表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クルス・クライストの四女神とカナル帝国記  作者: 椋鳥
第二章 カナル承継
32/132

5 散華

5 散華


 ノエルの導きにより迷うことなく樹海を抜けたクルスは、森の北側でベルゲルミル公国騎士団を相手に抗戦するネピドゥスと再会した。長老自ら前線へと出張っているあたりに、エルフ族の本気が窺えた。


「南の敵を追い払ってくれたそうだな。感謝を」


「礼を言うにはまだ早いだろう?ノエルの故郷を守るためだ。ここも助太刀する」


 言うやクルスは<戦乙女>をけしかけて敵の隊列を崩すと、飛び込んで前後左右に剣を振るった。クルスを弓矢や魔法攻撃から護るべくノエルも飛び出して、その三者の突出を皮切りに公国騎士団の戦意は低下の一途を辿った。


 ただでさえエルフたちの魔法に悩まされていたところに、正体不明の剣士や空地を問わず暴れる<戦乙女>まで現れては作戦の遂行どころではなかった。被害報告に泡を食ったゲオルグ将軍は大森林の走破を諦め、全軍の撤退を決めた。


 森からは火の手が上がっていたのだが、ネピドゥスの迅速な指示により水と土の精霊が多数召喚され、瞬く間にその勢いは抑え込まれた。


 剣を収めたクルスはその光景に感嘆の言葉を漏らした。


「流石だな。これだけの数のマジックマスターがいるんだ。おれたちが来なくても結果に変化はなかったろう」


「そんなことはないわ。黙示録の四騎士を打ち払ったのはあなたとラクシュミと私。それに、騎士団だってまさか近接戦を挑まれるとは思っていなかったはず。撹乱が奏功したのよ」


「その通りだ。お前たちの働きは見事であった。里を代表して礼を言わせて貰おう」


 ネピドゥスは音もなくクルスらの背後に立っていて、水の貯められた革袋をずいと差し出した。クルスは受け取るや、旨そうに冷水を喉へと流し込んだ。


 延焼が避けられたことでエルフの里まで被害は及ばず、それを聞いたノエルは胸を撫で下ろした。ノエルのほっとした様子を横目に見つつ、クルスはネピドゥスへと突っ込んだ話を振った。


「ウィルヘルミナ女王との蜜月もこれで終わりか?それともソフィア女王国とベルゲルミル連合王国は一体ではないという、人間の政治的矛盾を斟酌してやるのか」


「元々人間には何も期待していない。ゼロだった信用がこれ以上減りようもあるまい?ソフィアを詣でたはウィルヘルミナ個人の頼みを聞いたに過ぎぬ。あれも大国に絡めとられて多くの苦労を抱えているからな。サラスヴァティやイビナ・シュタイナー、イーノ・ドルチェらのように自由人ではいられまい」


「……あんたはヴァティの最期を知っているのか?」


「知っている。誰よりも強く、誰よりもアケナスの平和を祈念しその為だけに行動したあの者は、無限に近い寿命を持つ我らエルフからしても敬うに値した。本来であれば、それに相応しい弔いを用意してやりたかったがな」


 ネピドゥスはクルスのぎらつく視線を受け流し、冷静な態度で語った。


「今はその話をしている時ではあるまい?退いたベルゲルミルの騎士団は迂回してカナル帝国入りを目指すであろう」


「ああ。奴等が余計な手出しをする前に、マリス侯を伐って国防を統一させる。全面対決の姿勢さえ整えばカナルは決して負けない」


「果たしてそうかな?ここ二年程ベルゲルミルは大戦を経験していない。戦力や人材に不足はなかろう。対するカナルは内戦続きで兵力は分断され、将の多くが失われている。ましてや国防の要たる白騎士団のウェリントンが出奔したは大きい。かの者が独力でベルゲルミルをはじめとする諸外国の圧力を押し返していたに等しいのだからな」


