第7羽 矛盾した世界
――閉鎖された診療所にて、別の世界から来たという田中、動物病院の先生、近所の女の子、そして私ことメメ。が一同に会した。
まず先生が私のGPSについて説明してくれた。
「名前は清水といいます。メメには済まないことをしたが、これは役人の指示でGPSを埋め込むように言われていたんだ。幸いゆいちゃんの家で懐いてくれたからあまり気にしなかったが。君は貴重だから野外を飛ぶ際は行動を把握しておきたいってことだ。勿論この情報は役人の手にも渡っている。」
まぁ今回私が無事に助けてもらったわけだからいいんじゃないだろうか。どこに何があるかよくわからないし・・・。
「メメは、今度から家の外からは飛ばないように!」怒られてしまった。ゆいに怒られるのはかわいいものだ。
そして私が聞きたかった彼の話、彼はこういった。
「名前は田中だ。俺はまずこの世界の人間じゃない。誰も信じてもらえないだろうけど、そこでは鳥の唐揚げなんかは当たり前のように食べていた。だがこっちに飛ばされてきてからは散々だった。何かの事件の容疑者にされ証拠不十分で釈放されるも食事はかつ丼ばかり。釈放後に独自に調べてもみたけど、確かに鳥は貴重で許可なし口に入手したら禁固1年。まだ豚肉とかが流通してたから辛うじて耐えてきたけど、やっぱり俺は鳥の唐揚げが食べたい。鳥って言っても鶏な。この世界では絶滅したらしいが、代わりの食材がカモや軍鶏、雀ってことらしいな。鳩も平和の象徴じゃなく食の対象らしいじゃないか。
とりあえず紹介された用務員の仕事では給料は雀の涙ほど。そんな給料じゃ規制のかかってる鶏肉を入手できないことはわかっている。だから俺は裏組織に協力するようになった。」
みんなこの裏組織を警戒してるんだよ。
「裏組織といっても肉を仕入れてそれを売りさばくブローカーだから大したことが出来るわけじゃない。手伝っていればそのうち唐揚げを食わせてくれるっていうから今まで手を貸してきた。それがどうだ、お前は3億もするからダメだって。結局金だよ。最低価格の鳥すら食べれないんじゃないかと絶望してたところだ。こんな唐揚げしかないくず、すぐに通報してくれ。」
続いてぼそっと呟いた。
「元の世界に帰りたいよ・・・。」
私は大きな決断をした。この男の世界へ行くことを。男の世界では私は平和の象徴というではないか。恐らく私がこの世界で受けた使命はこの世界を救い、この男を元の世界に戻すことなんだろう。
ゆいには悪いが、そんな決意を伝えてみた。
するとあっさりゆいが「わかったよ。私も応援する!ね、先生も~」天使。まじ天使。
鳩の目にも涙だよ。
役人と組織を相手に正義を執行する。いい響きだ。と思いふけっていると、田中の電話がなりだした。「ボスからだ。すまんが電話に出る。」
カチャ
「田中か!お前何してくれた?」
「え、まだ何もしてませんけど?」
「しらばっくれるな、政府の人間が嗅ぎ付けて来たんだ。流石に時間もなかったから、ほとんど奪われてしまった。俺は一部を持って裏口から逃げたが、捕まるのも時間の問題だ。風見はどこいったかわからんし。お前今どこだ?」
「ここは・・(GPSがあるならここも危ないんじゃないか??)、えっとここも危ないかもしれません。」
「何だと、じゃあ第2倉庫の方で1時間後に合流だ。くれぐれも付けられるなよ?あと例の物もちゃんと持ってこい。」
「清水さん、この鳥のGPSを外すことは可能ですか?」
「外すことは可能ですがまだ私はあなたを信用したわけではありません。先ほどの組織の方と会話していましたし。」
「ですよね・・・分かりました。俺一人でいきます。」
そういうと田中は身支度し出発しようとした。私は田中の肩に乗り、首を振った。
「仕方ありませんね。GPSを外しましょう。メメ君ちょっと痛いですよ。」
――5分後
私の体からGPSが除去された。なんだか軽くなったようだ。
私と田中はそのボスから呼ばれたという現場に向かっていった。
安全の為、ゆいと清水先生には残ってもらった。
――1時間後
「ボス!どこですか?少し遅れてすいません。まだ到着していませんか?」
と田中はボスを探す。
一方私は高いところから人間を探す。こっそり移動だ。
「ボスならここにいるよ!」
奥の薄暗い場所から声が聞こえた。
「この声は、風見か?どこだ?」
田中は声のする方へ向かっていく。
「風見か無事だったか?・・・ボスはどうした?」
「ボスならほら、そこにいるじゃない?ふふっ」
風見は通路の先を指さした。
「まさかお前ボスを・・・。」
風見は得意げに、
「まぁあんたもボスを慕っていた訳じゃないだろう、こんな状況じゃボスがいてもいなくても一緒だよ。」
「確かにボスを尊敬していたわけではないが、何も殺すことないだろう?」
田中は情に訴えているようだ。
「まぁ、こいつはちょっとやりすぎたのさ。」
そう言いながら風見が眼鏡をかける。すると田中の顔つきが変わった。
「あれ、あんたどこかで・・・、鳥ノ屋の受付の子に似ているな。よく考えるとボスも鳥ノ屋の大将に似ているな・・・。え、どういうことだ?」
「おっと、気が付いたかい?私とこいつは、あんたのいた世界では店をやってたんだよ。こちらの世界じゃごらんの通りだけどね。」
田中は戸惑っているようだ。
「もしかして最初から俺をはめる為にそんなことを!?」
「まぁそんなところだよ。」
風見が田中に銃を向けた。
「手っ取り早く言うとお前が見つけたあの鳥が必要だ。あれはボスのいう食用でなく、その血に価値があるんだよ。遺伝子には特性があり、鳥種を死に追いやった例のウイルスに対する抗体があった。どういうことか分かるかい?」
「もしかしてあの鳥がいればワクチンが作れるっていうのか?」
「そういうことだよ。あの鳥さえいれば・・・」
「ちょっと待て、もしそうなら政府が研究してもいいんじゃないのか?」
鳥の私には話についていけない。
風見は銃で遊んでいる。
「わかっていないな・・・、例のウイルス。あれが自然発生だと思うか?」
「・・・!」
「そうだ、政府が10年前に新薬の研究中に事故が起きた。新薬はある病気を治すためだったのだが、そのウイルスは新薬によって進化し、近くにいた鳥に感染した。そこから今の地獄が始まった。」
「なんてことだ・・・。」
「それが今や蔓延し人々の中にまでそのウイルスは存在する。まぁそういったことは政府が隠蔽し、自然に発生したものだと。私はこれを世界に公表し、かつワクチンも製造可能であるということを発表するつもりだ。だがもし、あの鳥が政府の元に渡ったらどうなると思う?最悪隠蔽のために無かったことにされるだろう・・・。」
風見は再度田中に銃を突きつけた。
「長くなってしまったな。さぁあの鳥を私によこしな。」