吸血三兄弟
吸血鬼とは、本来貧血な人間の派生生物なのだと思っています。
俺ら三兄弟は吸血鬼の血族の末裔である。
末裔とは格好良く言っているが、正直なところなんか生き残ってしまった的な存在だ。
何年も前にあった吸血鬼を滅ぼすための戦争が起きたのだが、それにほとんどの吸血鬼が参加したようで、ほぼ全滅してしまった。
で、生き残ったのが俺らってわけ。
でもあの時の戦争は大変だったらしい。
まさか人間が俺らの弱点である、にんにくとか十字架とかを空から振りまいてくるなんて思いもしなかった。完全にしてやられたというわけだ。それで身動きが取れなくなった吸血鬼たちは、ほとんど成すすべもなくやられてしまったというわけだ。
次男の俺と、長男の兄貴。そして末っ子三男の弟。
俺たちはその戦争のことを人づてでしか聞いていない。なんとか生き延びて俺たちに逃げるように伝えに来た人から聞いただけだ。
まぁ何をしていたかというと、弟の世話を命じられたのだ。それで弟を溺愛している兄貴がくっついてきて、兄貴から逃げ延びるためになんやかんやしていたら、参加しそびれて今に至るというわけだ。
兄貴の弟への溺愛っぷりといったらもうたまったもんじゃない。好きなものは買ってやるわ、弟の写真のアルバムの数はすでに2桁まで達してるわ、食べ物は自分の3倍の値段をかけるわで、家計はすでに火の車だ。いや、半壊くらいまで来てるかもしれない。
兄貴は一応人間社会の中に紛れて爽やか社会人として生きている。俺もアルバイトをして生きている。
弟はまだ小さいから家で留守番してることが多い。
吸血鬼とは言っても人間と変わりなく、見た目通りの精神年齢なのだ。日光による紫外線も帽子と長袖でなんとかなる。UVカット様々だ。
食事だって、血を吸わなくても、キチンと血液とほぼ同じ成分の栄養素を摂るようにすればなんてことはない。グリコーゲンにブドウ糖、ナトリウムにクレアチン、カルシウムに鉄分などなど。もう慣れたもんんだ。足りないものはサプリメントで無理やり補うこともできるから、現代社会なら全然生きていける。日本という国は素晴らしい。
今もこうしてそんな栄養素のことを考えながら俺が夕食を作っていたところだ。
あとは兄貴が帰ってきて、温めるだけにしておけばオッケーだ。
テレビを見ているはずの弟元へと行くと、床に寝っ転がってスヤスヤと寝息を立てていた。
「まったく…こんなとこで寝てると風邪ひくぞ」
「んーむにゃむにゃ…」
「ったく…」
可愛い顔して寝おってからに…
俺はそんな弟をヒョイっと持ち上げて、ソファの上に運ぶ。
「ほれ。寝るならこっちで寝ろ」
「んーー」
「ほら、降りろっての」
「んーんー」
俺にしがみついて離れない。
仕方ない。
そう思って、俺がソファに座って背もたれによりかかり、弟が俺に抱きつくようにして胸の位置で寝息を立てている。
俺はテーブルの上に置いておいた赤しそジュースが入ったコップを取った。
それを一口飲んだところで、玄関がガチャっと開く音がした。
「ただいまー」
「おう、おつかれさん」
「いい匂いだなー」
「腹減ってんの? じゃあすぐ準備するわ」
「ってちょっと待て!」
俺が弟を下ろして飯の支度をしようとすると、兄貴が叫んだ。
「動くなよ…動くなよ…」
「何写真撮ろうとしてるんだよ。カメラ構えるな!」
小声での戦闘が始まった。
「何枚も寝顔撮ってるんだろ! もういいじゃねぇか!」
「馬鹿か! この寝顔はまた違うだろ! 次男として弟の寝顔の区別もつかないとか…それでも次男か!」
「知るかバカ兄貴! だから撮るなっての!」
「一枚だけ! 一枚だけだからお願い!」
「ダメに決まってるだろ! 起きちゃうっての!」
「なんでよ! 一枚ぐらいいいじゃん!」
そう言って俺の顔に顔をくっつけて、肩口から弟を覗き込もうとする兄貴。
「くっつくな! 暑苦しい!」
「いてて…」
力を入れて顔から顔を離した。
「最近お兄ちゃんに冷たくない?」
「…………気のせいですよ」
「何その間! しかも敬語!」
「いいから着替えてこいよ!」
へいへい、と言いながら、本当に心底渋々といった顔で自分の部屋に着替えに行った。
俺は背もたれに寄りかかって、大きくため息をついた。
こんな俺たちだけど、今も人間社会で平和に暮らしてます。
「んーむにゃむにゃ…」
おしまい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
評価してもいいのよ?
ツイッターリクエストして描いてもらった絵参考に小説を書き上げました。
興味があったら見てみてくださいませ。