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掌編小説

履歴書とインターネット

作者: 斎藤康介

 わたしの人生を履歴書の上から眺めれば、まずまずといったところだろう。

 地元の公立高校を卒業後、東京の大学に進学、卒業。

 いまは医療機器メーカーに勤め毎日を忙しく過ごしている。プライベートでは知人に紹介された歳上の女性と付き合って一年。まだ結婚は考えていないが、頭の片隅に選択肢としてあった。

 自分ではまずまずと言ったが、友人の言を借りれば「上々」ということだった。その時は酒も進み無遠慮に話をしていたが、わたしは口をつぐんでしまった。


 主体性のない人生。


 それがこれまでの《わたし》に対する正直な感想だ。どれほど履歴書が立派でも、そこにわたしの主張はなかった。その場その場で周囲に合わせ、あたかも自分の意思のようにふるまってきた結果だった。

 だからいまが満足かと問われれば素直にうなずくことができなかった。いま以上に望むものがあるわけでもない。不満があるわけでもない。手が届く範囲で臨んできた最善が《今》にも関わらず、わたしはうなずくことができなかった。

 なぜかと考えれば、わたしは精神の根本的な部分で自分が存在していることの不安があるのだ。理由など説明できない。何か劇的な要因でもあったら自身を納得させることができるかもしれないが、そんなものはどこにもなかった。ただ不安だけが身体の内側に確固としてあり、わたしは日々それを恐れていた。他のことはすべて副次的なことだった。

 不安は時折わたしの心を強く襲った。そうなると自分が地面に足を着け、ここに在ることすら充分に信じることができなくなった。街に飛び出し行き過ぎる人たち誰彼かまわず自分が一体何者であるのか問い正したかった。他人の目を通じて自分の存在を確定させたかった。

 しかし実際にはそんなことはできない。だからインターネットのなかに逃げ込み、必死になって自分の名前を検索した。

 どこかにわたしの知らない《私》がいて、この頼りない心を支えてくれるのではないかと願って……。

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