「……人間嫌いを謳う割にはよく知っているじゃないか?カナルの政治に興味でもあるのか?」


「諜報くらいはな。ノエルの他にも森の外に遣っている者がいる。アケナスの政情はある程度把握しているつもりだ。一つ教えてやる。レイバートン王国は動いたそうだぞ。一番にカナルの国境を侵すが、専守防衛を信条とする老王の治めし国とは可笑しい話だ。これも人間の政治か」


 ネピドゥスの提供した情報を耳にするなり、クルスの表情から一切の余裕が消えた。


「銀翼騎士団!あの、ラファエル・ラグナロックが動いたというのか?」


 傍らのノエルの知識にはその名の蓄えはなかったが、クルスの変容と重々しく頷く父の態度から重大事と察した。


「クルス、直ぐに戻る?」


「……ああ。ネメシス様が説得に成功していれば、ヴィトウスから白騎士団が迎撃に出ている筈だ。数の上では少なくともレイバートンの銀翼騎士団を上回る。数の上ではな……」


 荷を拾い今にも走り出しそうなクルスへと、ネピドゥスが「伝令くらいなら手伝ってもいい」と大幅な譲歩を示した。これにはノエルも驚き、大陸エルフの長老たる父が人間勢力の軍事行動の補助を申し出るなどどんな風の吹き回しかと訝った。


 クルスはその申し出を有り難く受け取り、チャーチドベルン方面に軍を進めている筈のネメシスに対する状況報告を託した。そしてノエルを伴い森へと踵を返した。大森林を東に抜ければレイバートン軍の侵入経路に近かろうという計算に因り、再びノエルが道案内を買って出た。



***



 エルフの使者がクルスからの信をネメシスへと伝えられたのは、バレンダウン伯爵派の全軍がカナル西部に陣を構えた頃合いであった。フェイニールの所領であるレジミェールに集結したマリス侯爵派の総勢と相対し、決戦まであとはネメシスが号令を発するのみと言えた。


 主だった面子は陣の各所に散って配置に付いており、アムネリアとベンの二人だけがネメシスと共にその報へと接した。まずアムネリアが警句を告げた。


「銀翼騎士団はまずい。ネメシス様、無闇に仕掛ければ白騎士団は手痛い反撃を被るでしょう」


「それは、ラファエル・ラグナロックの存在ですね?<翼将>と呼ばれしレイバートンの十天君」


「はい。レイバートンで宰相兼騎士団長の地位にあるラグナロックは、間違いなく十天君最強の騎士です。神具・アイギスの盾を持ち、単騎としてはベルゲルミル一の武勇を誇ります。ここ十年で幾度か起こった内乱や対外戦争で連合王国軍の指揮をとり、彼の用兵手腕が本物であることも証明されています。……銀翼騎士団自体は平均的な練度で、数も多くて二百かそこら。普通に考えれば脅威とも感じないでしょうが、彼が指揮をとるからには鬼神の如き働きを見せましょう」


 ラファエル・ラグナロックの名はカナルのウェリントン同様アケナス全土に知れ渡っており、カナンの神官であるベンですらその名を聞いて、背筋を這い進む悪寒を抑えられなかった。


「……ベルゲルミルは全面戦争だけは避けるであろうと考えていました。私の見立てが甘かったのでしょうか?」


「<天軍>に<飛槍>に<翼将>。ベルゲルミル公国とレイバートン王国の二か国が動いただけでは判断の難しいところです。しかし、<白虎>を欠いた白騎士団がどこまでやれるものか……」


「クルス殿が向かわれているのでしょう?<戦乙女>の力があれば、騎士一人がいくら強かろうと撃退出来るのでは?」


「ベン殿。ラグナロックはマジックマスターでもあり、いわんや召喚魔法を得意とするのだ。そして彼が<翼将>と呼ばれる由縁こそ、怪鳥フレスベルグを従属させている点にある」


