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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第一章 振られもしないサイコロの目
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15マス目 白い病室の老人

 小説をパラパラと捲っただけで、聞きなれた言葉が次々と出てくる。

 電車、飛行機、バスなどの交通機関。

 ハンバーガー、ホットドック、ポップコーンにフライドチキン。

 自由の女神なんて、知っていないと出てくるわけがない。


「……すごい集中して読んでいますわね」


 俺は周りの音が聞えないほど、神経を研ぎ澄まして活字を追っている。

 この本を書いた人間は、明らかに何かを知っているはずだ。


「その作者に会いたくはありませんこと?」


 エリザベートの意外な申し出に、俺はすぐさま顔を上げた。


「会えるのか!?」


「わたくしを見くびってもらっては困りますわ」


 エリザベートは無い胸を張りながら、いつもの高笑いを上げている。

 これだけの内容ならば確信できる。

 この作者は多分、俺と同じ境遇にいる。

 本の発売が12年前という事は、この世界にそれ以上の期間滞在していることになる。

 この人なら、なぜこんな世界に連れてこられたのか、連れてきたのは誰なのか。

 その答えを知ってるかもしれない。


「……いつ頃会えるんだ?」


「今すぐ向かっても、よろしくってよ」


「頼む! 向かってくれ!」


「ただし、1つ言っておきますわ」


 エリザベートは得意げな顔で扇子をはためかせる。

 俺はその顔を見て、何となく察しがついた。


「……もしかして、貸しの件か?」


「ええ、その通りですわ。 

有名人に会うための過程をすっ飛ばして差し上げます。

借りを返すのには十分だと思いませんこと?」


 そう来ると思った。

 大金持ちで、馬鹿みたいに強いお嬢様から作った貸し。

 ここで取っておけば、のちに莫大な利益にもなるかもしれない。

 しかしそんなことを言ってられる余裕は、俺には無い。


「わかった、それで構わない、行ってくれ」


「交渉成立ですわね、テンダー!」


「かしこまりました!」


 馬車は進路を大きく変え、大通りを北へ進む。

 この世界の謎を知るために。










 馬車を走らせて数十分。

 そこは俺が入院した場所とはまた違った、大きな病院。


「テンダーは、馬車を頼みますわ」


「わかりました」


 馬車から降りて歩き出すエリザベートに、俺は後ろから声をかける。


「執事の人は来ないのか?」


「ええ、別に根回ししたり、金を積んだりするわけではありませんもの。

病院の院長に一声かかれば、無理やり面会に持って行けますわ」


 結局は強引な手なんだな。

 そんな言葉を飲み込みつつ、俺らは本を片手に病院へ入った。

 病院の内部は木造でできており、元の世界との違いに何となく違和感を覚える。


「面会をお願いできますかしら?」


「はい、ではこちらにお名前……を、……ベヨネッタ様!?」


 受付嬢は両手を口に当て、目を丸くする。

 周りの人間もエリザベートの存在に気づいたようで、ざわついてきた。

 そんなことお構いなしとばかりに俺の持つ小説を奪い取ると、受付嬢にその表紙を見せつけた。


「この本の関係者に会わせてくださいます?

問題があるようでしたら、ここのトップと話させていただけますかしら」


 エリザベートの言い方は、どこか脅しのようにも聞こえる。

 受付嬢も同じように思ったのか、少し怯えながら鍵を準備しだした。


「い、今すぐご案内いたします!

こちらへどうぞ!」


 受付嬢の案内にエリザベートは首を振る。


「この男だけでいいですわ。

どちらにしても、わたくしが話を通しておかないと、

あとあと面倒になりますでしょう?」


「え? ああ、ありがとうございます!」


 お礼を言う受付嬢に手を振り、小説を俺に向かって投げ返す。

 慌てる俺が何とかキャッチしたのを見届けると、エリザベートは書類にペンを走らせた。


「ご案内いたします」


 その間に、俺はロビーからすぐ近くの部屋へ案内された。


「こちらになります」


 指示された部屋は、両開きの木の扉に閉ざされている。

 俺は少し緊張で手を震わせながら、ゆっくりと扉に手をかけた。


「失礼します」


 声と足音の響く簡素な部屋。

 窓際には白いベッドが一つ。

 そこに横たわる、大きな白い髭が特徴的な老人の姿。

 静かな呼吸音に閉じた目、寝ているのだろうか?


