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路地裏のお姫様  作者: 黒百合
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目が覚めたら

 暖かい日の光がまぶた越しに照らされ、体全体が温められているのがとても心地よく感じる。


「ん・・・。もう朝かぁ~」


 目を閉じながらそうつぶやく。布団から出たくなくなるような心地よい暖かさに身をよじらせる。


「でもおじいちゃん、朝ごはん食べたらすぐ発つって言ってたし、起きないと・・・」


 二度寝したくなる気持ちを抑えつつ、何とかまぶたをこじ開けながら起き上がる。


「ん~~~・・・・・!!はぁっ・・・・・あれ?」


 眠気を誘う暖かい陽気の誘惑を振り切り目を覚ますと、そこはなぜか外の風景だった。

 周りには木々が生い茂り、周囲を見渡すと、自分がいる場所はその中の開けた空間にいることがわかった。


「え・・・?どこ・・・・・ここ・・・」


 家のベッドで寝ていたはずが、起き上がると野外の風景がその目に飛び込んできた事に頭が混乱した。

 座っている周りを見ると、自分が座っている場所が何かの花の上であるのがわかる。

 頭は混乱していたが、とりあえず座っている場所を触ってみると、ふかふかした感触が帰ってきた。


 ・・・・・ムニッ。とりあえず自分のほっぺを両手で引っ張ってみる。


「・・・・・・ひゅめじゃない」


 それなりに強く引っ張ったから結構痛かった。しかし今まで見た夢だと、こんな現実的な感触は返ってこなかったような気がする。


「あれかな?頭は起きてるのに体は寝てるってやつなのかな?白昼夢だっけ何だっけ、・・・・・まぁいっか」


 とりあえずベッドで寝ていたはずの自分がいきなりこんな場所で目を覚ますのはおかしいし、夢なのは確実なはず。

 痛みや感触がやけに現実味をおびているが、そういう夢もあるということなんだろう。そう思う事にした。


「でもここはどこなんだろう?周りは林っぽいし、ここは花?の上なのかな。ってあれ?」


 まず状況を知るために周りを見回してみたが、周囲は木々が見渡す限り生えており、ふと下を向くと自分が着ている服が寝ていた時と変わっている事に気がついた。

 服は若草色、袖はタンクトップのように肩で途切れていたが袖口は葉っぱのように装飾されており、下半身は谷状に切れ込みが入ったスカートに、形的に昔の女性が入っていたドロワーズを小さくして半ズボンみたいな感じに仕立てたものだった。


「・・・・・妖精?」


 それは昔話の絵本や子供向けのアニメを見ていた人なら誰もが『妖精』と答えるような姿だった。


「私、妖精になってるの?夢で妖精になるってことは、私って実はファンシーな世界に憧れてたとかなのかな」


 そんな無体な事を考えながら改めて自分とその周囲を観察する。自分が立っている場所は周囲の木と比較して少し大きめの花の上であり、手足は主観だとわからないが、花の上に今自分が立っている事を考えるとやはり妖精相応のサイズまで縮んでいるのだろう。

 ふと胸元を見下ろし触ってみる。


「・・・・・。妖精だもんね、仕方ないよね・・・・・」


 深くため息をつきうなだれる。妖精になっても体が小さくなっただけでスリーサイズは変わっていないのだが、とりあえず妖精の体のせいにしてごまかした。


「夢の中なら普通自分の中の隠された願望とかが出てくればいいのに。・・・実は結構気にしてたのかな」


 体が小さい事を自分でも気にしてはいたが、体型に関して自分がそこまで気にしていたんだろうかと心に問いかける。身長のためとバランスよく食事もとり牛乳も飲んでいたが、あわよくばと実は気にもしていた。

