6話 間違った決意
敦さんの死から10日が経った。亮には御通夜以来会っていない。亮どころか美咲や理沙とも会っていない。たまにメールするぐらいになってしまった。正直寂しい。友達が少ない僕には他の友達と遊ぶという選択肢は使えず、ただ家で1人でいるしかくない。超退屈だ。
そんなこと思っているとメールが来た。ゆっくりとした動作で無動作に落ちている携帯を取り、メールボックスを見た。亮からだった。内容は『今日俺の家に来て欲しい』というものだ。
「………いっよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一気にハイテンション。もう会えるのが嬉しすぎて嬉しすぎて。友人と会うのってこんなに嬉しかったっけ?
僕は最高速で準備をして自転車を走らせた。
いつもは10分くらいかかる亮の家に6分で着くという神業(?)をし、現在亮の家のインターホンの前。高速で自転車を飛ばした後にも関わらず、疲れを無視して胸を踊らせながらインターホンを押そうとした。
…ちょっと待て。僕はインターホンを押そうとした手を下げた。
先日家族が死んだ家にうきうきと入っていいのか?駄目に決まってるだろう!くそっ、僕は何て軽い気持ちで来てしまったんだ!この!
僕はさっきまでへらへらしていた顔を思いっきり殴った。よし、これでいい。亮、すまなかった。後で今度は面と向かって謝るよ。
そんな決意をして今度はちゃんと真剣にインターホンを押した。
「…はい?どちら様?」
「亮、僕だ」
「…わかった」
心なしか、インターホン越しの亮の声は暗かった。まだ立ち直ってないのか?そう思っていると玄関の鍵が開いた音がした。
待ってろ亮、この親友が元気付けてやるからな!!
玄関のドアを勢い良く開けた。
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!くらえ、真空飛び膝下蹴り!!」
「ぐっ……はぁ………!?」
玄関のドアを開けた瞬間、亮の飛び膝蹴りが僕の顎にクリーンヒットした。
「おい、おせ~ぞ!待ちくたびれちゃったよ!!いや~それにしても見事に決まったなおい!流石のお前も暫くは動k「死ねオラァァァァァァァァ!!!!」ゲフッ!!?」
亮の言葉を遮り、僕のタイキックが亮の脇腹に鈍い音を響かせた。
「またか!?お前は一体何回僕のシリアスモードを奪えば気がすむんだ!?」
うずくまる亮を踏みつけながらありったけの文句を言った。
「痛っ!だ、誰がお前のシリアスモード何かいるか!お前の何か所詮シリアルだよ!」
「上手く言ったつもりか知らないが、全然面白くないからな!?」
「てか、シリアルって何だよボケ!」
「意味知らねぇで使うな!てかボケだと!?逆切れしやがって、この馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫んで亮にローリングサバットを打ち込んだ。
天気は快晴。心地のよい風が吹いている。そんな日に蝉の音と亮の断末魔の二重奏が地域に響いた。
「いてて、何も蹴ることないだろ~」
「いや、お前から蹴ったよね?しかも飛び膝下蹴り」
「いやだってさ、久しぶりに会うから嬉しくてはしゃいじゃったよ!」
「全く…」
ローリングサバットを鳩尾にくらい気絶していた亮を、右ストレートを鳩尾に当て無事に(?)起こすことが出来た僕は亮の家の玄関で靴を脱いでいる。
てか、嬉しすぎて飛び膝蹴りってどうなの?まぁ僕も暫く会えず、寂しくて会えて嬉しかったからその喜びはわかるけど…
「お、俺に会えて嬉しいとか珍しいこと言うな(笑)そんなに寂しかったのか~(笑)」
心読まれた!?
