夢の中の街
3話目ですがまだ導入編です。風景や感情描写を文字で表すのって難しい。
ガタコト、ガタゴト
まどろみの中、玉璃は意識が浮き上がってくるのを感じると同時に、自分の周囲が揺れているのを感じた。
「ん~~~。あと5分寝かせて~」
起きるのが遅くなるといつも母親が起こしに来てくれるのを思い出した玉璃だったが、夢に見た世界から覚めるのを拒むかのように身をよじらせつつ丸まり、それに抵抗する姿勢をとった。しかしそれでも周囲の振動は止まず、不意にガタン!という大きな揺れに驚き飛び起きた。
「うわ!何々!?」
目を覚ますとそこは夢の中で寝た果物の山の中であった。
「あれ?夢の中で眠ったけどまだ夢の中?妖精になったうえに夢の中で起きるって相当珍しい体験してるな私。でも起きたら全部忘れちゃってるんだろうな~」
とりあえず自分がまだ夢の中であると考え、周囲の振動は一体何事かと果物の山の中から立って周囲を見渡す。太陽が地平線から顔を出し草原を照らしていくのが見え、胸いっぱいに早朝のまだ冷えた空気を吸い込む。すると見ている景色が勝手に過ぎ去っていく事に気づき、自分が立っている場所が勝手に動いてる事に気がついた。
「そういえば何で果物の山が勝手に動いてるんだろう?」
とにかく状況を確認しようと果物の山を登り、山頂に到達し辺りを見渡す。山頂からの眺めを堪能しつつぐるりと自分が進んでいる方向に首を向けると、自分が今立っている箱に入った果物の山が馬車のようなものに引かれて走っていることがわかった。走る馬の前には人のような姿が座っており、馬の手綱を握り馬車を走らせていた。
「え?あれって巨人?って今私妖精なんだっけ」
今自分が妖精サイズなのを忘れていたからか、人でも大きく見えるため、人間を一瞬巨人と見間違えてしまった。
「あ!これ収穫された果物だったのか、勝手に食べちゃって悪かったかなーごめんなさい」
夢の中とはいえ、悪いことをしたような気分になった玉璃は御者の後姿に向けて謝った。とはいっても玉璃が食べたのは数個程度であり、サイズ的に食べ散らかすほどではなかったのだが。
「妖精のサイズだから当たり前だけど馬も人もおっきいなぁ、ちょっと怖いかも」
夢だと思っている世界の中で、自分の何十倍も巨大な馬車に揺られる感覚に体を縮めながら震えていた。それでも好奇心が勝ったのか、また果物の山から頭を上げる。
「でも夢の中に人まで出てくるとは、まるでファンタジーの世界みたい」
妖精の姿になって過ごす世界はまるで御伽噺に出てくる世界に思え、玉璃は心の中でワクワクが湧き上がってくるのを感じていた。
「まだ朝も早い時間みたいだけど、この馬車どこに向かってるのかな?」
気になった玉璃は馬車が向かう先を眺めてみる。すると進行方向の先に何か壁のようなものが見えるのに気がついた。
それは灰色がかった壁に一軒や程度軽く収まってしまうくらい高い壁に見えた。
馬車が先に進むにつれその壁もだんだん近く、大きくなっていく。
「ふぁ~~~~~おっき~~~~~~」
玉璃は口を開けながらその壁が大きくなっていく様子を眺めていた。
馬車は壁が近くなってくると、少しずつ速度を下げてゆき、壁の前に並んだ列の一番後ろに並んだ。玉璃が列の先を見やると、そこは壁の大きさに負けず劣らずの大きさの門があり、列に並んだ人達はその門を通るため列を成してることがわかった。
飛んでいってもいいのだが、門の辺りでは人が何か検問みたいに通る人々を審査しており、一応身を隠しつつ様子を見ることにした。列は何事もなく順調に消化されてゆき、ついに玉璃が乗ってる馬車の順番が来た。何をしているのか確認するため、見つからないように果物の山の中に隠れて様子を窺ってみる。
御者の男性は門番の男性に懐から取り出した、巻物みたいに丸めた紙を見せた。
「いつもご苦労様です」
