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17 さまよえるコデックス

 マンガル准将とわたしたちの間には1台の秘匿情報端末がある。画面はぼんやりと光っているが映るのは青い色と中央の「かぎ」を示す意匠、そして農王系の地方語で書かれた短い文字だけだった。

 准将は言った。

「官房業務員の男を知っているか」

「知りません」

「新配置者に対して導入教育を行っているはずだが」

 わたしは思い出した。

「あの老人なら知っています」

「かれはわたしの機関にいた人物である。元々は軍人だったがいまは業務員としてこの官房で働いている。機関が解体されるとともにあの男も退職し、作業員になった」

「そうですか」

 ところでマンガル機関とは何だろうか。

 

 准将は元々参謀本部で作戦計画を担当していた。准将ははじめ歩兵科につき、その後偵察隊や偵察群で働いた。その過程でかれは対敵情報取り扱いの専門家になった。


 農王系陸軍総司令部調査課長を経て、農王軍第2部対外情報部門……通称マンガル機関の長となった。


「わたしは優秀な部下を持っていたがかれの名前はここでは重要ではない。マンガル機関は農王軍の敵に関するあらゆる情報が集積される場所でありその精度は外務省や警察でも到達できないほどだった。わたしたちは農王と軍の要求に基づき敵の情報を集めそれを報告した」


「わたしたちは10万人の職員と50万人の非公式協力者を抱え、日々、莫大な情報を吸い上げては分析した。農王系の領土には3000基の傍受アンテナがあり無数の周波数や形式、高度に対応していた。ケーブル専門部隊は4万人の技師を持ちまた300隻の専用船、500台の特殊車両がこの世界中のあらゆる海底ケーブル・地中ケーブルから情報を窃取した。もちろんわたしたちは外国語のためのスペシャリストを備えており各国のニュースや新聞、電網上のサイトを24時間態勢で監査し敵の情報を収集した」


 アジムッラー副官がわたしに耳打ちした。この老人は話が長いためこちらから誘導した方がいいです。


「いつの間にそんな知識を仕入れたのか」

「この老人が機関長のときにたくさんの同胞……つまり泥棒や強姦犯や殺人犯や、その全部をやった悪党たちですが……が工作員として雇われ刑務所から出ていきました。それと入れ替わりに、多くの身分のよさそうな人たちが投獄されました。そうした人の多くは初日に牢名主とその手下たちにいじめられて死ぬことが多かったです」

 わたしは准将に、機関解体の経緯を教えてもらえないかと問いかけた。

 准将は手元の水を飲んでから説明を始める。


「ある日わたしたちの使っていた電子体系システムがまったく起動しなくなった。すぐに通信部隊と技師を呼んで復旧作業にあたらせたがうまくいかない。そのうちに、すべての端末が入り口をふさがれ、かぎをかけられていることに気が付いた」

「それはシステム障害ですか」

「障害ではなく本来あるべき保全機能が働いたのだ。わたしが庁舎にかけつけて自分の権限を使おうとしたがだめだった。わたしの指紋、声紋、虹彩、脳信号をもってしても、電子体系システムに入ることはできなかった」

「間もなく、コデックスという名を持つ機関内のあるグループが失踪していることがわかった。わたしはすぐに指示しそいつらを捕まえようとしたがだめだった。なぜならシステムが全面的にロックされておりコデックスというグループ自体にだれが所属しているのか情報を読み出すことができなくなっていたからだ」

「それで」

「コデックスというグループが何を担当しているのか、わたしのレベルまではいちいち報告が上がっていないからわたしも知らない。直接管理していた職員はその関係部署も含めて30人ほどいたが全員殺害されていた」


 農王官房の位置する昆虫的な島の周囲に、一連の小島やく80があり、政府職員や軍中央職員が生活している。そこは官舎群島と呼ばれている。


「ひどいもので、なかには生きたまま巻き藁のなかで焼かれた者や、歯をぜんぶ引っこ抜いたり目玉をくりぬいたり、拷問を受けた形跡のある者もいた」

 准将はコップの底で机を叩き頭を振った。

「わたしたちに対してそんな行いをするというのは、ずいぶんと出しゃばったやつらだ……わたしは薄汚い敵どもをいつも愉快な目にあわせてきたのに……主人に逆らう穢れた害虫どもが……」

「それで、そのコデックスはどうなりました」

「そのグループはいまだにみつかっていない。農王系内か、外宇宙か、どこかをさまよっているはずだ」

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