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クルス・クライストの四女神とカナル帝国記  作者: 椋鳥
第五章 ベルゲルミル動乱
84/132

  裏切りの符丁-3

***



 レイバートンの王城には、王を冠する至高の存在が二者並立していた。ベルゲルミル連合王国の盟主たるグラウスと、レイバートン老王の二人であった。


 立場の上では前者が上位で間違いないのだが、戦況と所在地が二者の力関係を難しくしていた。ただ、グラウスと比肩するはレイバートン王ではなく、あくまで宰相ラファエル・ラグナロックであった。彼と銀翼騎士団を擁するだけで、レイバートン王の権勢は敗戦間もないグラウスのそれを遥かに凌いでいた。


 ラファエルの姿は王城になく、喚き散らすグラウスの相手をするは専らゲオルグ将軍とジットリスの二人であった。グラウスの怒りの矛先はカナル帝国軍に始まり、敗れた十天君、はたまた駆け付けないソフィア軍、そして未だ行方の知れないラーマへと及んだ。


 ジットリスは主君に委細伺いを立てることで、偽報により敵に塩を送った裏切り者をラーマであると断定していた。事前に十天君を召集するようグラウスへと働き掛けをし、あの日、見えぬカナル軍の奇襲を告げて一同を散開させたのは、何れもディアネ神殿に縁のある人物であった。さらに言えば、その者らは何れも出陣前に、神殿の奥で変死体として発見されていた。


 ジットリスがそれらの事実を打ち明けた相手は同僚のエレンベルクのみであり、真に相談を持ち掛けたかった<翼将>には謁見が認められないでいた。


 大きく討ち減らされたベルゲルミル公国勢は、有り体に言って厄介者の扱いを受けていた。エレンベルクの率いる一隊がどうにか城外に陣を構えることを許されたものの、ラファエル旗下の銀翼騎士団と、イシュタルが将軍代理を引き受けるアルケミアの雨騎士団両勢との戦略的接続は許可されていなかった。


 こと軍事において公国勢は口を挟めず、全ては絶対的な実績を掲げしラファエルの胸三寸と言えた。


「ジットリス卿を用いられないのですか?かの御仁の戦術理解は、無下に扱うのも惜しかろうと思われますが」


 日の高くに出ている頃合い、レイバートンの城から馬で半日分離れた西方において、ラファエルらは陣中深くに集まり軍議を開いていた。仮設の天幕にはラファエル以下、ライカーンやウィグラフ、イシュタル・アヴェンシスと彼女の補佐役たる猛将ビヘイビアなど、二つの騎士団から主要幹部が顔を出していた。


 ライカーンのラファエルに対する質問の語尾に被せる形で、ビヘイビアが声高らかに宣した。


「手足のもがれた軍師が戦場にあって、何の意義を持つ?貴殿ら銀翼騎士団と我ら雨騎士団に船頭無しとでも疑うか?」


 五十を超えて尚盛んなビヘイビアは、長身で胸板も厚く、上腕や太股の肥大した筋肉から剛力の程が窺えた。似合わぬ長髪こそウィグラフの嘲笑を買ったものだが、参列する士官の内でビヘイビアの戦闘能力を軽視する者はなかった。


「そうは仰有られるが、ジットリス卿とて<天軍>の異名をとられる将帥だ。純粋に、味方にいれば戦力増となるは間違いなかろう?」


「ライカーン殿は寛容であることだな。某と雨騎士団は、異国人の指揮なぞ死んでも受けぬ!ましてや、ああも凡庸な君主を戴く国の騎士なんぞに口など出させんよ」


 ビヘイビアは巨体を揺らし、さも愉快そうに笑った。それを見た銀翼騎士団側の幹部たちは些か気色ばんだが、彼らの主が沈黙を続けているので口に出しては抗議に及ばなかった。


