第5羽 禁断症状
「とっ、鳥じゃないか?!!」
男は私の方を見て狂喜している。こいつはひょっとして例の犯罪者ないのか?まずい、非常にまずいぞ。私は必死にもがいてみる。しかしこの男は網の出口を紐で括って出れないようにしていた。
なんでこんなところに虫網もってきてるんだこいつ。。。
「よし、今からお前をいいところにつれていってやる。」
そう言うと仕事を何の仕事かわからないが投げ出して校舎の外に出て行った。私は必死に鳴いた。ゆいに届くかわからないが、鳴いた。しかし同時にゆいを危険にさらす可能性もあるので冷静になった時には鳴くのをやめた。
男は網の上に黒い袋をかぶせ周りからは見られないようにし移動をしだした。
しばらくすると階段を下りていく音が聞こえる。
「おっ田中じゃん。今日は仕事終わり?」
「風見ちゃん仕事以上のものが手にはいったよ。これっ」というと男は黒い袋を取っ払った。
辺りは明るく人はいない、この受付の女性とこの男のみか。
「おー、珍しい鳥じゃん。田中もやるねぇ。じゃあボスのところに行きなよ。」
「あぁ、受付は任せた。」
男は私をつれてボスと呼ばれる人間がいる部屋まできた。
「失礼します!」
男は礼儀正しく挨拶をして扉を開けた。するとその中には中華料理でもしてそうな大男が座っていた。
「田中か・・・。なんだ?」
「ボス、今日こんなのを捕まえました。」
「どこで捕まえた?誰かに見られたか?」
「職場の中学校ですが、誰にも見られていないはずです。」
「そうか、じゃあこのまま競売にかける。」
「え、掻っ捌いて唐揚げにしないんですか?」
「そんなムダ金があると思っているのか?こいつはどう安く見積もっても3億はくだらないぞ。」
男は残念そうにこっちをみた。
「お前3億もするのかよ。ただの鳩だろ。。。」
えっと私は鳩だったのか。衝撃。初めて知った。
その晩この男の部屋にある虫かごのような狭い空間に押し込められ男が寝るまで延々愚痴をきいた。
男はつい先日までは普通のIT企業で働いていたがサラリーマンで好きな料理は唐揚げ・・・。とのこと。何かの手違いでこちらの世界にいる。あちらの世界には鳥は一杯いるし、鳩は平和の象徴といって食べられる存在でもない。
その話を聞いたとき、私はこの男のもう一つの世界が気になった。男のことをすべて信じているわけではないがその同胞達がまだ元気に活躍している世界があるというではないか。しかし戻るすべが分からない。私はゆいを残してきていることを公開しながらもこの男についていくことにした。
もちろん売り飛ばされないように。