2話「夕焼け」
「!&%¥△$□*〇?!!!!~~~~~~」
あまりの痛さにうつ伏せのまま頭をおさえて足をじたばたしていた。
そして段々と気が遠くなっていく・・・
交通事故で人生終わりかあ・・・
お母さん・・・先立つ不孝をお許しください・・・
あ、ジョイフルの新メニュー明日からだったなあ・・・食べたかった・・・
あーあ・・・どうしてこうなっちゃったんだろう・・・・
声にならない声を出しながら、薄れていく意識をわたしは手放した。
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わたし 五十鈴 春は今年高校に入ったばかりの16歳です。
趣味は料理と食べ歩き。行きつけのファミレスは《ジョイフル》。
父は建設関係の社長をしていて、婿養子。
母とは仕事で知り合ったらしい。
今でも見ているこっちがドン引きするぐらい毎日イチャイチャしている。
そんな両親です。
最近の悩みは、ちょっと太ってきていること。
うん・・・ちょっとね・・・多分・・・。
高校受験のストレスで美味しい物と見れば沢山食べていた結果・・・見事に太りました・・・
でもしょうがないよね。美味しいものは正義だし・・・うん、しょうがない。
いいもん!好きな人が出来れば痩せる努力するから大丈夫!
そうそう、中学までは三つ編みにして伸ばしていた髪も、無事合格の通知が来た次の日にばっさりと肩で切り揃えてみました。
それまではお母さんにセットして貰っていたんだけど、折角なので美容室で切ってもらった。
初めて入る美容室と今までと違う髪型になっていく自分を鏡で見ながら、大人になった気分でウキウキしていました。
学校の成績は中の上ぐらいで得意科目は数学と家庭科っ。
他はうーん、普通っ。
体育以外ね・・・。
ちなみにわたしの通う高校は進学校です。
女子は青いスカーフのセーラー服で男子は学ラン。
今時ちょっと珍しいぐらい古風な学校かもしれない。
意外と校則も先生もそんなに厳しくなく、生徒もさほどグレる人が少ないのでのんびりした高校だ。
男女比率は女子が7で男子が3ぐらい。
先生たちも大体そんな比率だ。
なので昼休みや放課後になると女子生徒と女性教諭が一緒になって女子トークをしている場面もたまに見かける。
大抵うちのクラスの担任の明子先生だけど。
もうすぐアラサーなのに女子高生と同レベルのおしゃべりしてて大丈夫なんだろうか。
うっ背筋に寒いものが・・・
そんな感じで季節は過ぎて行き、9月になった頃。
夏休みの余韻も多少引きずっている感じの生徒が多いけど、特に何事もなく平和に学校生活を満喫していた。
あの日までは――
「はるっち、明日の放課後ってなんか予定ある?」
下校時、校舎から出た所で小学校からの友人美香子が彼氏を連れ立って尋ねてきた。
容姿端麗、頭脳明晰。そんな言葉が似合う友人だがなぜかわたしと馬が合い、喧嘩らしい喧嘩もしたことがない。
当然そんな美香子は男子女子問わずに人気で、貰ったラブレターは数知れず。そして告られて振ったのも数知れず・・・
そんな彼女だが、最近幼馴染の一馬君と付き合いだしていつもペアで行動している感じだ。
が、なぜかそこに私も混ぜられて3人で行動することも多い。
「んー、明日はジョイフルで新メニュー出るから帰りはそっちかなあ。」
「あ、明日なんだ。じゃあさ、カズマ君と一緒に行っていい?」
「いいけど・・・。それ別に私と一緒じゃなくてもいいよね?カズマ君とデートにすればいいじゃん。」
「やだ!はるっちも一緒がいいの!3人のほうが楽しいじゃん!」
とまあ、若干残念な思考の友人なのだ。
ちなみに、等の一馬君にそれを言ったら。
「そこも含めて美香子が好きなんだからいいじゃん。」
と惚気られた。
横でそれを聞いてた美香子が目をハートにしてる・・・
あーはいはい、ごちそうさま・・・
「ところでなんで明日?」
「明日はカズマ君の誕生日なの。だから一緒にお祝いしたくて。」
「それって、ますますわたし要らないよね?」
「だめ!一緒じゃなきゃやだー!」
と、ごねてぴょんぴょん跳ねる美香子。
「駄々捏ねる美香子も可愛いな。」
「・・・はいはい」
そんな感じで残念カップルとわたしの3人で夕焼けの中を下校していた。
そしてその時がきた――
美香子たちと別れ、家路を歩く。
「今日の夕飯は何かなあ~。」
そんなことを呟きながら神社の前を通ったとき、「それ」を見つけた。
「?」
ふと神社の前の道路を見ると、黒い服の少女が立っている。
なんとなく気になって立ちどまると、その少女もこちらを見た。
腰までの黒く長い髪。白い肌。そして一番の特徴は『青い目』。
思わず見とれてしまうぐらい綺麗な女の子だった。
『見つけた。』
と、少女がこちらを見て言った。
「え?」
と尋ねようと近寄ろうとしたときに気づいた。
少女へ向かってトラックが猛スピードで走ってくる。
「あぶない!」
声を少女にかけるが動かない。
トラックの運転席を見ると、運転手は少女に気付いてない感じだ。
まずい。
そう思った瞬間、私は少女へ向かって走り出していた。
太めの身体に気合いを入れて走り少女へと手を伸ばす。
すると、少女もわたしへ向かって両手を伸ばしてきた。
迫るトラック。
運転席では私に気付いた運転手がなにか叫んでいる。
そして少女へ向かって飛んだそのとき。、
キイイイィィィ!!!
タイヤの擦れる音が遠ざかって。
『あなたに、種を。』
そう少女の声がした。
ゴガ!!!!!
そうしてわたしは『その人』の顔面に頭突きをしたのであった。