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「…ちゃん? おーい、蓮華ちゃん」
自分を呼ぶ声にハッとした蓮華は、頭を上げる。
在籍する2組の学級委員である水谷はるが心配そうな顔で蓮華を見ている。
「谷ちゃん、おはよう」
蓮華は、そう言って座席に座り直した。
「おはよう。具合が悪いんじゃないよね? 」
「元気だよ。ちょっとボーっとしちゃったみたい」
「そう? なら良いけど。もし何かあったら言ってね」
「心配してくれて、ありがとね」
安心したような、はるが「いいえ」と言って蓮華の席を離れた。
が、また戻って来て言った。
「言うの忘れてたけど、蓮華ちゃん、顔に寝跡みたいなのついてるよ」
蓮華が両手で顔を確かめると左頬にそれらしい感触があった。
「本当だ」
はるは蓮華の反応にほほ笑んで自分の席に戻っていった。
今日は何だかこんなのばかりとため息をついた蓮華は、机の上に置いたままにしていた、顔の跡の直接の原因であろう黒革の通学鞄を机の横にかけた。
そして、頬ずえをつくとまた、電車内での自分の行動に思考を集中していった。