 フレスベルグはアケナス東部の霊樹ユグドラシルの頂上に住まう白銀の大鷲で、身の丈が成人男子の三倍相当ある怪鳥として知られた。ユグドラシルに近付く者は種族を問わず魂を喰らってしまうことで恐れられ、近隣諸国は何度も討伐隊を差し向けたが何れも失敗に終わっていた。そうしてこの怪鳥は長年放置されてきた。


 ラファエルは十代の頃、親交のあったミスティン王国の王太子や<鉄の傭兵>らとユグドラシルに臨み、この怪鳥を討伐して見事調伏せしめた。以来、フレスベルグはラファエルの召喚に応じて戦い、そこには完全なる主従関係が確立されていた。


 この冒険譚により、ラファエルらはサラスヴァティ・レイン一行に次ぐ名声を得ることとなった。


「あの怪鳥フレスベルグ……ですか。成る程……それであれば<戦乙女>とも渡り合える可能性がありますな……」


 ベンは暗い顔をして頷いた。彼は古代遺跡の地下水路でクルスとラクシュミの実力を目の当たりにしていたので、ちょっとやそっとの敵にはひけをとらない筈だと強気でいた。それ故にラファエルの地力にショックを受けてもいた。


「とは言え、今更兵を返すわけには参りません。銀翼騎士団のことはクルスとアルテ・ミーメに託しましょう。こちらは明日にもレジミェールを落とすのです」


「はっ!準備は着々と。間もなくチャーチドベルンからマイルズの神官戦士団も到着しましょう。ベン殿、カナン神殿からの増援は如何か?」


 アムネリアの問いに、ベンは確認に赴くと言って慌てて走り出した。ネメシスは微笑みを浮かべ、アムネリアへと和やかに釘を刺した。


「あまりベンをいじめないでくださいね。カナン神殿は保守的なのです。なんだかんだ理由をつけて、出兵を先送りするかもしれません」


「これは失礼致しました。しかし、マイルズの神官戦士が加われば黙示録の四騎士やエヴァキリアが出てきたとしても対抗出来るというものです。……マリス侯が早々に諦めてくれると、犠牲も少なく収まるのですが」


「彼は……権力の亡者というのとは少し違います。私の知っているフェイニール・マリスは、現実主義者でありバランス感覚に優れた保守政治家です。彼が理想とするカナルの国情は大国である現状の延長線上にあって、そこに余計な改革を必要とはしないように思われます」


「確かに、侯爵は魔境への関与に否定的な見解を披露しておりました。貴族制度の改革へも消極的なようですし、保守としての考え方に筋が通っているのは分かります」


「だからです。私にカナルの舵取りを委せることは、彼にとっては国の自殺と考えるにも等しいのでしょう。ベルゲルミルに傾斜して国がおかしくなることの理解できない御仁ではありません。フェイニールの信念が、彼を愚かにさせざるを得ない。抵抗することには意味があり、私に降伏するという選択肢は残されていないのです……」


 もう一戦、血を流させる決断を下す立場のネメシスはそれでも悲壮感を表に出さず、自らの責任としてフェイニール一党を打倒するという決意から、尚力強い覇気を全身にみなぎらせていた。アムネリアは下手な同情を口にせず、間近に控えた戦闘において自身の出来ることをやろうと心中で誓った。


 翌日、チャーチドベルンからマイルズの神官戦士たちが合流した時点をもって、バレンダウン伯爵派諸侯軍はレジミェールへと総攻撃を開始した。



***



 アルテ・ミーメは気概だけの将帥ではなかったので、進路上に謎の騎影が見つかっても慌てることなく情報収集に努めた。そして「ベルゲルミル軍侵入す」の報と接するに至り、白騎士団全軍に発破をかけた。この一年を無為に過ごしていた騎士たちは大いに発奮し、将たるアルテ・ミーメの期待に応えるべく声を張り上げた。


 帝国最強の白騎士団が内戦に敗れた挙げ句騎士団長の出奔を許すという屈辱的な境遇に甘んじていたわけで、練達の騎士である各々が抱えた苦悩はいかばかりであっただろうか。アルテ・ミーメとて自負は強く、ベルゲルミル軍を叩きのめすことで汚辱を注ぐというのは騎士団全体にとって是とされた。


