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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第四章 街色の花びら
178/440

177マス目 見えてくる青薔薇の影


 姿が見えるのはネスト一人。

 という事は、衛兵のおっさんは上手くやってくれたようだ。

 フルム兄弟さえ見つけてくれれば、騒ぎにしたくないネストはその二人を即座に見捨てるだろう。

 そうなれば、ネストは単独でここへと来る。

 何とか予想通りに事が運んだみたいだ。

 あとは俺の仕事だな。


「うふふっ、お邪魔しまぁ~…」


「よう、ネスト」


 名を呼ばれた瞬間、ネストに浮かんでいた笑みが消えた。

 この隙だ。

 攻撃をされる前に、奴の興味を引け。


「悪いけど、この家に結晶は無かったぜ。

まあそんな事より…」


 俺は親指で玄関の方を指さした。


「ちょっと面貸せ」








 ユキちゃんの家から少し距離を取り、薄暗い路地で俺は壁に寄りかかる。

 腕組をするネストを前に、俺は無言でタバコを取り出して火を点けた。


「あなたは新しいメンバー?

……違うわよねぇ。

そんな話が私に入らないはずないもの」


 抑えきれなくなったのか、ネストの方から質問を投げかけて来た。

 

「という事は、情報屋かしらぁ~?

上手く取り入ろうとでも…」


「み空色の髪」


 俺がたった一言そう言うと、ネストは息をのみながら半歩下がった。

 取り出そうとしていた曲剣が滑り落ち、地面に落ちて音を鳴らす。

 俺は平静を装うが、ネストがこれほどの反応をするとは、内心かなり驚いている。


「あの方の特徴を、情報屋程度が仕入れてると思うか?」


「……わかった。

よ~くわかったわぁ。

もう私に攻撃の意思はない、これでいいかしらぁ?」


「ああ」


 俺はゆっくりと煙を吐き出して頷いた。

 

「それと、悪いが俺の素性は明かせない。

こっちも色々危ない橋渡ってるんでな」


 まあ、前置きはこれくらいでいいだろう。

 ネストから情報聞きだせ大作戦、その1。

 まずはヴァーデ公爵の名で探りを入れつつ、メンバーの情報を少しでも集めてやる。

 

「さて本題だ。

お前、ヴァーデとかいう公爵を知ってるか?」


「ええ、もちろん。

源竜会は裏で結構名が通ってるもの」


 するとネストはフードを外し、再び腕を組み直す。


「でもあそこは、あの飲んだくれの持ち場じゃないのぉ?

何で私に声がかかるのかしらぁ?」


 飲んだくれ?

 そうか、あの場所にもブルーローズの一員がいたのか。

 よし、少しだが情報は引き出せそうだ。

 それにしてもネストの奴、何故か少し安堵してるようにも見える。

 ……そういえば、ネストは竜の魔道結晶が見つからなくて焦っているんだったな。

 もしかして、俺がボスからの使いと勘違いして焦っていたのか?

 思い出してみれば、この数日後に罰を受けたって自分で言ってたっけ。

 じゃあもうこの段階で、こいつはギリギリの状況だったのか。

 なら回りくどく言い訳するよりも、時間を気にした説明が有効だろう。


「お前の方が早く済ませられるだろう?

世間に顔が割れてるお前なら、暴れたところでさほど問題はない。

わかってるだろ、今は時間が惜しいんだ」


「そぉねぇ~。

で? 具体的には何をしてほしいのぉ?」


 俺はタバコを吸うふりをして、軽く言葉を頭の中で整理する。

 そして無表情のまま煙を吐き出し、そのまま言葉を紡いだ。


「ヴァーデを攫って情報を聞きだせ。

奴が魔道結晶の在り処を握ってるらしい。

まあ、無理やり引き出した情報だから、信憑性は五分五分だがな。

出来るだけ騒ぎは起こさないように……、と言っても無駄か」


 ネストの不気味な笑みは、いつ見ても気味が悪い。

 だがこれで、亜人隊を倒した後にブルーローズが動く直接の理由が消えた。


「うふふっ、大丈夫よ~。

私は優しいから、……うふふふふっ」


 そう言いながら身をひるがえしたネスト。

 早速行ってくれるようだが、折角だ。

 他に聞きだせないか試してみよう。


「少し待て。

他の人員にも伝えることがあるのだが、

あいにくフィズの居場所しか俺は知らない。

お前は誰がどこにいるか知らないか?」


 ……少し苦しいか?

 だが、ネストは立ち止まり顎に指先を当てている。

 そして、思い出したように口を開いた。


「そう言えば、先日商店街の方でリングを見たわね~。

あとは……、そぉねぇ~」


 ネストはニヤリと口元を緩めた。


「確か、あれがまだベヨネッタの屋敷に居るはず。

うふふっ、死んでなければね」


 ……屋敷?

 まさか、……あそこに居たのか!?

 

「どうしたのぉ? 目が泳いでるわよぉ~」



 ネストは軽く唇を舐めると、ぐっと体制を低くする。


「うふふっ、まあいいわぁ」


 次の瞬間、一気に地面を蹴り飛ばして、ネストは空高く舞い上がる。


「待ってなさいヴァーデ。

絶対私が手に入れる、誰にも渡さない。

うふふっ、ふふふふっ、あははははははははははははははははははははは!!」


 ぞっとするような高笑いを上げながら、ネストの姿は風のように消えて行った。

 だが、俺はそんなものを見送る余裕などない。

 エリザベートの屋敷にもブルーローズがいた。

 信じたくはないが、……辻褄は合う。


「最初から、ずっとあいつらの監視下だったのか?」


 考えてみると、エリザベートの屋敷は狙われやすいのも当然なのだ。

 国の大きな権力者であるルガニスさんは、国家機密をいくつも抱えてるはずだ。

 もし部屋に潜りこめたのなら、書類を盗み見るのもたやすい。

 それ以外にも、あの屋敷に潜りこめば悪用できる情報など無数に手に入るだろう。


「でも、出来るのかよ?

そんな奴がいるとすれば、……つまり。

ルガニスさんも、エリザベートも、リックも、テンダーも、

全員の目を欺き続けてるのか!?」


 にわかには信じがたい。

 だが、相手はブルーローズだ。

 国一つを一瞬で氷漬けにする奴が率いる化物集団だ。

 何もかもが規格外。

 それを覚悟しなければ。


「……とにかく、屋敷の方は後回しだ。

ルガニスさんが気づけないのに、俺が見つけられるわけがない」


 そうなると、残る選択肢は二つ。

 けれども、商店街のリングと呼ばれた人物に関しては、情報が少なすぎる。

 というわけで、目的地決定だ。


「地下の街にいる飲んだくれ。

そんだけ情報があれば上出来だ」


 俺はいつの間にかフィルターまで焼けていたタバコを口から放すと、

適当にポッケに突っ込んで裏路地から出て行った。


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