 見かねたイシュタルが、渋面を浮かべて年長の部下をたしなめた。


「……ビヘイビア将軍、口が過ぎますよ。ライカーン将軍は私心なく陣営の強化を模索したまで。己が主義を押し付けては無作法というものです」


「これはしたり。ですが、姫様にも雨騎士団の気性は掴みきれておりますまい。国王陛下や某は生粋のアルケミア戦士なのです。十天君だろうが名将だろうが、アルケミア伯爵の血統に連なりし誇り高き騎士たちを顎で使うなど、金輪際あってはならんのですよ」


「客気を制さぬ様は父と変わりがありませんね。……兎に角、ラファエル様の御前です。少し口を慎みなさい」


「慎めるところは慎みましょう。しかし、陛下の勅命で雨騎士団を監督する者の責務として、荒唐無稽な提言は受け入れられません」


 国王の娘であり、此度派遣軍の指揮を委されているイシュタルに平然と抗弁するビヘイビアの胆力に、ライカーンをはじめとしたレイバートン騎士は明らかに気圧されていた。ラファエルの命でアルケミア伯爵国を訪れ、王に出兵を直談判したウィグラフだけが、この場の展開を総じて予見していた。


 そのウィグラフは悠々手元のカップに茶など注ぎ、主が何事か口にするのを待っていた。ライカーンは続いて、寄せてくるカナル帝国軍の迎撃について自論を披露し、再びビヘイビアからけちをつけられた。


 北上してくるカナル軍本隊と、連合王国領を横断して東進中のネメシス軍。銀翼騎士団と雨騎士団が相手をしなければならぬのはその両者であり、戦力的には不利を強いられた。


 イオニウムやオズメイと睨み合う後背のミスティン軍はソフィア女王国に対処させ、ベルゲルミルの最強騎士・ラファエルがカナル軍を伐つという筋こそ連合王国にとっての最善で、ライカーンの提示した作戦は二手に分かれしカナル軍を個別撃破するところに力点が置かれていた。


「まずは少数を率いてこちらに近付くネメシス帝を討ち果たすべきかと思うが、ビヘイビア卿はどういった観点からそれを手落ちであると謗られる?」


「ライカーン殿。貴殿は盤上の戦術談義に向いているようだな。大国王陛下が十天君五人と三騎士団を動員して挑み、そして敗れたネメシス帝の部隊。敵の精鋭は間違いなくこちらぞ?個別撃破の妙は徒に時間や兵士を損なわぬ点にある。ここまでは如何か?」


「正論ですな。ただ事実として、ネメシス帝の部隊は先行してこちらに到達せんとしている。それを一体どうする?放っては置けまい」


 ウィグラフとイシュタルはちらりとビヘイビアに視線を移して態度を探った。ビヘイビアは椅子から身を乗り出し、皆の注目を一身に集めた。そして、白い丈夫そうな歯を全面的に剥いて笑みを溢した。


「そのようなこと、某は知らん。名高き<翼将>殿にこそ、名案があろう?」


 呆気にとられた一同を一通り見回した後、ビヘイビアは幕中の最高責任者へと自信満々に水を向けた。


「ラグナロック将軍閣下。閣下に腹案はおありかな?某は南より接近する大軍をこそ先に除くべきと考えますが」


「そうだな。カナルの本隊をネメシス帝やファラウェイと合流させるのは都合が悪い」


 さらっと言ってのけたラファエルに対し、イシュタルがおずおずと質問した。彼女には近付く少数精鋭の敵と遠くの大軍とを順序を入れ換えて打倒する術が思い浮かばなかった。


「ラファエル様。どのような用兵をお考えなのですか?理屈から言って、ライカーン将軍の指摘は極めて的を射ているように思われますが……」


「ああ。私が銀翼騎士団の主力を率いて北上中のカナル本隊を伐つ。その間、雨騎士団は守りに専念してくれれば良い。数の上ではそれほど差もない筈だ」


「……!それでは、ラファエル様が数倍する敵と相対することになります。いくらなんでも……」


 ラファエルはイシュタルの心配を意に介した風でもなく、隣のウィグラフを向いて一つだけ指示を下した。


「ウィグ。銀鱗小隊を連れてイシュタルの側に付いてやってくれ」


「承知致しました。アムネリア・ファラウェイやクルス・クライストは、討っても宜しいのですね?」


「無論だ。戦なのだからな」


 自軍の配備に干渉された事実も忘れ、今度はビヘイビアやアルケミアの士官たちが呆ける番であった。情報によれば、カナル帝国より新たに進発した軍勢は一千に近い大軍で、一方銀翼騎士団の全容は三百に満たなかった。