 カナルの北東部、隣国であるトード伯爵国との国境付近で両軍は対峙した。レイバートン王国は銀翼騎士団の旗を視認したアルテ・ミーメは、敵隊列の中に<翼将>がいることを確かめた。


(出てきたか……ラファエル・ラグナロック。かつてウェリントン様が仰っていた。ベルゲルミルの騎士で真に警戒に値するのは<翼将>だけだと。最強の騎士であり、戦術家であり、マジックマスターでもある。奴に好き勝手をさせては勝敗に響くか)


 アルテミーメの率いる騎士は五百近くに達しており、対する銀翼騎士団は目視できる範囲で自軍の半数を割り込んでいるものと思われた。これであれば戦力の無駄遣いも多少は許されると、アルテ・ミーメは近衛から十騎を選び出してラファエルただ一人を狙うよう厳命した。マジックマスターたちには魔法抵抗に専念するよう指示を出し、騎士らには力戦を主張した。


 両軍共に平原に展開している為、ある程度距離を詰めたところで将同士肉声での会話が実現した。


「賊よ、名乗れ。見たところトードの軍ではないようだが、カナルの領土を侵犯したからには相応の報いを受けることになる。我が名は白騎士団のアルテ・ミーメだ」


 白の鎧兜に身を包んだアルテ・ミーメが勇壮なる様で詰問した。相手の素性はわかっていたので、あくまで形式的な問答であった。出方次第では、即座に全騎を突撃させるつもりでいた。


 秀麗な白馬に跨がったその騎士は銀の全身鎧に紅色のマントを羽織っており、それが風になびいてはためいていた。金髪に落ち着いた碧眼という貴族然とした見目は麗しく、それでいて武人の風格も併せ持っていた。一際目立っていたのはそれだけが独立した装備とも映る異色の青銀の盾で、施された精緻な装飾や磨き抜かれた表面の輝きは戦場に場違いな優美さを振り撒いていた。


 神具アイギスの盾と、その所有者ラファエル・ラグナロックその人であった。


 ラファエルはアルテ・ミーメの問い掛けを無視し、傍らに控える騎士二人に訊ねた。


「ジットリスやディロンからの連絡は依然無いのだな?」


「はっ!ありません」


 髭の濃い壮年の騎士が受け答えをした。彼は銀翼騎士団の副将で、名をライカーンと言った。


「ウィグ、道中の丘陵地帯ならどうか?」


「はい。問題ないものと存じます。隘路を複数確認しております故」


 黒髪で能面のような表情をした優男風の騎士が応答した。こちらはラファエルの副官ウィグラフであった。


 ラファエルは右手を頭上へと掲げ、続いて水平位置にまで下ろした。それを受けて銀翼騎士団の全騎が一斉に背後へと動き出し、ライカーンはラファエルの側を離れて隊列へと潜り込んだ。


「待て!何のつもりだ?」


 アルテ・ミーメの怒号はしかしラファエルに何ら感銘を与えなかったようで、残るウィグラフと二騎も追って馬首を転らせた。銀翼騎士団が北方へと引いていくちょうどその時に、クルスとノエルが戦場に駆け付けた。


「間に合ったか。あの砂塵、どうやら銀翼騎士団は引いてくれたようだな」


「……クルス・クライスト。こんなところへ何をしに来た。我々は奴等を追う。邪魔立ては許さんぞ」


「なに?止せ!向こうが寡兵なんだ。こちらはどっしり構えていれば、銀翼騎士団と言えど何も出来ん!」


「余計な口出しは無用!カナル帝国最強の白騎士団が敵前にあって不戦を貫くなど有り得んことだ。ラファエルラ・グナロックを討ち果たす様、よく見ておけ!」


 そう言い放ち、アルテ・ミーメは白騎士団の足を動かした。目指すは視界の奥で遠ざかる銀翼騎士団であり、背後から一撃して散々に撃ち破る考えであった。


「待てっ!ちぃ……とんだ猪武者じゃないか」


 全く耳を貸さないアルテ・ミーメに悪態をつき、クルスはノエルに目で合図を送った。


 トードの領内であれども銀翼騎士団はよく道を知り、丘陵の散在する険路にも速度を維持したままで走った。ウィグラフの偵察の賜物であったのだが、それを追う白騎士団は、道なき道の足場の不安定さや山肌に群生した樹林の枝葉による視界不良に苦しめられた。


