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12 保安局のアカデミー

 

 パノプティコン、警察署、港湾事務所、その他、急いでつくられた施設をつなぐ構内交換機が導入された。

 わたしは庁舎中心部の監視塔を、平時の長官室に定めた。円形の庁舎を一望できるこの部屋に座り、内線電話で様々な指示を与えた。

 アジムッラー副官は、わたしの指示を文書に直し、関係する部署に送った。

 副官自身も、長官室のすぐ横の副官室で、5人の部下とともに働くようになっていた。

 

 工事業者や、警察、職員、徐々に増え始めた兵隊で、島はにぎやかになっていった。

 島は、かれらが生活する町でもある。食糧品店や、郵便局、住宅、食堂、あらゆる施設が整備された。

 島への人員の出入りについては、情報員が作った作業チームが厳しく点検することになっていた。

 

 わたしは情報員を情報局長に、モンク少佐を保安局長に任命した。

 それぞれが総合教育庁の根幹をなす2つの柱であり、情報局は敵研究と世界観構築を、保安局は教化と保安を担任する。

 

 暗い海の向こうから3隻のフェリーが港にやってきた。黒い波の上で表情のない若者たちが島を眺めている。

 わたしたちは上陸した若者たちを迎えた。

 モンク少佐は約1500人の新しい採用者たちをトラックに乗せ、島の北側にある訓練施設に送った。

「この若者たちはどこから連れてきたのか」

「かれらは仕事のない極東アジア人だ。若いが働くところがなくて、他にやることもないようだ。どれも健康体で、指示をよく聞く」

「それは、保安の要員にうってつけだ」

「そのとおり。大切なのは忠誠、服従、連帯、無私の精神だ」

 

 血色の悪い極東人たちは、モンク少佐の運営する施設において、またたく間に鍛えられたという話だった。

 

 書類の作成や電話に追われてほとんど外に出られなかったが、暇を見つけては保安局の訓練施設を見学した。

 アジムッラーとわたしは馬を使った。馬を飼っているのは、総合教育庁だけである。厩舎にいる白い馬たちを、わたしは教化のしるしとして使うことにしていた。

 島の道は整えられ、黒い制服の警察官がどこにでもいる。

 険しい峠道を越えて森のなかにもぐりこむと、保安局施設の赤い光を見つけた。

「あそこで、モンク少佐の兵隊たちが訓練をやっているそうだ」

 施設は飾り気のない直方体のトーチカ型で、窓がなかった。

 モンク少佐は鉄条網に囲まれた施設の前で待っていた。

 わたしが近づくと少佐が敬礼した。

「保安局職員に必要な能力はさまざまである。この施設は、最大3000人を収容する。また地下に作られた教場や体育館、訓練場で、必要な技能を身に着けさせるためにある」

 わたしたちは馬を警衛所につなげて、少佐の後について施設の中に入った。

 

 廊下は暗く、足元では青い常夜灯が光っていた。少佐やアジムッラー、行きかう職員の顔は黒塗りされて見分けがつかなかった。

 鉄の扉を開けると、そこは教場だった。

 青緑の制服を身に着けた極東アジア人たちが、教官から講義を受けていた。

「いまは精神教育の時間だ」

 モンク少佐が言った。

「どんなことを教えているのか」

「保安局の任務をする上で欠かせない、心の構築や精神姿勢について、繰り返し教えることにしている」

 わたしは、訓練生たちを背中越しにのぞき込んだ。かれらは教程「治安維持書」、「警察活動書」、「秩序の書」を使っていた。

 これらのテキストは、わたしがスールー砦で作成したものだった。残念ながらわたしたちには十分な時間がない。教科書も出来合いのもので間に合わせるしかなかった。

 版の古くなった教程をコンテナに積み込んで、ラダック地方から物見の島まで運び込んだ。

 

 いずれ、教程や教範、技術書を一元的に整備する部署をつくらなければならない。

 時期は早ければ早いほうがいい。

 文書によってオートマタのように動く兵隊が最良である。

 

 わたしたちは訓練生たちの活動の様子を眺めた。

 かれらは体育館で制圧術を学び、射撃場では拳銃や自動小銃の使い方を学び、特殊教場では尋問の方法を学んでいた。

 

 特殊教場に入ったところで、わたしたちは尋問官を発見した。

 かれは保安局の審問部長となり、モンク少佐の下で働いていた。

 少佐が言った。

「本当は、かれも部長の仕事で忙しい。しかし、教官要員が不足しているので、こうして現場に出てもらっている」

 教官たる尋問官の前に、たくさんの、ぞっとするような器具が並んでいた。

 それは被疑者の爪をはぐ道具、指をつぶす道具、局部に電気を流す装置、硫酸風呂の原液、鞭、棍棒、水責め用の板だった。

 

 わたしはアジムッラー副官に、施設の教官要員として20人程度を採用するよう指示した。

「どこから集めればいいですか」

「スールー砦の人事課にメールを送っておいたので、現地に向かって、かき集めてきてほしい。砦には、失業した元秘密警察や憲兵がいたはずだ。かれらは、盗賊団や強盗で生計を立てている。それらを連れてくるんだ」

「わかりました」

 尋問と拷問の技術は、経験のある者によって教育されるべきである。

 

 施設は後日、「保安局アカデミー」という名称で正式に登録することになった。

 アカデミーを卒業した1500人は、それぞれ保安部、審問部、特殊活動部などに配置された。すぐに次期訓練生がアジア方面から連れてこられた。

 かれらは一様に平板な顔をしており、教育と訓練に対し吸収率の高いことがうかがえた。

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