないのだろう。 


「おい、ギンの旦那。

また安酒たかりに来たのか?

もうツケらんねぇぞ」


「そういうなよ。

一杯だけだ、それ飲んだらすぐ行くからよ」


 ……何か聞き覚えのある声。

 俺はそっと声の方に視線を移す。


「……げ」


 さっきの水銀男だ。

 俺を襲ってきた時とは打って変わって、まさに飲んだくれと言った感じで店主に絡んでる。

 なるほど、あれじゃ大犯罪集団のメンバーとは見抜かれまい。


「ギン、か」


 多分本名ではないだろう。

 だが、この地下街でギンという名を出せば、きっと皆が奴の事を指すはずだ。

 ここで名を知れたのはデカい。


「……しっかし、ネストの監視を頼んだのにあれか。

こりゃまた源竜会は地獄絵図かもな」


 ま、変態貴族がどうなったって知ったこっちゃない。

 だがまぁ折角だ。

 思い残しが無いように、やれることは今やっておこう。


「よし、奴隷解放と参りますか」








「ほんっと、容赦のカケラもねぇな」


 警備がいないから薄々感づいていたが、見事に死屍累々。

 直視できない死体が廊下にゴロゴロ転がっている。

 俺だって屋敷の惨状やら凍った街やらを見てきて、

多少は耐性がついて来ている。

 それでもやっぱり限度があるっての。


「……確か、奴隷が捕まってる檻はこっちだったよな」


 俺は血まみれの廊下に足跡を付けながら、

まともに見ないよう薄目で進んでいった。









「ま、こんなもんだろう」


 俺は歓喜の声をあげ、街へ散らばって行く元奴隷たちを眺めていた。

 あのあと少し探してみたが、ネストもヴァーデも、そしてロネットさえも姿は見えなかった。

 やはり攫えと言ったからか、少しだけ未来が変わっている。


「……そのまま感動の再会を味わっててくれ」


 この先、奴隷に関わる気はない。

 英雄とはやし立てられ目立つことになれば、

フィズに接触するのも難しくなる。

 取りあえず俺は、身を隠すように再び源竜会の本部へと入って行った。


「さーて、これをやったら、

俺は本当にクズ野郎になっちまうな」


 俺は金持ち連中の死体を前に、堂々と腕組をする。

 そして数秒気持ちの整理に時間を費やし、俺は床に落ちた金色のネックレスを拾い上げる。

 金品の強奪。

 死体から剥ぎ取るという最低な行為に、俺は今黙々と取り組んでいる。

 ブルーローズを相手に、変なプライドなど足枷にしかならない。

 だから俺は、悪でいい。

 悪を相手に、暗躍してやろう。


「……こんなもんか」


 重量のある金は極力盗らず、宝石類を重点的に回収。

 鞄やポッケに詰められるだけ詰めた。

 これでいくらになるかはわからないが、少なくとも前いた世界換算で俺の年収より上だろう。

 当然この金は私利私欲で使うわけではない。

 ……金は武器になるのだ。

 剣や銃にも勝る、圧倒的に強い武器。


「取りあえず、こいつを早いとこ金に換えとかないと……」


 幸いにも、ここは非合法の隠された町。

 こんな怪しい品でも、買い取ってくれる店は多いはずだ。

 俺はいまだに歓喜の雰囲気に包まれた町へ足を踏み出す。

 すると、すぐに目的の店は見つかった。


「金の店・ヴァナーズか。

貴金属買い取りって書いてるし、ここでいいか」


 変に店選びに時間を喰って、ギンやらネストには遭遇したくない。

 俺は足早に店の中に入る。


「いらっしゃい」


 そっけない態度でカウンターに立つ店主。

 見た目は完全にチンピラで、ガラも悪そうだ。

 だがそんな事お構いなしに、俺はカウンターに宝石を並べていく。


「買い取ってもらいたい。

これ全部だ」


 当然ながら、店主は俺を不信な目で睨む。

 けれども、こういう場所だけあって状況判断は早い。

 店主は何も言わずに宝石を鑑定してゆく。


「6000万だ」


 別に不満はない金額。

 だがわかる。

 この男、かなりサバを読んでいる。

 騙すなら騙すで、もっと上手く隠せばいいのに。

 もしかしたら、俺程度の奴なら簡単に言い負かせる話術でも持っているのかも。

 でもその考えは甘い、甘すぎる。

 俺は口を閉じたまま、ポケットからある物を取り出す。


「もう一度査定しろ」


 それだけ言うと、俺はカウンターに赤いモノを転がした。


「なっ……」


 店主が目をくぎ付けにされているのは、……指だ。

 金の指輪を付けたまま切り落とされた、富豪の指。

 もちろん俺が切ったわけではなく、ネストが攻撃した際に切り落とされたものだろう。

 床に転がってたこいつを持ってくるのには、かなりの抵抗があった。

 だが、どうせ俺が運んできた宝石は盗んできた遺品だ。

 今さら抵抗もクソも無い。


「いや、……しかし、な」


 青い顔をしてこちらに視線を向ける店主。

 しかし、俺は何も言わない。

 ただわずかばかり眉間にしわを寄せ、睨むように見下ろし続ける。

 この男がどんなに口が上手くとも、俺がその土俵に立ってやる義理はない。


「……わかった、一億だ」


 店主が渋々口にしたこの金額。

 今度はまともな金額だろうか?

 俺には宝石の価値はわからないし、相場がどれくらいかも知らない。

 しかし、もう一度だけカマをかけてみよう。

 俺は胸ポケットから煙草を取り出すと、のんびりと火を点けた。

 そして再び脇のポケットに手を入れると、今度は二本の指を取り出し、カウンターに放り込む。

 

「お、おい待てテメェ!

これ以上って言うんなら、それなりのもん覚悟しろよ!」


 店主はギラリと光るナイフを見せつけて来た。

 当然戦えば、俺は刺されて死ぬだろう。

 だが、弱い。

 俺がここ最近見て来た光景に比べれば、あんなナイフはつまようじに見える。


「おい、何とか言ったらどうなんだ!」


 その問いかけに、俺は何も答えない。

 煙草の灰が落ちても、何も言わず、動かず、ただ睨み付ける。

 そうするうち、段々と店主が目を泳がせ始めた。


「一億……、五千万……」


 店主の声が明らかに小さくなってきた。

 もうひと押しか?

 俺はラスト一本の指を取り出そうと、ポケットに手を入れる。


「わかったよ!!

二億だ、二億!

これ以上出したら、こっちは飢え死にしちまうんだよ!

二億払うからさっさと出てってくれよ、頼むよ……」


 少しやり過ぎたかもしれない。

 まあこれが演技の可能性も十分あり得るが、二億あれば事足りるだろう。

 というわけで、俺は駄目押しに最後の指を投げ込んだ。


「ちょろまかすなよ。

しっかり二億詰めろ」


 今店主が見せた涙目の表情だけは、きっと演技じゃないだろう。


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