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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第一章 振られもしないサイコロの目
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10マス目 強襲、来襲、突入


 大通りを爆走する一台の馬車。

 次々と周りの馬車を追い抜いていく。

 安全とは程遠い、非常に荒い操り方だが、そんな事を気にしている時間はない。


「11時15分か。 ……これ間に合うか?」


「間に合わせて見せますわよ!」


 エリザベートは馬車の中にある木箱から棒を取り出す。


「な、なんだそ……、ええ!?」


 よく見るとその棒は釣り竿のようになっていた。

 そして紐の先に括りつけられているのは、……ニンジンだ。


「テンダー、これを使いなさいな!」


「お、助かります!」


 テンダーは素早い手つきで、馬の鼻先に人参をぶら下げる。

 本当にそれで早くなるのか、とても不安だ。

 そう思っていると……。


   グンッ!


「いい感じですわ、このまま行きますわよ!」


「はい、エリザベート様!」


 まぁ、うん、もう間に合えばなんだっていいや。

 現在11時16分。

 少女の家はもうすぐそこだ。








 同時刻、少女の家。

 静かないつも通りの日々。

 母の鼻歌と包丁の音が静かに響く台所で、戸棚を漁る一つの影。


「ねぇリリー、何やってるの?」


 リリーと呼ばれた少女は潜りこんでいた戸棚から顔を出し、髪に付いた埃を取る。


「お姉ちゃん! ねぇねぇ、ガラスのコップある?

出来るだけおっきいやつ!」


「ガラスのコップ? 何に使うの?」


「あのね、友達がね、水を入れたコップで綺麗な音を出してたの。

指でくるくる回してね、あれあたしもやりたくって」


「お、懐かしーことやってるな」


 どこで話を聞いていたのか、突然父が入ってくる。


「お父さん知ってるの?」


「ああ、それはな……」


「あなた!!」


 窓の外に目を向けた母が叫ぶ。

 皆は会話をやめ、同じ方向に視線を投げかけた。


「……なんだあいつら」


 窓から見える三つの人影。

 大振りのナイフ、巨大な鉈。

 手に持つものからして穏やかではない。

 物騒な雰囲気から、父は子供たちの腕を掴む。


「何かやばい。裏口から逃げるぞ!」


「ええ、わかったわ!」


 その時、少女の長い髪がふわりとなびく。

 扉も窓もしまっているはずの室内で、風が吹いた。


「おじゃましまぁーす、うふふっ」


 音は無い。

 しかし扉のカギは壊れ、いつの間にか半開きになっている。

 まるで最初からいたかのように、窓へ寄り掛かって佇む女がそこにいた。

 楽しそうに笑う褐色の侵入者は、ゆっくりと湾曲した剣を引き抜いた。


「動かないでねぇ。

手元がくるって子供の首が無くなっちゃうかも、うふふふっ」


「……あんたの目的は何だ!?」


 父は皆を体で隠しながら前に出た。


「地下室よぉ、私たち探し物の途中なのぉ」


「探し物? うちには宝なんてないぞ! もう帰ってくれ!」


 侵入者に怒鳴りつける父を見て、母は怯えた表情で父の肩を揺らす。


「あなた、もう逆らわないで! 大人しくしてればきっと殺されないわ」


 もちろん、そんな根拠はどこにもない。

 しかし逆らえば、それこそすぐ殺される。


「……そぉねぇ、一人くらい殺った方が示しがついて良いかもしれないわぁ」


 褐色の女はどこまでも楽しそうな声色で、クスクス笑う。

 口元に当てていた手をスッと降ろし、指先をそろえパンと叩く。

 それが合図だったのだろう。

 半開きのドアを引き千切り、太った巨漢の男が姿を現した。


「私は優しいからぁ、子供は許してあげるわねぇ」


 巨漢は父の前に立つと、躊躇もせずに鉈を振り上げる。


「え?」


「あなた逃げてぇぇ!!!!」


「お父さん!!!」


 家族の悲痛な叫び。

 だが、侵入者にとっては耳障りな鳴き声にすぎない。


「だいじょーぶ、痛くないから、多分……」


 人など簡単に切断できそうな鉈が、天井ギリギリの高さで止まっている。

 いつ振り下ろされてもおかしくはない。


「はーい、いくよぉーー」


「やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


 絶叫にも近い、愛する人を思う少女の叫び声は、別の大音量でかき消された。





ドガッシャァーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!





 硝子の割れる音。

 木材の砕ける音。

 金属の削れる音。

 馬の鳴き声。

 様々な音が混ざり、爆音となって鳴り響く。

 壁を吹き飛ばし豪快に突入した馬車は、反対側の壁を突き破ってようやく停車する。


「……あらあらぁ、うふふふっ、派手ねぇ。

派手なのは好きだけど、邪魔されるのは嫌いよぉ」


「いったたた、エリザベート様! これで満足ですか!?」


「良いですわ、最高に目立ってますわよ!!」


「ねぇー、姉御ぉー。 このおっさんはどうするのぉー?」


「ほっといていいわぁ。 ちょっと面倒になりそうねぇ」


 もはや壊れて、ドアとして機能しなくなった木の板。

 歪み開かぬそのドアを、渾身の力で蹴破る男が一人。

 馬車の中から姿を現した、この場に置いて最弱の者。


「今度こそ……、終わらせてやるよ! ネスト!!!」


「威勢が良いわねぇ、殺しちゃいそう」


 たくさんの血を見てきた。

 何人も人が死んだ。

 何度も命を失った。

 それでも、あきらめなかった。

 俺はもう一度、怪物に立ち向かう。


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