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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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3話「小さな部屋と食欲の魔女」

プロローグ第一話に加筆しました。

もぐもぐ・・・


むしゃむしゃ・・・


ごっくん・・・


もぐもぐ・・・


「いい食べっぷりだねぇ~。」

「・・・おい。あの娘8皿目に突入したぞ・・・。」

「信じらんねぇ・・・あの体のどこに入るんだ・・・。」

「うぇっぷ・・・見てるこっちが胃もたれしてきた・・・。」

「すげぇ・・・何者だ・・・あの娘。」


一心不乱に出てきた料理を平らげていく春。

虹色の松明亭に訪れた客たちも、唖然とした表情で春の食いっぷりを見ていた。


「・・・美味いか?」

「ふぁいっ!ほいひぃれふ!」

「そうか・・・よかったな・・・。」


シェルは苦笑いをしつつ、金足りるかな・・・と不安に感じ始めていた。

予想以上の健啖ぶりに内心冷や汗ものである。


「ふぅっ、ごちそうさまでしたっ!」


食べ始めて約1時間。

春はようやく、人心地ついたように箸を置いて手を合わせた。


「あの嬢ちゃん10人前いったぞ・・・。」

「あの子の胃袋は虚無空間にでも繋がってるんじゃなかろうか・・・。」

「ありえねぇ・・・。」


回りの飲み客たちはそんな春を見ながらどよめいていた。


「・・・満足したか?」

「はいっおかげさまで!」


ちなみに、虹色の松明亭で夕時に出す料理はどれもボリュームがある品ばかりであるため、働き盛りの男でも一皿で一日分のぐらいの量はある。

それを10人前食べた春は単純計算で10日分一気に食べたことになる。

その日の春の食べっぷりを見た客の間では、《食の神に愛された娘》や《食欲の魔女》などとと囁かれるようになる。


それはともかく。


「もうすぐアンドルフ先生も来るから、部屋に行っておいたら?」

「そうだな、いろいろ聞きたいこともあるし。」

「わかりましたっ。」


シェルと春は席を立ち2階へと向かう。その途中サンディが声をかけてきた。


「あ、ハルちゃん~。もうすぐチューリパイが焼けるけど食べるかい?」

「チューリパイってなんですか?」

「えっとねぇ。チューリっていう甘酸っぱい果物をパイで包んで焼いたものだよ~。」

「デザートですかっ!食べます!」


春の「食べます!」が階段の奥から聞こえた客達は、ギョっとした顔をしてそちらの方へ一斉に振り向くのだった。





「それじゃ、いろいろ聞きたいことがあるから座ってくれ。」


自室にて春を椅子に座らせ、シェルはベッドに座った。

小さな部屋には、必要最低限の荷物とベッドと小さなテーブルと椅子が一つ。

依頼があれば遠方への長期任務などもあるため、シェル以外の冒険者でも似たような部屋に住んでいる。

調度品もなく殺風景ではあるが、木造の壁についた傷や染みは年季を感じさせるものであり、シェルは結構気に入っていた。

あの傷は駆け出しの若い冒険者が、あの染みは旅商人の夫婦が、とサンディが教えてくれたこともある。

ある事情で普通とは違う人生を送ってきたシェルにとっては、この虹色の松明亭の傷や染みは歴史の積み重ねを感じさせてくれるものであり、どんな豪華な調度品にも負けない魅力を見せてくれるように思っているのだ。

春が今座っている椅子も、シェルが滞在する前に住んでいたドワーフが酔っぱらった勢いで壊してしまった物を、翌日サンディとレインに謝りながら直したものである。


「えっと・・・オラーヴァさん。」

「シェルでいい。」

「じゃあシェルさん。なにから話せばいいか・・・。」

「そうだな・・・まず君は何者だ?どこから来た?」


シェルはまず、春に対する最大の疑問をぶつけることにした。

春は一つ頷くと少し考えてから話し出した。


「わたしは日本という国から来た・・・というか、いつの間にかここにいたというか・・・。何者・・・と言われても高校生になったばかりで、家は父が建築関係の社長をしていました。」

