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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第一章 振られもしないサイコロの目
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12マス目 ベヨネッタの血筋



 胃液のせり上がりがようやく収まって来た。

 俺は口元にへばりついた吐しゃ物をハンカチで雑に拭い、ふらふらと歩みを進める。


「……エリザベートの奴、まだ無事だといいが」


 俺が必至こいてユキちゃんの家へ戻ろうとしてる中、随分と能天気な声が聞こえて来た。


「あ、いたいた、お怪我はないですかー?」


 駆け寄ってきたのは、入口付近で戦っていたはずの執事さん。


「そっちは片付いたんですね」


「まぁ、あのくらいは一捻りですよ。

それより意外に疲弊してますね。

あのデブ男が一番弱いと思ったんですが」


 これは煽りと受け取っていいのだろうか。

 申し訳ないが、俺の体は超人連中に合わせて作られてねぇ。


「あーいや、俺の事はもういいだろ。

それよりあんた、主人が戦ってんだろ?

何で加勢せずこっち来てんだよ」


「加勢したいのはやまやまですが、狭い家の中で戦ってんです。

私が下手に動けばどうあっても足手まといでしょう」


 足手まといとは言うが、この執事さんもナイフを持ったゴロツキを一捻りしている。

 明らかに強い部類だと思うけれども。


「……もしかしてあのお嬢様、めちゃくちゃ強かったりする?」


「強いって……知らないんですか!?

天下のベヨネッタ家長女、エリザベートご令嬢を!」


 そんな事言われても、この街の勢力図なんか知ったこっちゃない。

 俺が知ってるのと言えば、ネストって怪物女の危険性くらいだ。


「いくら強いって言っても、お前はネストの強さを知らない!

あいつがどれだけ凶暴で…」


「ええ、奴の危うさは知ってます。

レベル5の手配書が作られてる人物なんて、あの女くらいですからね」


 執事のテンダーは少し真剣なまなざしになると、エリザベートが戦ってるであろう方向へと目を向ける。


「でも、大丈夫。

彼女が狭いフィールドで物が散らばり、なおかつ近距離戦。

こんな条件で負けるなんて思いません」


 その言葉には信頼と溢れんばかりの自信に満ちていた。


「どうしてそんなに信じていられる?

多少剣術に覚えがあると言っても、女の子だろ!」


「はい、女の子は女の子でもレベル5。

世界でも指折りの、最強お嬢様なんですから!」








 家の中は、人の住んでいた頃の面影を残さないほど、崩壊していた。

 お互いに一歩も譲らない攻撃が続く。

 しかし、どちらも汗一つかいていない。


「それにしても固い傘。

布じゃないわよねぇ?」


「これはサイクロプスの皮膚で作られた、特注品ですのよ。

あなたの自慢の剣でも傷一つ付きませんわ」


「ベヨネッタの血筋……、ちょっと侮ってたかもしれないわぁ」


 ネストは曲剣の刃先を見つめる。

 激しい攻防のせいで、さすがに刃こぼれが増えて来た。


「オーホッホッホッホッ、わたくしを甘く見るからこうなるのですわ!」


「うふふっ、でもそろそろお終いかもしれないわねぇ~」


 「何を言ってますの?」そう言いかけたエリザベートは、手元に感じる違和感に視線を下げる。


「そういうことですの、……やられましたわ」


 エリザベートの傘がピキピキと音を立て、開かなくなる。

 隙間から骨組みの一部が落下し、床で音を鳴らした。

 どこかでヒビを入れられていたようだ。


「さぁ、得物が壊された哀れなお姫様は、どんな足掻きを見せてくれるのかしらぁ?」


 ネストは両腕をだらんと垂らすと、一拍の間をおいて真っ直ぐエリザベートへ斬りかかる。


「甘いですわね」


 瞬間振るわれた、銀の閃光。

 飛び散る血と、切り裂かれたネストの肩。

 思わぬ反撃を受け、即座に床を蹴りエリザベートと距離を取る。


「なんなの、……それは!?」


 その手に握られていた傘は、確かに壊れて使えない。

 しかしエリザベートは、傘の中からソレを引き抜いていた。


「仕込み刀! 傘に仕込み刀ですって!?

