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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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2話「目覚めと腹の虫」

魔猟犬ガルムと戦闘中によくわからん魔方陣が発動してな、現れた女の子に激突されたら魔猟犬ガルムが消えた。」

「・・・は?」


ライオネルから、こいつ大丈夫か?的な顔を向けられ苦笑するしかないシェル。


「まあ何を言ってるか分からないと思うが俺もわからん。だが事実だけ述べるとそうなるんだよな・・・」

「・・・お前が嘘の報告をするとも思えないがさすがにそれはな・・・」


言葉を端折り過ぎたか、と重い詳しい状況をライオネルに聞かせる。

シェルの『右腕』のことはライオネルも知っているため隠す必要もなく、ありのままを報告する。


「つまりお前の『あれ』がその娘が飛び出してきた《穴》の起動キーになったということか?」

「多分そういう事だろうな。だが魔方陣自体は元々そこに設置してあったようにも思える。」

魔猟犬ガルムの動きもお前をそこに誘導していたように思えるな。よしわかった!!!追加調査はお前にまかせる!!!」

「はい?・・・」


いきなり方針を決めるライオネル。即断即決。それが彼の信条なのだ。


「いいのか?」

「というかお前にしか頼めないだろうが!3日後、もしくは娘の意識が戻って事情を聴き次第もう一度森へ迎え!」

「・・・了解。」

「リエラ、依頼書の作成は頼むぞ!」

「はいお父様。」


傍に控えていたリエラへも指示を出す。

こうしてシェルは追加調査の依頼を受け、ギルドホールを後にしたのであった。




夕方、虹色の松明亭に戻るとロレインが来ていた。


「あ、シェル!おかえりっ!」

「ああ、ただいま。」

「報告はおわったの?今朝までギルド長おっさんが『シェルはまだかー!』ってホール内をうろうろしてたから。」

「挙動不審なのはいつものことだろ・・・。」

「それもそうね・・・」


報告が少しでも遅いと、ギルドホール内をうろつきはじめるライオネルはある意味リムリオ冒険者ギルドの名物とも言えた。

見ているほうは気が気じゃなくなる名物だが。

知らない人や新人冒険者には、威嚇されてるように感じるらしい。

ある程度ライオネルを知っている者の間では、《冬眠明けのライオネル》という呼び名で生暖かい目で見られている。

鬼というより熊だな・・・とシェルも心の中では思っていたりする。


「とりあえず疲れたしメシ食って寝るかな。」

「大変だったみたいだね。私も明日から浸食調査依頼にいかないとだから、ご飯食べたら借り部屋に戻るかな。」

「おーう。気を付けて行けよ。」

「うん分かってる。今回は6人パーティーだからよほどじゃない限り大丈夫だと思うけどねー。」

「シェル・・・ちょっと来て。」


見ると、サンディが階段のほうから手招きしていた。

何やら表情がこわばっている。


「ん?なんだ?」

「いいから来て・・・」


サンディに導かれるまま自分の部屋の前まで行く。


「ねぇシェル。あの子大丈夫なの?」

「・・・なんかあったのか?」

「見ればわかると思う・・・」


部屋を入りぐっすり寝ている少女を見て、シェルは目を見開いた。


「病気なのか?・・・」

「わかんないけど・・・お昼までは普通だったんだよね。でもさっき様子を見に来たらこうなってて・・・」

「・・・」


今朝連れてきたときの少女は言っちゃ悪いが『太って』いた。


だが今シェルの目の前に寝ている少女は、『痩せて』いたのである。

ある意味年相応の体型にはなっているが、半日ほど見ない間に変わっていたのだ。

明らかに異常である。


「一応医者にも診せたほうがいいか。」

「そうだねぇ。ずっと寝たままだから心配だし。」

「じゃあアンドルフ先生あたりを呼んでくるか。」


医者を連れてくることを決めて2人が部屋を出ようとすると、


「んっ・・・・」


背後の少女が少し声を出して身じろぎをした。


「起きたみたいだねぇ。」

「ああ。」


シェルとサンディが近寄ると少女はゆっくりと目を開けた。


「大丈夫?気分はどう?」

「ここは?・・・」


少女はサンディとシェルを交互に見つめ、問いかけてきた。

寝起きのままで混乱をしているのか、何度も瞬きをしている。


「ここは城塞都市リムリオにある、虹色の松明亭って酒場宿よ。」

「じょうさいとし?・・・にじいろ?・・・」


ゆっくりと自分に問いかけるように呟く少女。と、突然、


「ふぇ?・・・・・あーーーーー!!!!」


と叫んで飛び起きた。

そして自分の身体をペタペタと触りシェルたちを見つめ、


「・・・生きてる?」

「生きてるな。」

「生きてるねぇ。」


問いかけてきた少女に頷く2人。


「はぁ~・・・生きてたんだ・・・よかった・・・。」


少女は溜息をつき床に目を落とした後、気が付いたようにキョロキョロし始めた。

小動物みたいだな・・・とシェルはふとリスを思い浮かべた。


「あの・・・ところであなたたちは?あっわたしは五十鈴いすず はると言います。」

「わたしはサンディ・トーチスよ~。そしてこっちが――」

「――シェル・トレス・オラーヴァだ。」

「シェルがあなたをここに連れてきたのよ~。」

「そうなんですか?・・・」


自己紹介を終え再びキョロキョロし始めた春に、シェルは連れてきた状況を述べる。


「・・・とまあそんな感じで森に置いておくわけにもいかなかったんでここに連れてきた。」

「そうだったんですかー・・・、ありがとうございま『ぐうぅぅ!きゅるるる~!』ふぁあっ!!!」


シェルにお礼を言いかけた春のお腹から、盛大に音が聞こえてきた。

湯気が出そうなぐらい真っ赤になった春は、慌ててお腹をペタペタしている。


「あらあら~。お腹空いたのね~。今旦那に言って何か作ってこさせるわね~」

「はっはひっ・・・ありがとうございます・・・」


きゅるきゅる音を鳴らしつつ春は恥ずかしそうにサンディに頭を下げた。



こうして春は、目覚めたその日に10人前の食事を平らげるという、虹色の松明亭始まって以来の大食い記録を打ち立てたのであった。



書いてるうちにお腹が減ってきました・・・

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