1話「森の襲撃者」
月夜の森、漆黒の影が舞う。
「チッ」
獣の息遣いを背後に感じながら影は小さく舌打ちした。
一閃。黒い身を翻し、追ってくる獣へと左手でスローイングナイフを二本投擲する。
「ギャッ!」
獣の鼻と首にナイフが刺さり悲鳴をあげる。
倒れこむ獣を一瞥し、再び逃走する男。
さらに後方から多数の気配を感じたからだ。
「まったく・・・この森には魔猟犬なんぞいなかったはずなのにな・・・」
走りながら周りを確認すると、前方左方向からも魔猟犬の気配が近づいていた。
男は左手で腰の剣を抜き臨戦態勢で駆ける。
視界が多少開け、月明かりに照らされた。
「ガウゥ!」「ガアァ!」
茂みから唸り声をあげて2匹同時に魔猟犬が飛び出してきた。
男は左手に持った剣ですれ違いざまに斜めに切り払う。
絶命の声もあげずに2匹は転がるが、男はそのまま目もくれずに駆け抜けた。
月に雲がかかり、辺りは再び闇に包まれる。
魔猟犬との遭遇から十数分。その間に男が倒した数は15体。
だが、その魔獣の気配だけは増える一方だ。
魔獣《魔猟犬》。低レベルながら厄介な相手だ。
個々の能力は低いが集団戦に長け、冒険者がもっとも相手にしたくない魔獣の一つだ。
常に30体からの群れで行動するため、囲まれないためには移動しながらの戦闘を余儀なくされる。
さらに厄介なことに、1匹殺すとその死の匂い(死臭によるマーキング)で目標を定められ、近場の群れも集まってくる。
「囲まれた・・・か?」
男は立ちどまり周囲を見渡しながらつぶやく。
懐から赤い魔石の嵌った六角形の索敵用魔道具《探知眼》を取り出しマナを流して起動する。すると視界に次々と赤い光点が現れる。
その数およそ300。さきほどまでの戦闘で10個ほどの群れが合流したことになる。
男を中心にサーチの光点が円を描くように真っ赤に染まっている。
魔道具を停止させ、懐に仕舞い、再び剣を構え、考えを巡らせた。
この森に入ってからの違和感や、状況、魔猟犬との立ち回り。群れの合流までの時間。
それらを踏まえてある考えがよぎる。
「使役者がいるな。」
一般的に魔獣とは生態系に合った地域にしか生息しない。
にもかかわらず、魔猟犬の生態とはかけ離れたこの森に出現したこと。そして、冒険者として熟練のこの男が手を焼くほどの統率された動き。なによりその数が異常だ。
間違いなく魔猟犬を使役する魔獣使役者が居る。
「やるしかないか。」
男はため息をつき、剣を鞘に収めた。
今宵は満月。
男は目を閉じると、黒いマントを翻し右腕を前に突き出した。
いや、
右腕は肘から先が無かった。
男は目を閉じたまま、あるはずがない右腕へと力を込める。
再び月が雲から現れ、男の居る場所を照らした。
すると・・・
月の光が男へと収束する。
いや、本来右腕があるところへと光が集まってきた。
光は徐々に腕の形へと変わっていき、同時に強い魔力を発し始める。
神の手。悪魔の手。
見る人によってはそう形容されてもおかしくないほどの力がその黄金の腕にはあった。
事実、それに近いものではあるのだが・・・
さらに光の収束が強まるほど、その男の顔が若返っていく。
さきほどまで40代半ばほどであったその顔が、今は10代と言われてもおかしくない整った顔立ちに変わってきていた。
そしてその右の手の平には光が集まっていき、光の剣を形作っていく。
そしてそれを掴もうとした瞬間、光の剣は力が収束しきらずに光の粒を残して弾け散った。
と、突如男の背後にも異変が起きる。
それを察知した男が振り返るとそこには。
「なんだこれは・・・」
紫色の淡い光を放つ《穴》。それが何もない空間に形成されていた。
その異様な光景に呆気を取られ見つめる男。
そして気づいた。
自分が右腕に込めた魔力がその《穴》へと吸い取られていく。
いつのまにか足元には魔方陣が敷かれている。
そしてそれは次々と積層拡大していき・・・
「まずい!」
《力》を解除しようともがくがすでに遅く、男の身体も術式の一部として組み込まれてしまっていた。
懸命にもがき魔方陣から逃れようとし、目の前の《穴》をふと見た。
《穴》はぶるぶると震えているようにも見える。
まるで何かを産み出そうとしているかのように・・・
術式に組み込まれてしまった男は、ただそれを見ていることしかできない。
そしてさらに魔力が吸い込まれていき、「穴」は一際強い光を放った。
「神の誕生」
ふと男の脳裏にそんな言葉がよぎる。
と、そのとき
ゴガ!!!!
《穴》から飛び出してきた何かに、男は顔面を強打された。
「ぐああぁ・・・・」
男は顔面を抑えてうずくまる。
予想外の痛みに男は混乱した。
「なんだってんだ!」
ずきずきする顔を抑えて立ち上がり、魔猟犬に囲まれていたことを思い出して再び剣を構えた。
鼻からはさきほどの衝撃でぼたぼたと鼻血が流れている。
周囲を警戒するが、
魔猟犬の気配は消え去っていた。
「ぐうぅ・・・一体なんなんだ・・・」
とりあえず自分の顔面を強打したものを確認しようと足元を見て、男は唖然となった。
「・・・は?」
そこには、
見たことのない服装のぽっちゃりした少女が頭を押さえてうずくまり、じたばた悶えていた。
皆さま初めまして。狸森と申します。
初めての投稿作品になるのでかなりドキドキしております・・・
文章を書くのもまだ慣れていないため表現等イマイチな部分があると思いますが、生暖かい目で見ていただけたらとおもいます。
不定期更新になるとおもいますがよろしくお願いします~。