亮とやり取りをしている内に亮の部屋の前に着いた。
「あ、俺飲み物とか持ってくるわ。お前先に入ってて。理沙と美咲はもう居るから」
「あ、わかった」
亮は下に降りて行った。
さて、入ろうか。あの部屋の中にはさっきのような亮(馬鹿)は居ないだろうからな。
僕はドアノブを回し中に入ろうとした。
目の前に迫ってくる何かにデジャヴを感じた。
「………だか…はしゃぎ過ぎなんだよ、ったく」
「うぅ、そんなつもりはなかったんだんだよぅ…」
目を覚ました。どうやら気絶していたらしい。目を開けると亮と美咲が話しているのが見えた。美咲は少ししょんぼりしている。
てか、何で僕は気絶してたんだっ………あ。
「美咲ぃぃぃぃぃ!!よくもやってくれたなぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ったく!何で出会い頭に二度も飛び膝蹴り食らわなければならないんだよ!何だ!?何か恨みでもあんのか!?」
「…ごめんなさいでした。言い訳させて下さい」
「言ってみろ」
「…驚かそうと張り切ったら、飛び膝蹴りになっちゃいました」
「………はぁ~、それじゃあしかたねぇか!うん、しかたねぇな♪」
美咲だもんなぁ、うんうん仕方ない、仕方な……くねぇ!!仕方なくねぇよ!何で張り切って飛び膝蹴りになったの?」
「ううぅ、ごめんなさいぃ~……」
美咲は半泣きしている。
「ははは、もういいじゃねぇか。許してやろうぜ」
「そうだな、もう許してやるとするか」
ずっと無駄話してたら話が進まないしな。
「で、今日は何で集合したの?」
理沙が亮以外の皆が気になっていた事を質問した。
理沙が質問した直後、これまでヘラヘラしていた亮が少し真剣な顔をした。
少し重たそうな動作でゆっくりと口を開けた。
「今日集まってもらったのは、まぁ下らないと言ったらその通りなんだけど、今から話す話題は、まだ心霊スポットに行くかだ」
『まだ心霊スポットに行くか』その言葉を聞いた瞬間、皆真剣な顔をした。
普通なら『え~もう怖いからやだ~』とか、『いいじゃん!行こうぜ!』など皆でワイワイと盛り上がる所だろう。
だが、今回はそうはいかない。理由はひとつ、敦さんが亡くなったからだ。それも、心霊スポットに行った後直ぐにだ。僕も含め他の3人も霊の呪いで死んでしまったと頭の中に印象付けられてしまった。
霊の仕業と決まった訳ではない。しかし、心霊スポットに行った直後の出来事となれば、霊の仕業と勝手に決めつけてしまうのも無理はない。
もはや、心霊スポットに行きたいと言う人はこの中にはいないだろう。
誰も何も言わずにしんとしている中、亮が静かに、けどこの空気を変えるには十分な一言を口にした。
「俺は…また行こうと思う」
「な、何言ってんの!?敦さんがあんな事になったんだよ!もう止めようよ!」
真っ先に反論したのは理沙だった。普段はあまり大声を出さない理沙が、多分今まで聞いてきた中で一番大きな声を出していた。それほど行きたくないのであろう。兎に角二度と行きたくないらしい。そしてそれは僕も同感だ。
「悪いけど、僕も理沙と同じだ。危険すぎる
」
「わ、私もちょっとそれは……」
僕の後に続き、美咲も亮の意見に反対した。
亮の意見に賛成する者はいなかった。
と、黙って聞いていた亮がおもむろに口を開いていった。
「…俺さ、ずっと考えてたんだ。敦が死んじまったのは本当に霊の呪いとかなのかって。最初はそう思ってた…けど、やっぱり納得がいかなかったんだ。敦が、俺のたった一人の兄貴が霊なんて良くわからないやつのせいで死んでたまるかって…」
亮の声は微かに、本当に微かにだが震えていた。
「だからさ、俺、確かめたいんだ。本当に敦が霊で死んじまったのか。もう一度だけ心霊スポットに行って本当に呪いがあるのか確かめたいんだ。危ないのは十分わかってる。でも、それでも確かめたいんだ…」
皆は亮の話をこれ以上ない程真剣な表情で聞いている。
一拍置いて、また亮が話を始めた。
「これは俺個人の事だ。ついて来るも来ないも個人の自由だ、好きにしてくれ。もし一人で行く事になろうが俺は行く。それだけだ」
亮の話は終わった。