 ビヘイビアらからすれば、銀翼騎士団と雨騎士団を合わせて事に当たると思い込んでいたので、少数の兵を分けるラファエルの裁量には意表を突かれた。もっとも、ラファエルやウィグラフからすれば、雨騎士団との統合はあくまで戦術の範囲内に止まり、戦闘単位として融合する気など端からなかった。


 ウィグラフはラファエルと意見を同じくしており、また自分が雨騎士団に残れば易々と個人の武で圧倒されることもなかろうとの楽観を持っていた。。


(一番強力な手駒で事態を打開する。そこに不純物は不要だ。ラファエル様が帝国の大軍を破る間に、こちらはイシュタル様さえ護れればそれで良い。警戒すべきは元十天君とニナ・ヴィーキナの勇者だが、それとて私と銀鱗小隊があれば抑えるに充分。難しいことは何もない。いや、強いて挙げれば……)


 ウィグラフは、彼だけがラファエルから告げられていた巨悪の存在を思い浮かべ、少しだけ背筋を寒くさせた。ラーマ・フライマがこの戦場に介入してくるかどうか。それと、魔神に己の黒刀が通じるものかどうかの二点は、流石の彼にも予想出来なかった。



***



 <不死>と称されるだけのことはあり、モンデ・サイ・アデルはしぶとかった。グラウスの率いたベルゲルミル公国騎士団や、ファーロイ湖王国の騎士団が軒並み潰滅した中、片腕と見込んだレベッカを失おうとも残兵をよく統率してネメシス軍の追撃から逃れた。


 モンデにこれという展望があったわけではなかった。ただ、彼は残騎を率いてグラウスを追い掛けることはせずに、ベルゲルミル領をゆっくり北上した。


 野営を重ね、連合王国の勢力圏で北端にまで達したところで、シアジス緑地帯で起きた異変がモンデらの耳に届いた。俯瞰して見れば既にその頃にはモンデらの精神は魔神の霧に囚われていたわけで、そのまま引き寄せられるようにして、小規模な傭兵団と顔を合わせることとなった。


 奇しくもイオニウムを出立した獣人部隊までもがそこへ合流し、その光景は焼けて原野と化したシアジスの酷薄な様と相まって、観察する者の胸中に寒風を吹かせた。


(<鉄の傭兵>に率いられた一線級の傭兵たち。十天君と旗下の騎士団。そして、凶暴なる獣人の軍団。何の祭りだって話だな)


「そんなところで黙って立ち見か?殊勝を装っても、小生意気な貴様には似合わぬことだ」


 小高い丘よりシアジスの焦土を眺めていた観察者の背に、いきなり声が掛けられた。懐かしい声音と嫌味ったらしい物言いに悪意は微塵も感じられず、観察者は首だけ振り返って旧知の人相を確認した。


 カラシ色の厚手の外套を羽織り、頭に羽根帽子を置いた旅装姿の老人がそこにいた。背に大きな荷物袋を抱えて杖もつかず、背筋を正したままでいる様子から、矍鑠たることは容易に知れた。