「おう、お疲れ。今日は何を運んできたんだ?」
「はい、今日はスウィートベリーを運搬してきました」
玉璃が食べた果物はスウィートベリーというらしい。文字通り美味しそうな名前の果物だった。
「ほお、こいつは熟すと甘みが強くなるんだよな、うちの娘の大好物だ」
「それは丁度いいですね、こいつは昨日収穫したばかりで1日経った今日なら甘さもいい具合になっているはずですよ。この後市場に下ろして売りにだしますのでよろしければそちらで買っていってくださいよ」
「そうだな、今日は朝番だから夕方頃に買いに行かせてもらうとするよ」
「まいどありがとうございます。たくさん仕入れてきたので夕方頃でも十分買えるはずですよ」
「うむ、そうさせてもらうかな。よし!通っていいぞ」
兵士のような格好をした人がそういうと馬車が動き出し、門の中へと入っていく。
馬車はそのままゆっくりとした速度で走り出すと、すぐに大きな通りに出た。
果物の山の中から見るとそこは大通りで、中央は馬車が走りその周囲をたくさんの人が歩いていた。
そこには露店が並び、旅人や家族連れ、商人風の人達など多種多様な人々でごった返していたおり、活気のある雰囲気を感じられた。
道を歩く人達は露店で値段交渉をしていたり、屋台で料理を注文するなど現実の世界と変わらない様子だった。
服はヨーロッパなんかで昔着られていた服に似ているけど、それより少し変わった服装をしている。特に変わった服としてはどこかのお祭りか仮装大会みたいな、顔をすっぽり覆った仮面に全身を覆うマントで歩いてる人など、現実なら即職質されるような変な格好の人なんかもいた。
「なんだか絵本とかアニメの世界みたい、質感なんかもすごくリアルだし、私の想像力ってすごかったんだ」
玉璃はそんな人々を暢気に観察し、夢の世界の人々を見ると自分の中にこういう世界もあったんだと『私の想像力ってすごい』と自画自賛していた。
馬車はしばらく走ると大きな建物の前まで馬を走らせ、その建物の前にある馬止めに停車した。
御者の男性はそのまま建物から出てきた男性に向かって歩いていき、握手してから何やら会話し始めた。
「よし!今のうちに」
玉璃はその隙に果物の山の中から身を乗り出し空中へと飛び上がった。去り際にここまで運んでくれた御者の男性に、感謝と勝手に品物を食べてしまった謝罪をこめてお辞儀する。その時建物から出てきた男性と目が合い、気まずくなった玉璃は何度もお辞儀してから空へと飛び上がっていった。
御者の男性は相手の男性が目線を自分の後ろにやったまま口を開けて固まってるのを不審に思い、後ろを振り向くが、そこには自分が運んできた馬車と商品の果物の山しかなかった。
「あのー?私が持ってきた商品に何かまずい点でもありましたか?」
自分の持ってきた商品に何か問題があっただろうかと思った男性は、相手の男性にその事を問いかけてみた。
それでも相手の男性は固まったまま口を半開きにしたまま動かなかった。何が起こってるのか訳がわからない御者の男性は相手の男性の肩を持って揺さぶってみる。
「妖精が飛んでた・・・」
相手の男性いきなり、『妖精』という御伽噺にしか出てこないような名前がでてきた。当然だがそんな存在がそこらへんを飛び回ってる訳もなく、おそらく何か緊急の仕事で徹夜して頭がボケてるんだろうなと思った男性は、相手の男性の肩を持って視線を強引に建物に向けて一緒に歩き出した。
「はっはっは!昼間から妖精を見るなんてだいぶ疲れてるんですよ。早く仕事を終わらせて一杯やって休みましょう。私もここまでの移動でくたびれてしまいましたし、後で一杯おごりますよ」と彼を労わり建物の中へと入っていった。
その間も男性は「妖精が見えるほど疲れてるのかな・・・」とつぶやきながら、御者の男性に連れられるまま建物に入っていった。