「あのー、すみませー……」


「起きとるよ」


 老人は目をつぶったまま返事を返す。

 いきなり声を出され、少し意表を突かれた気分だ。

 だが起きているなら、好都合。

 俺は持っていた本を差し出す。


「あの、この本なんですけど……」


「サインは断っとる」


 まるで会話を拒否するように、こちらの言葉を遮ってくる。

 だがようやく掴みかけた手がかり。

 ここで踏み込まずしてどうする。


「実は……っ」


 一瞬言葉が詰まった。

 「知らない」と、そう言われたらどうしようと不安が陰る。 


「なんじゃ、黙り込みおって」


 怖いのか……、この程度で?

 俺はさっき何をした、ネストを倒したじゃないか。

 俺にはもう障害はない……進め!


「あなたは、……この世界の人間ですか?」


 数秒の間が空いた。

 窓の隙間から風が入り込み、カーテンをなびかせる。

 老人は今初めて目を開け、こちらに顔を向ける。

 一瞬、老人から声が上がったように聞こえた。

 だが彼は、すぐに口を手で覆ってしまう。

 ……いや違う。


「……そうか、…………そうじゃったか」


 泣いている。

 手のひらから溢れんばかりの涙がボタボタとこぼれ、布団を濡らしていく。


「ど、どうしたんですか!?」


 俺は戸惑って、看護婦を呼ぼうとナースコールを探す。

 だがよく考えると、この世界に、ナースコールがあるかもわからない。

 こちらがうろたえている間に、老人の涙はおさまってくる。


「……この本はな、お前たちを呼ぶための物じゃ」


「お前たち?」


 俺はその意味を理解しかねていた。

 上手く状況が呑み込めない。

 老人は手早く手元の紙にペンを走らせる。


「詳しく話がしたい。 明日この住所に来てくれ」


 受け取った紙には、どこかの住所と道のりの地図。


「北のはずれの小さな小屋だ。 風車があるからすぐわかるだろう」


「あの…、入院されているんでは?」


「入院じゃなく通院じゃよ。

ちょっと心臓が悪くてな。

週に一度は、回復魔法の治療を受けろと医者から言われておる」


 回復魔法の治療という言葉に、どうしても違和感を覚える。

 でもこの世界の病院とは、そういう場所なのだろう。


「表札にヒゲ爺と書いてあったら、そこがわしの家じゃからな」


「……ヒゲ爺ですか?」


「ああ、見た通りじゃよ」


 ヒゲ爺は大きな髭をさすりながら、元気そうに笑った。


「わかりました、必ず伺わせていただきます」


 俺はヒゲ爺に深く頭を下げると、病室を後にする。

 嬉しさで歩く足につい力が入る。

 とうとうこのやり直しのループから脱出できる。

 そう思うと、笑わずにはいられなかった。








 外に行くと、エリザベートとテンダーが待っていた。


「遅いですわ!!」


「エリザベート様、10分で出てこられたら、かなり早い方では?」


 10分、そんなものだったのか。

 俺は腕時計を確認する。

 時計の針は12時3分を指していた。

 時間帯は完全に昼飯時。

 そういえば俺、この世界に来て食べたものって、病院食とユキちゃんの切ったリンゴくらいか。

 そう考えると、無性に美味いものが食べたくなってきた。

 

「はぁ、なんだか腹減ってき…」


 言いかけた俺の腹から、これぞ腹の虫と言わんばかりの豪快な音が鳴った。

 とても情けない音に、思わず顔を伏せる。


「プフッ! あはははははは! いい音を鳴らしますわね。

お腹が痛いですわ~。 あっははは!!」


 笑い過ぎだ。

 テンダーの方を見ると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。

 これはこれで腹立たしい。


「あははっ、しょうがないですわね。 テンダー早急に帰りますわよ」


「……っ、は…はい」


「あれ? もしかして、飯を食わしてくれるのか?」


「当然ですわ。 話をするなら空腹な人間よりも、

満腹になって機嫌のいい状態で聞き出す方が、

真実を語るものですもの」


 これは願ったりかなったりだ。

 大金持ちのお食事にご招待。

 加えて空腹のスパイスは十分に効いている。

 これで断る理由なんて、あるわけがない。


「さぁ、お乗りなさい! 

わたくしの、神聖で!美しく!エレガントで!ビューティフル!な屋敷に行きますわよ。

オーホッホッホッホッホッホッホ!」


 俺らを乗せた馬車は南東へと向かう。

 向かうは首都パロット王国で最大級の豪邸。

 ベヨネッタのお屋敷。


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