うふふふっ、面白いわぁ、どこまでも飽きさせない。

そういうの大好きよぉ、うふふふふっ」


 エリザベートが握る刀剣は、傘に隠してあったため非常に細く、刀というよりはレイピアに近い。


「能ある淑女は刃を隠す。 わたくしの美しい美学ですわ」


 エリザベートは細剣を構え直し、静かにそう言った。


「うふふふっ、いいわぁ、すっごく良い」


 ネストは、今までずっと羽織っていた鼠色のローブを脱いだ。

 初めてあらわになるその姿は、妖艶で怪しい美しさがあった。

 体のラインがはっきり出ていて、肌に密着した上着に、短めの黒い短パン、首には赤のスカーフ。

 黒地に金の服装に、黒のブーツがスタイルの良さを強調している。


「本当は投げつけて、目隠しにでもしようと思ったんだけどねぇ」


 そう言ってひらつかせるローブを床に投げ捨てた。


「うふふっ、でももういいわぁ。

あなたに小細工はしたく無くなっちゃったぁ……」


 ミキミキと音を立てた右腕。

 その切り傷から絶えず流れていた流血がピタリと止まる。


「……回復? でも傷自体は治っていませんわね」


 エリザベートは、軽く視線を落として、自分の足元を見る。

 床には瓦礫が散乱していて、足元には棒状の木片が確認できた。

 エリザベートはすぐに視線を戻し、攻撃に備えわずかに腰を落とす。


「これで立っていられたら、褒めてあげるわぁ」


 ネストは手に持った曲剣を、ブーメランのように前方へ投げた。

 曲剣はカーブを描いてエリザベートの首元に向かう。

 自然にエリザベートの視線は曲剣に向く。

 構えていた細剣で受け止めようと、体を少し捻った。

 すると、カーブを描いていた曲剣が軌道を外れ、エリザベートの背後へ飛んでいく。


「……投げ損じた? いや、違いますわ!!」


 エリザベートは即座に後ろへふり向いた。

 そこには、すでに飛んできた曲剣をキャッチして、振りかぶった体勢でエリザベートへ飛びかかるネストの姿。


「あらぁ?」


 ふり向いた瞬間に、手元の細剣が運良く首元を防いだ。

 もし気が付くのが一瞬でも遅れたならば、エリザベートの首は床に転がっていただろう。

 額から、汗が滲む。

 衝撃で扇子は飛んで行ってしまったが、気にしている余裕はない。


「あーあ、惜しかったわぁ。 うふふふっ」


 剣を向かい合わせたまま、ネストが微笑む。

 しかしエリザベートも笑い返した。


「……その程度ですこと?」


「あらぁ? 負け惜し、……っぐうっ!」


 言い終わる直前、ネストの顎を木片が突きあげる。

 エリザベートが足元の木片を、うまく蹴飛ばしたのだ。


「まだですわ!」


 そのまま即座にしゃがみ、ネストに足払いをかける。

 バランスを崩したネストに、体勢を立て直す隙を与えはしない。

 エリザベートは力強く剣を振り上げた。


「あらぁ、危なぁ~い」


 空中でふわりと浮き上がるように回避するネスト。

 よく見ると曲剣を天井に突き刺し、そこで体を支えていたのだ。


「そんなもの、格好の的ですわよ!」


 一点の星を撃ち抜くような、真上への刺突攻撃。

 ネスト曲剣を滑るように引き抜くと、空中で器用に防御する。

 それでもお構いなしに、連続で突き上げるエリザベート。

 その足を地面に着けることを許さない、絶対的猛攻。

 もうすでに剣先は目に見える速度ではなく、時折パンッという破裂音が鳴った。

 一瞬だが空気の壁を壊して、音速に達しているのだ。

 しかし、その猛攻もすぐに限界が来てしまう。


  バキンッ!


 あまりの攻撃の激しさに、細剣は根元から砕け散る。


「剣の方が耐えられなかったわねぇ。うふふっ、残念ねぇ」


「くっ、迂闊でしたわ……」


 エリザベートは、咄嗟にネストの攻撃射程外に退避する。

 その隙にネストは地に足を付け、体勢を立て直した。


「さぁて、どうするのぉ?」


 ネストは曲剣を、手元で器用に振り回し、余裕の笑みを浮かべる。

 実力が拮抗した状態で、得物を失ったエリザベートに勝ち目は薄い。

 だが、エリザベートは落ちていた棒状の瓦礫を、二つ拾い上げる。


「まだ手は残ってますのよ。 さぁ、かかって来るがいいですわ!」


 威嚇するような声色だが、武器はただの瓦礫が二本。

 ネストの前では、紙屑同然だろう。

 それはあまりにも心もとなかった。


「じゃあお言葉に甘えるわねぇ。 行くわよぉ……」


 エリザベートを仕留めるために、構えたネスト。

 彼女はまだ気づいていない。

 すぐそばの窓から一人の男が策を練り、突入のタイミングをうかがっていることに。


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