「ニホン?・・・・コウコウセイ?・・・・シャチョー?」


春の説明下手に加え、シェルには聞いたこともない言葉ばかりだった。


「あーえっと・・・どう言えばいいんだろう・・・。高校生は学生で、社長は商売するときに一番権限を持ってる人?なのかな・・・」

「学生はわかるが、シャチョーとはギルド長のようなものか?」

「多分・・・だいたい合ってるとおもいます。」


シェルの頭の中でライオネルがガハハと笑っている姿が浮かんだ。そうかあれをシャチョーと言うのか。


「それで、あそこに飛ばされてきた理由はわかるか?。俺は激突されたから飛ばされてきたという表現にしたんだが。」

「激突?・・・・・・・・・・・あ・・・あーーーーー!!!!」

「なっなんだ!」


突然声を上げる春に、ビクッとして若干身をそらすシェル。


「すすすっすいませ~~~~ん!!!わたしシェルさんの顔に頭から突っ込んだのを今思い出しましたぁ!!」

「覚えてたのか・・・」

「はひ・・・・」


がばっとテーブルの上に頭を下げたシェル。なにやら耳まで真っ赤になっている。


「気にするな・・・別に怒ってないから。」

「あうぅ・・・初対面の人に頭突きとかわたしってば・・・・・・あれ?」

「どうした?」

「わたしがぶつかったのってシェルさんですよね?」

「・・・そうだが?」

「でもわたしが覚えてるぶつかった人と今のシェルさんって・・・そのなんていうか・・・」

「ああ。」


シェルは一人納得する。


春が覚えていたシェルの顔は月の魔力を集めたときのものだ。

魔力を取り込んだシェルは一気に若返り、10代後半から20代前半ぐらいの見た目になるのだ。

対して今のシェルは人間で言う40代半ばほどの見た目になる。

春が疑問に思ったのも無理はない。それをシェルが説明すると、


「なるほど・・・じゃあやっぱりここって・・・」

「何か思い当たったのか?」

「はい・・・」


ふと目を閉じた春はすこし考え込んだあとそれを告げた。


「わたし、たぶんこことは違う別の世界から来たんだと思います。」

「別の世界?・・・ああ、ハルは『旅人トラベラー』なのか。」


と、春がそれはどういうことなのか問おうとした所で、シェルの部屋の扉が開いた。


「ハルちゃ~ん。チューリパイ持ってきたわよっ。」

「わぁ!ありがとうございますっ!すごいっ美味しそう!」

「そうよぉ~。今日のは特に出来がいい感じっ。」


サンディが持ってきたチューリパイに、目を輝かせながらはしゃぐ春。

お前・・・さっきあんなに食ってたじゃないか・・・とジト目で見ているシェルに、


「あ、シェルちょっと・・・・」

「なんだ?」


サンディに手招きされ、チューリパイに手を伸ばしはじめた春を置いて廊下に出る。


「ハルちゃんが食べた食事の料金なんだけど・・・。」


サンディにその金額を耳打ちされたシェルは、驚愕の表情の後がっくりと項垂れたのであった。





補足です。


この世界の通貨は


1モン=4円 穴が開いた小銅貨1枚

1セン=40円 穴の開いていない大銅貨1枚

1イエン=4000円 小銀貨1枚

10イエン=40000円 大銀貨1枚

1リョー=40万円 小金貨1枚

10リョー=400万円 大金貨1枚


この世界では金の相場で貨幣価値が変動するためちょっと半端な数字にしてみました。

ちなみに春が食べた金額は6イエンほど。

虹色の松明亭の宿泊費用が1日50セン(2000円)


春ちゃん食べ過ぎです・・・

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