「……博士か。世捨て人のあんたが石棺から出てくるなんざ、どういう風の吹き回しだ?」


「サラスヴァティは死んだのであろう?微弱ながらに<パス>を感応させ続けていたからな。私には分かる」


 晴れた日の空を思わせる青い長衣に身を包んだ観察者の纏う空気が、一瞬にして凶暴さを帯びた。観察者の殺気の込められた苛烈な眼光が旅装の老人へとぶつけられた。


「彼女の背を押したのは私に違いあるまい。ビフレストから帰ったあれに、問われるがままに世界の成り立ちを教えた」


「黙れ」


「ソフィアの小娘やノブレス・エルフも忙しいと見える。あの小僧は、相変わらず東西奔走しているようだが」


「黙れと言った」


「彼女が命を賭してまで守ろうとしたアケナスだ。そこまで価値があるとも思えんが、私も友情分の義理は果たそうと思う」


「もう遅い。虫酸の走る話は止めろ。俺の計画に、未来の失われた老人の出る幕などない」


「その計画とやらは、<フォルトリウ>とかいう誇り被った盟約に尻尾を振って達成させるのだな?先に言っておく。主神たちがいない以上、旧世界の機構を単純に延命させることは救済と意味を同じくしない。四柱が蘇ればすなわち、大陸に地獄が顕現するのだ」


「主神は作り出せる。だから老人の戯れ言に付き合うつもりはない」


 観察者は言い切り、ここで老人へと体を向き直った。二者は視線で刺し合い、物理的な接触こそなかったが、雰囲気は決闘そのものと化していた。


 二者が立つ丘から見渡せるシアジスの大地においては、急造の混成部隊が進発の準備を整えていた。観察者は依然遠見の魔法を継続行使して監視を続けていたが、意識の殆どは老人へと向けられていた。


「イーノ先生!混沌の君より伝令がありました!……あれ?そこの御老体、イビナ・シュタイナー様ではありませんか!」


 <幻魔騎士>イーノ・ドルチェの名を呼ばい、丘を駆け上がってくる若者があった。彼は最近までラティル・アクロスと名乗っていたが、それは当然に偽名であった。


 彼はラティルという実在する人物の身分を偽り、ミスティン王国で<北将>の近侍に取り立てられた。そしてかの国の王位継承問題が表沙汰になって以降は、幻術でその名や姿形を借り受けたイーノと立場を交替していた。結果的にエレノアの調べでイーノの正体こそ見抜かれたものだが、若者の存在までは露見していなかった。


「イーノよ。この青年は、まさか?」


「そうだ。あの時あんたも居たよな。ヴァティに倣って、俺もガキを一人拾って育ててみた。付きっきりで面倒を見ていたわけじゃないが、こいつには色々と素質があった。今ではビフレストへの鍵足り得る実力を有している」


 イーノはそう言うと、現れた青年に手荷物を放って預けた。


「混沌の君の見立てた通りだ。魔神は動いた。おそらく<北将>の首を狙うだろう。で、次はどこだ?」


「巨人国で<フォルトリウ>の緊急会合を開くそうです」


「そこから始めると言うのだな?」


「混沌の君はそう言っていました。ベルゲルミルの衰退やイオニウムの暴走は止められないと。システムの崩壊を招く前に、計画に<フォルトリウ>の合意を取り付けると」


「……ふん。獣人の既得権益を守ってやるためにミスティンを弱らす。種族補完を掲げてそうしたまではいいが、今度はそこを魔神に突かれて盤面を引っくり返された。こうなると分かっていれば、こちらが先にエレノア・ヴァンシュテルンを虜としておくべきだったな」


「ですね。ミスティンへ潜入していた時分に機会はいくらでもありましたし。万魔殿の封印がいつまでもつか不透明になった今だから言えますが、クラナド入りして、不完全ながらも新しき神を誕生させておいた方が良かったのかもしれません」


「新しき神など作れんよ」


 無視されていた形のイビナ・シュタイナーが冷めた口調で割り込んだ。彼は遡ってノエルやワルドからビフレスト周りの質問を受けていたので、イーノたち二人の会話の内容をほぼ正確に理解していた。


 天上の楽園クラナドに上り、アケナスを去りしカナンたち主神に代わって世界の統治システムを再構築すること。それがイーノの計画であると知り、イビナは致命的な欠陥を指摘した。


