第六話
反攻の機運を捉えた俺は、すぐさま蒲池さんにそれを伝えた。
こちらに逃れてきていた家臣たち、そして挙兵するために
少しずつ集めていた武将や足軽の人数に加え、なんと蒲池さんが
兵士三百人を付けてくれた。
いやもうホント、足を向けて寝ることが出来ませんな。
地元では鍋島を中心として家臣たちが郷士たちを指揮し、龍造寺軍
として揃え、機を窺っていた。
そして、俺たちが佐賀に入るのと時を同じくして挙兵。
一気に攻め寄せ、土橋を捉えて討ち取ってしまった。
佐賀にいた小田駿河と龍造寺孫九郎は降伏・恭順を申し出てきた。
実は孫九郎には密かにあらかじめ事を伝えていたため、
本来なら小田は佐賀を退去し、しばらくしてから恭順するはずだったが、
この時孫九郎と一緒に恭順することになったのだ。
孫九郎に事を打ち明けるのは家臣たちに危険だと反対されたものの、
土橋のことを良く思っていなかったことと、地元に残った俺の家臣たちを
守ってくれたことを主張し、押し通した。
だから孫九郎を追放することもなく、ひとまず近隣の寺に預けるに留めた。
大切な俺の一族だ。
あとでちゃんと働き場所を設けるから、もう少し待っていてくれ。
さて、小田駿河は土橋に組しはしたが、俺たちが命を繋ぐのに尽力して
くれた人だ。
その恩はしっかり返さなければならない。
こういうところにも死亡フラグは潜んでいるはずなのだ。
よって恭順を承諾、本領安堵を申し渡した。
居城と勢力を取り戻した俺は、内政・外交・子作りに励んだ。
最後おかしい?
何を言うか。
武門にとって子作りは大事な仕事の一つなんだぞ。
因みに側室は作ってないし、作る気もない。
嫁さんは後家だけど、まだ若いし可愛いんだぞ!
なお、嫁さんの子供は当然俺の子供であるので、嫁さんの連れ子・於安は
先代の子であるが、俺の子であるも同然だ。
何を言ってるか分からないと思うが、細かいことは気にしなくて良いんだよ!
於安ってば、継父である俺にもよく懐いてくれるし凄く良い子で可愛いのだ。
だから俺の子であることに問題など何もない。
何故いきなり於安のことが出てきたかと言うと、小田家と龍造寺家の絆を
深めるため、小田駿河の嫡子と、龍造寺の嫡女である於安との婚姻話が
持ち上がってきたためだ。
しかし、一つ問題がある。
先ほども言ったが於安はとても良い子でとても可愛い。
龍造寺嫡出の娘であるので、小田の嫡子へ嫁ぐことには何の問題もない。
問題があるのは、俺だ。
可愛い娘を小田家に嫁に出すことに反対した。
というか手放すことを渋った。ゴネた。
そして理由を知った家臣一同に苦笑され、嫁さんに物凄く怒られた。
渋々認め(させれら)た俺は、どこへ出しても恥ずかしくない挙式を、
全力且つ盛大に行うべく動いた。
今度は家老たちに怒られた。
嫁入りの式をこちら側が取り仕切るのは宜しくないんだと。
仕方がないので、顔見世と称して小田家を訪問し、小田の婿殿に
くれぐれも娘を頼むと、何度も頭を下げたら苦笑されてしまった。
於安の舅になる小田駿河からは、娘は可愛いものだから仕方ないですな
と、ニヤニヤされた。
そして於安にバレて、恥ずかしいことをするなと怒られた。
於安は怒った顔も可愛かったが、なにか釈然としない。
そして翌年、於安は小田家へ嫁いで行った。
(俺は悲しかったが)龍造寺家にとっての慶事は続く。
なんと、嫁さんが懐妊したのだ。
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翌年、嫁さんは無事に立派な男の子を生んでくれた。
思わず嫁さんに抱き着こうとして、産婆さんに蹴倒されたのは秘密だ。
赤子には俺の幼名である長法師丸と名付けた。
後の龍造寺政家である。
さて、俺の目標は楽隠居だ。
孫たちに囲まれ穏やかな老後を送ることだ。
まだまだ達成には程遠いが、その一端がここに現れたと言って良いだろう。
そうして決意を新たにしたところで、少弐の動きについての急報が入った。