14 捕獲
港湾では、夜霧のなかで作業が続けられていた。
黒服の警官たちは、舟の残骸を引き揚げて、警察署に運んだ。
保安職員たちは、現場に残された浸透者の屍体や、遺留品を探した。
「おまえたち、ここは警察が検索中だ」
「関係ない。わたしたちは敵の調査をするよう命令を受けている」
警官と保安職員とのあいだで小競り合いが生じ、気性の荒いラダック人警官が保安職員の顔を殴りつけた。
乱闘が始まるかと思われたが、その場にいた将校たちの指示で、かれらは引き離された。
保安職員を殴打したラダック人警官は、後日、口頭注意の処分を受けた。それからしばらく経って、警官は北の森で首を吊って死んでいるところを発見された。
わたしは侍従武官バハードゥルに電話をかけた。
「もしもし、侍従武官室です」
「総合教育庁長官ナーナーです。侍従武官を出してほしい」
「お待ちください」
このとき、アジムッラー副官は、保安教官採用のために、北インドに滞在中だった。かれがいれば事件の処理を一任できるのだが、仕方がない。
「はい、侍従武官です」
「ナーナーだ。後で正式な通知をするが、総合教育庁に対して敵の攻撃があった」
「被害があったのか」
「まだ確定はしていないが、警官8名が殺され、10人程度が負傷した」
「敵は捕まえたのか、それとも逃げたのか」
「敵はボートで物見の島にやってきた。いま、破壊したボートと海域を調査中だ」
「詳細がわかったら、農王に報告しなければならない」
「こちらから要求がある」
「何か」
わたしは、長官になって以来、情報局が直面してきた問題を取り上げた。
「これまでに農王系が掌握してきた敵に関する情報、また被害状況などをすべてよこしてほしい。情報局は、引継ぎ資料がまったくないために、ゼロから敵の情報を収集しなければならない状態だ。これまでの参考資料をすべてくれ」
「それは、ない」
「そんなバカな話があるか。農王系が、敵から攻撃を受けているから、総合教育庁をつくったんだろう」
「その通りだが、敵に関する資料はほとんどない」
「何か隠しているな。直接、農王に申し立てるぞ」
「この話は、今度直接こちらに来て話そう」
「わかった」
後日、わたしたちは農王系が被った重大事態を知ることになった。
舟の銃撃、擲弾筒による攻撃を受けた警官8人が死亡した。負傷した12人のうち、2人はやけどによって全身が真っ黒になり、翌朝には死亡した。3人は手足を失い、失明した。残った者は、病院で治療を受け、入院することで復帰できる見込みだった。
2隻の武装ボートが壊され、修理に回された。
現場の保安職員からモンク少佐に報告があり、舟の敵のうち1名の生存が確認されたという。
「1名、足を負傷しているというが、泳いで逃げようとしていたところを捕獲したということだ」
わたしは少佐に言った。
「何としてでも治療して生かすんだ。それから、聞き取りしなければならない」
コントラクトニキたちには、特別の手当てを支給した。かれらのうち半数は重度の薬物中毒者であるため、アヘンを無償で与えた。
いずれ問題を起こすに違いないが、総合教育庁の戦闘力が整うまでは、かれら、ならず者たちの力が必要だ。
あるコントラクトニキについては、この舟事件が起こる前に、レストランで勤務していた若い娘を強姦し殺害したため、農王系本土に送還されていた。
舟の残骸に交じって、4人の敵の屍体が波間に浮いていた。体の部位はばらばらにちぎれ、船体の破片にはさまっていた。
探照灯が、泳いでその場を逃げようとする敵を発見した。
保安職員は敵の生き残りを海から引き揚げ、すぐに麻酔で眠らせた。
かれらは敵をパノプティコンの緊急衛生棟に運び、ずたずたに裂けた右足からライフル弾を摘出した。
生存者の装備や所持品はすべて回収し、情報局職員と保安職員が協力して分析した。
敵は、農王軍の所有するものと同じ拳銃を持っていた。また、身分を示すカードや書類は一切見つからなかった。
わたしとモンク少佐は、病室で眠る敵をのぞき窓から観察した。
敵は白いベッドと白い壁、白い床、白い天井に囲まれて、静かに眠っている。
「あの顔は、どこの人間だろう」
「農王系の人間に似ているが」
「何語をしゃべるかわからないから、何人か、専門の者を準備しておいたほうがいい」
2日後、敵が目を覚ましたので、パノプティコン内の保安局区画に移された。
円形の建造物は、ドーナツを切るように、それぞれ総合教育庁本部、内務部、情報局、保安局の区画に分けられている。
保安局の地下階には1000人を収容できる独房区画をつくった。敵は「生存者」と名付けられ、独房に移された。