「お前たちにどこまでの知識があるかは知らんが、クラナドでシステム管理者を増やすに、大量の補佐役が必要となる。そして、残念ながら天上にその資格を有する者はもはや少ないのだ」


 イーノが感情を消した能面のような表情を旧友へと向けた。


「サポート役たる天使種族の不足など、とうに把握している。それに関しては、ヴァティが対抗策も編み出していた。極めて非人道的な策で、当人は最後までその方法を良しとはしなかったがな」


「対抗策だと?」


「博士。あんた、ヴァティにだけはよく昔話をしてやったそうじゃないか。あいつはあんたの素性をとっくに見抜いていたよ。後は簡単な話だ。<フォルトリウ>のネットワークを使って、アケナス全土を隈無く捜索した。あんたには多くの子があったんだろう?五百年も経てば、それこそ子孫はちょっとした町村を築けるだけの数に膨れ上がる。そして如何に上等な血族だろうと、俺の幻術に抗うことなど出来ん」


 イーノの口述にはっとさせられ、イビナは言葉を失った。彼が五百年を生きてきたことに偽りはなく、それは彼が純粋な人間でないことを示していた。そんなイビナにしても、目の前のイーノ・ドルチェの大言を妄想と断定する自信はなかった。


(この男は、サラスヴァティがただ一人対等と認めた騎士だ。有言実行。どれほど無茶に思える事柄であろうとやってのけるだけの実力がある)


「博士よ。一時でも共に旅した身だ。目障りには違いないが、ここで命を獲ることはしない。大人しく石塔に引き籠って余生を楽しむのだな。次は、ない」


「待て。サラスヴァティの最期はどうであったのだ?」


「……俺に聞くな。クリス・アディリスに聞け」


「小僧にだと?」


 イーノはイビナに背を向け、さっさと歩き出した。彼の弟子であるところの青年は小さく御辞儀をし、それに続いた。


 イビナ・シュタイナーはイーノらが去った後もしばしその場に留まり、己が半生を反芻していた。自分が他の人間たちと異なる素性の持ち主であると知り、やさぐれて自堕落な生活を送った試しもあった。


 彼に時間はいくらでもあった。武術や魔法に打ち込み、時にアケナス各地を旅した。そして後年学問を修めてその名が聞こえて以降は、それなりに生活に充実を覚えてもいた。


 イビナの姿勢に多少なりとも影響を与えた者と言えば、三百年ほど前にアケナスを統一仕掛けた女帝と、サラスヴァティ・レインやその一味が筆頭に挙げられた。どちらも圧倒的な実力と人間的魅力に溢れ、まさしく天に愛された人間であるとイビナは疑わなかった。


 拾った孤児の面倒を付きっきりで見始めた時などその酔狂に呆れ返ったものだが、その時の小童が今や大陸を代表する勇者に育ちつつあると知るや、イビナは胸が熱くなる様を抑えられなかった。


(私は……年甲斐もなく、サラスヴァティに焦がれていたのであろうな。それはイーノやアバドンらも同じだ。あやつ自らは光輝く恒星で、その周囲には自然と衛星が集って回る。それも梟雄ばかりを引き寄せるのだから、なんとも不思議な娘であった)


 イーノの言い草では、サラスヴァティはイビナの正体に気付いていたのだという。それでも、彼女は存命中にイビナや彼の血族を呼び寄せて神となる道を選ばなかった。


 翻って、自分はどうなのであろうとイビナは内省した。最終的にサラスヴァティを魔境に仕向けたのは自分であり、彼女の分岐点は確実に自分が演出したものであった。


(やはり、裏切ったのは私の方か。あの時隠棲など主張せず、この足で付いて行くべきであったのだ……)


 イビナは遠見の魔法を用いてシアジスの方角に視界を移し、そこに蠢く薄気味悪い一団の観察を自ずとイーノから引き取った。拡大された視野には傭兵やら獣人らが映り、そしてイビナはまたも旧知の顔をそこに見出すこととなった。



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