第4羽 唐揚げ事件後
――数日後
「メメちゃん元気になってきたね。まだ飛べないかもしれないけど動けてる!」
当たり前だ、私は特別な存在だ。こんなものあと2、3日で直して見せる。
「そういえば昨日事件があったらしいよ。なんでもこの世界で許可なく鳥の唐揚げを作ったってニュースで言ってたよ。怖いね。」
ニュースって何かわからないが鳥の唐揚げというキーワードは私の心を凍らせる。私の類友たる鶏が担っていた業務じゃないのか。そして彼らが絶滅してからそういう言葉は聞かなくなったのに恐ろしい。軍鶏やカモなど食用で管理されている鳥は残っているはず。私が彼らを助けることが出来ればいいのだが不用意に野生化しても種を残せない可能性も否定できないから困ったものだ。
もし私が捕まったら唐揚げにされることもあるのだろうか・・・。
「ゆい、腹減った!」
そういうと、ゆいは私の籠に食事を入れてくれる。正確には言葉を喋ってるわけではなく鳴いているだけだが、彼女には伝わっている。ゆいは優しい。名前は『ゆい』といって父親は数年前に亡くなり、母親は仕事の関係上夜遅くに帰ってくるらしい。だからそれまでは私と遊んでいるようだ。
ゆいも寂しいはずだが母親に対して我慢しているところとか優しいとしか言いようがない。
私に力があればいいんだが、それでもこんな私でもゆいを守ってやると決めた。少なくとも命を救ってくれた恩返しだ。
私の傷が癒えてきだしたころゆいは私を籠からだして空を飛ぶ練習をさせようとする。
「ちゃんと空を飛べるようにしないとね。」
私は正直乗り気ではない。空を飛んでも現実は暗い世界だ。このゆいの傍にいることが一番優しい世界なのだ。それでも必死に勧めてくるので私もバタバタと翼を羽ばたかせてみる。私は空を飛んだ。まだ痛みがあるので全力ではないが飛んでいる。恐らくみっともない姿だろう。だけど見ているのはゆいだ。ゆいは喜んでいる。私には十分だろう。
そういってゆいの肩に降りた。
「すごい、もうあんなに飛べるんだね。私の肩にも乗ってくれるし私の相棒だね!」
――2年後
ゆいは世間でいう中学生になっていた。友達との遊びよりも私を優先してくれる。私は嬉しいのだが、ゆいはいじめられていないだろうか等と妙な不安、感情がこみ上げてくる。今の私は鳥だ。もしかして以前は人間だったのか?よほど人間に興味があるらしい。
そういえば昨日ゆいの話では以前に事件を起こした人間が証拠不十分の為、出所しているらしい。私からしたらそんな天敵みたいなやつは二度と出てこなくていいのだが状況が悪いことに、ゆいの通う中学校とやらに勤務しているらしい。
まずい、ゆいに何かが起きては心配だ。私はこの2年間でゆいの友達とも面識を持ち公認のボディーガードになっているという強みがあるため、今日はゆいのいる中学校へ赴いた。部屋がたくさんあってどこにいるのかわからなかった為、1つずつ窓から見ていった。私はゆいがいる部屋をようやく見つけ一瞬ほっとしたのか油断して足を滑らせた。
私は鳥だ。足を滑らせたといってもすぐに体制を立て直し上昇の機会を作るはずだったが、人間の網に捕まってしまった。
私を捕まえたのはぱっとしない一人の男だ。