 気付いた時には左右を岩壁に挟まれており、眼前は歩幅の狭い地点に銀翼騎士団が待ち構えていた。ラファエルは先頭に立っており、彼の頭上には巨鳥が文字通り浮いていた。怪鳥フレスベルグが羽ばたくには空間が足りず、浮力は風の魔法で補われていた。


 その威容に、アルテ・ミーメをはじめとした白騎士団の騎士たちは戦慄した。


「アルテ・ミーメと言ったか。これは戦争だ。悪いが全力で行かせて貰う。フレスベルグ!」


 ラファエルの命令に忠実に、フレスベルグの巨体が白騎士団へと突進した。誘い込まれた形のアルテ・ミーメらには逃げ場が無く、一瞬の後に怪鳥に圧殺される運命が扉を開けていた。


「止めろ!ラクシ!ノエル!」


 風の奔流がフレスベルグへとぶつかって直進の勢いを減じると、白騎士団との間に現れた<戦乙女>がグングニルを振るって激突した。その下方をクルスが馬で駆け抜け、ラファエルへと殺到した。


 クルスの初太刀はしかし、割り込んだウィグラフの黒刀によって完璧に防がれた。微動だにしていないラファエルをじろりと睨み付け、クルスは手綱を操ってウィグラフから距離を稼いだ。


 勢いを止められた形のフレスベルグは、嘴の端から火の粉を散らせながらも冷静にその場に留まり、ラクシュミ・ノエルと向き合った。


 窮地を救われた形のアルテ・ミーメは我に返り、隊列を隘路仕様に組み替える指示を下した。


「……フレスベルグの奇襲を止めたか。貴殿は白騎士団の騎士か?」


「剣を交えるのははじめてだな、<翼将>。お前さんの噂はヴァティから聞いていた。……御丁寧にも、ラファエル・ラグナロックとは闘うな、という有難い忠告をな」


 クルスは不遜な態度で応じたが、目の前の騎士が放つ無言のプレッシャーはかつて人間を相手に感じたことのない性質であった。剣を握る手にはじっとりと汗が滲み出、気を抜くと大声で喚きたくなる程の鬼気を肌身に感じていた。


「……懐かしい名を聞いた。サラスヴァティ・レインに連なる者か。それであれば<戦乙女>を召し抱えていることも頷ける」


「余裕じゃないか。隘路なら戦力差を覆せると踏んだのだろう?残念だったな。白騎士団はすぐに持ち直すし、時間をかければトード軍もやって来よう。お前たちはここで終わりだ」


「トード軍など来ない」


「なに?」


「もう倒した。ウィグラフ」


「はい。トード伯爵旗下の騎士団二百相当は、二日前にラテワナ湖畔で潰滅させました。あの大敗は国家の存続に支障を来すレベルで、この戦場に介入する余地などありますまい」


「そういうことだ。戦術については貴殿の言う通りであるが、さて、仲間がフレスベルグと対峙したままで私とウィグラフの剣を止められるかな?」


 ラファエルは静かに青銀の剣を抜いた。ウィグラフも先般クルスの剣を受けた黒光りのする長剣を構えた。何れも魔法力の発露を感じさせる業物で、感知の出来ないクルスにも撃ち合うことへの危険性は見て取れた。


(ラクシは……もってあと数撃というところか。ノエルだけに怪鳥を任せるのでは酷だろうし、これはまずい展開になった)


 クルスのこめかみを一筋の汗が伝った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