 自分で見ても身長・体型とどうみても小学生か中学生にしか見えなかったからだ。


「夢の中で妖精になったのもコンプレックスが強かったからとか・・・・・」


 そんな自己嫌悪に襲われそうになるが頭を振ってその気持ちを振り払う。

 気持ちを外に向けるために周囲への観察を再開し、ふと後ろを振り向くと自分の背中に何かついてるのが見えた。


「なんだろ、これ?羽根・・・なのかな?」


 自分の背後に羽根のようなものが見え、背中を触ってみると背中から羽根が生えていた。

 それは薄く半透明であったが白く輝いていてとてもきれいだった。


「くっ!ぬっ!このっ!」


 何とかその羽根を触ろうと手を回したり、身をひねってみたりしたがどうやっても根元の部分を触るので精一杯だった。


「テレビで見た人だと上半身真後ろとか捻れてたのに、やっぱり柔軟体操続けとくべきだったか」


 そんなどうでもいいことを考えつつ羽根の根元を触れながら調べてみる。


「やっぱりこれって羽だよね?絵本とかの妖精に生えてる。なんだかくすぐったいような感じ、感覚はあるけど物理的に背中から生えてるわけじゃないのかな」


 触ってみると確かに生えており、触った感触もあるのだが、体から生えてるわけじゃなく背中に取ってつけたような感じだった。

 その感覚に神経を研ぎ澄ませてみると、羽が自分の一部のような感覚になっていき、背中に意識を集中し羽を動かしてみると少し羽が動いた。


「おお!動いた!これってやっぱり妖精の羽ってやつだよね、だとするともしかして・・・」


 絵本やアニメの妖精を思い出して羽に力を込めると、少しずつ体に浮遊感を感じてきた。

 足元を見てみると自分の体が花の上から少し浮いてるのが見えた。


「うわあ~~~~!私飛んでる!すごい!ほんとに妖精みたい!」


 子供の頃、絵本やアニメの妖精を見てあんな風に飛べたらと夢想したことはあったが、夢の中とはいえそれが体験できたことにとても感動した。

 その後は夢中になって飛ぶ練習を続け、しばらくすると花のまわりを自由自在に飛べるようになり、空中で宙返りや擬似宇宙遊泳みたいな事をして遊んだりした。


「羽を動かさなくても飛べるものなんだなー、まぁ妖精であって虫じゃないんだし魔法とかそういう不思議パワーなんだろうけど」


 夢であるという事も忘れ夢中になって飛ぶ練習をしていたが、少し冷静になってきたこともあり次何をするか決めることにした。


「現実にこんな事できるわけないし、やっぱり夢なんだろうな~。でも夢から覚める前にやらないとだよね!」


 現実だとあまり喋る方ではない玉璃も、この不思議体験に高揚しつつ夢から覚める前にと、体を自分が起きた花からさらに上空へと浮かび上がらせていく。


「うわーー!綺麗~~~」


 上空に上がってみると自分がいた場所は林の中などではなく、花が咲き乱れる花畑であることがわかった。

 周囲は色とりどりの花が咲き乱れ、その上を飛びつつ近くの花の匂いを嗅いだり、花の蜜をなめてみたり、玉璃にとって夢のような時間を味わった。


「もう最高~~~。このまま夢から覚めたくないなー」


 気分は絶好調であり、今自分は絵本に出てくる妖精であり、それはいくら夢想しても叶わなかった、子供の頃の夢を叶えられたんだと思えた。


「ふぅ、堪能した。もういつ夢から覚めるかもわからないし、最後はどこまで飛べるかやってみようかな」


 最後にとそう思い、さらに上空へと体を昇らせ今の自分が出せる最高の速さで花畑の上を飛んだ。体が普通の人間ならとてもじゃないが耐えられない向かい風の中を何ともないかのように颯爽と飛んで行く。


「風が気持ちい~、もう最高~~!ひゃっほ~~~!!」


 ここにきてテンションも最高潮になり、普段の自分からは信じられないような叫びを上げながらどこまでも飛んで行く。

 飛び始めてもうだいぶ経つころ、さすがに少し疲れてきて速度も落ちてきた。

 空を自由に飛ぶことも十分楽しみ、気分もだいぶ落ち着いてきた。


 そろそろ休憩しようかと思い、周辺にいい場所がないか見回しながら飛んでいると、ふと視線の先に箱に山のように詰まれた果物が見えた。

 イチゴのような形をした果物の山の上に降り立ち、ちょっと味見してみるかとその果物をかじってみる。

 イチゴとはまた違った味だったが、上品な甘みと溢れるような果汁に驚き、そして夢中になって食べ始めた。

 小さくなった体でデザートを食べる、これもまた甘い物好きの人なら誰もが憧れるシチュエーションを体験であり、玉璃もお腹いっぱいになるまでそれを堪能した。


「お腹いっぱいー、満足ーー。」


 満腹になるまで果物を食べ終えるとそのままその中で寝転がった。体の下は果物の地面であり、周りはあま~い香り漂う極上の空間だった。

 玉璃は果物の山の中で寝転がると、その満足感から、まぶたが重くなってくるのを感じ、そのまま暖かい光と満足感に包まれながら眠りの中へと落ちていった。



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